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3月に成立した70歳就業確保法に続き、年金改正法案も可決成立した。年金が支給される年齢を遅らせられる幅が75歳まで拡大する今回の年金改正は、さらなる年金支給年齢引き上げの布石ではないかとの声もあるが、この改正でシニアの働き方や転職はどうなるのか。より長く働き続けてほしいという国の意図を感じる年金改正がシニアの働き方や生活に与える影響を考える。
70歳就業確保法に続き年金改正法案も成立
この春は、老後に関する法案の成立が続いた。1つは3月に成立した、70歳までの就労機会の確保を企業の努力義務とする「70歳就業確保法」、もう1つは5月29日に成立した年金改正法案だ。
成立した2つの法律はどちらも、より長く働いてもらいたいという国の思惑を感じるものであるが、密接に関連したものではない。70歳までの就労機会確保の法律を先に成立させたからといって、今回の年金改正によって現在65歳へと引き上げ中の支給開始年齢まで70歳になるわけではない。
では、今回の年金改正では、いったいどのような変更があったのだろうか? また、シニアの働き方や転職にはどのような影響があるのだろうか? 年金改正に関するシニアやシニア手前の方の疑問に答えつつ、今後のシニアの労働市場への影響を考えていきたい。
年金改正4つのポイント
まずは、今回の年金改正の内容を見ていこう。今回の年金改正の特徴は、全国民が対象の公的年金制度の改正と、個人が任意で加入する私的年金制度の改正がセットで行われたことだ。そのため、内容にもその両方の要素が入っている。
今回、年金改正でポイントとなるのは次の4点だ。
- 年金をもらう年齢を遅らせられる幅が75歳まで拡大する
- 働くシニアの年金減額基準が緩和
- パートなど短時間労働者への厚生年金適用拡大
- 個人型確定拠出年金(イデコ)に加入しやすくなる
それぞれのポイントがどういうことなのか、具体的に見ていこう。
まず、「1.年金をもらう年齢を遅らせられる幅が75歳まで拡大する」というのは、通常65歳から年金もらい始められるところ、現在は70歳まで遅らせることができたものが、75歳まで拡大するもので、「繰り下げ受給」と呼ばれるものだ。
この「75歳」という年齢は、年金をもらい始める年齢を「選べる上限」であり、「75歳にならなければ年金がもらえなくなる」というわけではない。
では遅らせるメリットは何なのか? 年金をもらうタイミングを65歳から遅らせるメリットは、ズバリ受給額が増えることにある。65歳からもらうよりも大きな金額をもらうことができるのだ。年金をもらい始めるタイミングは、1カ月単位で遅らせることができ、1年間遅らせると8.4%増額する。70歳からもらう場合は42%増額するが、さらに遅らせればさらに増額するため、75歳からもらう場合は最大84%まで増額する。これが最大のメリットとなる。
75歳まで選べる上限が拡大するのは、2022年4月からだ。ちなみに年金は65歳以前から早めにもらうこともでき、その場合はもらえる金額が減る。1年早めにもらうと年間4.8%減額され、60歳からもらった場合、最大24%の減額となる。
60歳から65歳の就業意欲の向上につながる緩和策
次に「2.働くシニアの年金減額基準が緩和」であるが、これは「在職老齢年金」と呼ばれるものだ。働きながら年金がもらえるものの、収入によって年金の支給額が減らされる制度への改正だ。
現在は、賃金と厚生年金の合計額が月28万円を超えると支給される年金が減る。これが2022年4月からは月47万円へと緩和される。ちなみにこれは60歳から65歳までの方の話だ。65歳以上の方は現在でも基準が月47万円となっており、今回変更はない。
まもなく、年金の支給開始が65歳以上になるため、今回の在職老齢年金の基準緩和がどのくらい有効であるかは分からないが、すでに多くのシニアが65歳まで働き続けている現状を考えれば、ある程度の給与額まで年金が減らされずに済むことは、就業意欲の向上につながるかもしれない。
また、厚生年金は原則70歳まで加入できるが、働いて支払った金額分はこれまで退職時にしかもらえる年金額に反映されなかった。今回の改正でこの点も、支払った金額を毎年反映できるようにし、シニアの就労を促そうとしている。
次は「3.パートなど短時間労働者への厚生年金適用拡大」だ。この施策によって、現在国民年金のみとなっている短時間労働者が新たに65万人、厚生年金に加入すると言われている。
現在、パートなどの短時間労働者を厚生年金に加入させる義務を負っているのは、従業員「501人以上」という大企業のみだ。この基準が緩和され、2022年10月からは「101人以上」の企業、2024年10月からは「51人」以上の企業にも、短時間労働者を厚生年金に加入させる義務が生じる。
パートなどで働いていても、老後にもらえる年金が増えることになるため、労働者にとっては朗報だ。一方、厚生年金保険料は企業と従業員が50%ずつ負担するため、加入対象が拡大することで中小企業の負担は大きくなる。
また、弁護士や税理士など法律や会計を取り扱う士業の個人事務所は、これまで対象外だったものが、今回の改正で5人以上の場合、厚生年金の加入義務が生じた。
私的年金制度もさらに使いやすく
最後は「4.個人型確定拠出年金(イデコ)に加入しやすくなる」というもので、上記3点が公的年金制度の話であるのに対して、これだけが私的年金制度の話となる。
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