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- 2020/01/28 掲載
ネット証券「手数料は無料」の時代到来、なぜ今? 各社の狙いは? 本当にお得?
米国ではすでに多くのネット証券が無料になっている
手数料無料化の口火を切ったのは、ネット証券最大手のSBI証券である。同社は2019年9月、傘下にあるSBI証券などにおける各種手数料を、3年をメドに無料化する方針を打ち出した。SBIによる突然の無料化表明にネット証券業界は騒然となったが、その後、楽天証券、マネックス証券、松井証券、auカブコム証券など競合各社がSBIに追随し、各種手数料の無料化を発表している。
SBIが手数料無料化を打ち出した直接的な理由は、米国のネット証券業界において手数料無料化の動きが加速しており、日本にもこの流れが波及する可能性が高くなってきたからである。
米国では、最大手のチャールズ・シュワブやEトレード、TDアメリトレード・ホールディングなど各社が無料化に踏み切っている。
各社が手数料無料化に舵を切ったのは、収益源の多角化が進んでおり、売買手数料への依存度が低下したからである。シュワブの場合、銀行業務にも乗り出しており、収益(一般企業における売上高に相当)のうち約6割は金利収入となっているほか、顧客の資産を管理するアセットマネジメント業務から得られる収益も3割に達する。株式などの売買手数料は全体の数%にすぎない。
しかも今後は資産運用のAI化が進む可能性が高く、限りなく安いコストで顧客の資産を預かることが可能となる。こうした市場環境においては、シェアを獲得した企業の1人勝ちとなる可能性が高く、多少、無理をしてでもシェアを拡大しておく方が合理的である。
つまりネット証券業界は全世界的に体力勝負の世界に入ったわけだが、この流れはネット証券というビジネスが誕生した時から運命付けられていたといって良い。その理由は、ネット経済が持つ本質的なメカニズムに由来する。
「限界コストゼロ」というネット経済の根本原理
経済学的に見て、インターネットを使ったビジネスには2つの特長がある。1つは「限界コストの低下」、もう1つは「ネットワーク外部性」である。ネットを使ったビジネスは従来型産業とは大きく異なり、成長に必要な限界コストが圧倒的に安く、究極的にはゼロに近づくという特長がある。
限界コストというのは、生産量を1単位増加させるために必要な費用総額のことを指す。たとえば、自動車の製造であれば、生産量を2倍にしたければ、同じだけコストをかけて、もう1つの生産ラインを構築しなければならない。
だがネットビジネスの場合、サーバを増やすといった最小限の投資は必要だが、基本的には利用者が増えれば、その分だけ収益が拡大する。極論を言えば、設備投資ゼロで無制限に収益を拡大できるポテンシャルを持っている。こうした産業構造の場合、手数料を無料にしてでも顧客を獲得しなければシェア争いで負けてしまう。
これに加えてネットビジネスの場合、サービスを利用する人が増えれば増えるほど、そのサービスの価値が高まる、ネットワーク外部性という効果がある。このため、一定のシェアを超えると加速度的に利用者が増加し、そのビジネスの価値も飛躍的に向上する。
こうしたネット経済の基本的なメカニズムが働く以上、ネット上のサービス手数料は限りなく安くなり、莫大(ばくだい)な顧客を抱える企業数社に市場は集約されていく可能性が高い。事実、EC(電子商取引)やコンテンツ、コミュニケーションの分野ではそのような方向に市場がシフトしており、海外では、GAFAと呼ばれるプラットフォーム企業が独占的に市場を支配している。
国内においてもヤフーとLINEが経営統合を決断したが、両社の顧客を足し合わせると日本の人口を軽くオーバーするので、国内に限っていえば、集約化の動きは極限まで進んだといって良いだろう。
【次ページ】無料化の勝負は圧倒的にSBIに有利
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