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  • 2020/09/17 掲載

電子署名は「ためらう必要なし」、内閣府や法務省らが「押印について」発表した事情とは

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6月19日、内閣府・法務省・経済産業省が連名で「押印についてのQ&A」を公表した。押印に関する民事訴訟法上の取扱いや効果、電子署名サービスの利用などについて整理したものだ。この公表の経緯に詳しい一般社団法人Fintech協会の理事で弁護士の落合 孝文 氏と日本組織内弁護士協会(JILA)理事の渡部 友一郎 氏が、この文書が公表された背景や関連する今後の動きなどを解説する。

フリーライター 水野智之

フリーライター 水野智之

名古屋大学情報文化学部卒業。日本ユニシスで主に地方銀行向け業務・システムの研究会やユーザー会の企画と運営を担当。Fintechスタートアップのお金のデザイン等を経て、2019年7月より一般社団法人Fintech協会事務局。

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内閣府・法務省・経済産業省が連名で公表した「押印についてのQ&A」の背景とは
(Photo/Getty Images)
※本記事は、一般社団法人Fintech協会が7月に開催した「押印についてのQ&A」勉強会での講演内容をもとに再構成したものです。一部の内容は現在と異なる場合があります。
※本記事の識者の見解は個人の見解であり、所属する団体の見解ではありません。


テレワーク推進で注目、「押印など制度慣行の見直し議論」

 落合弁護士は「押印についてのQ&A」が作成された最初のきっかけについて、2020年4月27日に実施された内閣府の経済財政諮問会議にあったのではないかと語る。

「新型コロナウイルス感染症拡大対策として財政出動や対応政策が議論されている中、特にテレワーク推進に向けて、押印や書面提出、対面での対応といった制度慣行の見直しの話が出ています。規制改革推進会議で方針を取りまとめて、着手できるものから順次進めてくださいという、安倍総理の指示がきっかけになっていると考えています」(落合氏)

 その翌日の4月28日、規制改革推進会議の本会議が開催され、本件に関する論点が提起されている。一部書面で押印を法令で求めているものがあり、その必要性を検証した上で、不要であれば廃止するべきではないかという点がその1つだ。

「いわゆる事業者規制法などで、必ず押印が求められるものについて、どう考えるかという話です」(落合氏)

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4月28日の規制改革推進会議で提起された内容
(出典:Fintech協会)

 もう1つ重要なのが、契約書面などの書面の真正性担保の観点だ。

「契約書面などの真正性担保、つまり『誰が作ったものか』を明確にするという点です。その上で、商慣習として定着している押印について、民間の事業者で必要性を検証した上で、不要であれば廃止するべきではないかという論点が出ています。そして、必要なものについては電子認証サービスの利用を促すべきという話も出ており、その対象として、契約書、請求書、納品書、領収書などが挙げられています。会議当日に、委員から民事訴訟法228条4項の整理をすることも重要ではないか、という発言が相次ぎました」(落合氏)


押印の法的根拠となっている民事訴訟法228条の4項とは?

 そもそも、民事訴訟との関係で文書に押印する意味を定めているのは、民事訴訟法228条の4項である。そこには「代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」と記載されている。

「文書には、作成者の意思に基づいて作成されたという『形式的証拠力(成立の真正)』が求められます。民事訴訟法228条4項は、それが認められる場合を記述しています。この条文は、文書に作成者、たとえばA社の印鑑を押してあったら、A社が自社の意思に基づいて文書を作成したことが担保されるのです。」(落合氏)

 一方で、「実質的証拠力」と書いている部分については別の問題があると落合氏は指摘する。その文章に記載された内容がどの程度「確か」であるか。たとえ、押印によって「誰が文書作ったか」は分かっても、「文書の内容が正しいか」「事実に基づいているか」といった点だ。

「その文章に判子が押してあるかどうかと文書の中身の正確性は、直接的には関係していないことになります」(落合氏)

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民事訴訟法の228条の4項とは
(出典:Fintech協会)

 前述のように、民事訴訟法228条4項には「真正に成立したものと推定する」と書いてある。

「この推定とは『事実上の推定(ある間接事実の存在が立証された際に他の主要事実の存在も確からしいと判断し、それを認定すること)』ということです。法務省の資料でも強調していますが、反証可能ということです。また、『押印でなければダメ』と書いているわけでもないのです。法務省などの押印QAでは、押印をしても成立の真正を満たすとは限らないことが書かれています。ただし、実印などで、押印した印鑑が本人のものであると確認できるよう管理がされている場合は、単純にその押印を省略するだけでは不十分となりますので、電子署名で代替するという議論が出てきます」(落合氏)

 電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)3条には、民事訴訟法228条4項と同様に推定の効果、つまり「作成者が誰かということを推定する」という条文がある。

規制改革会議でも議論された押印の問題

 規制改革推進会議でも押印について、「真に必要な場合のみに、一定程度限定すべきだ」という話や、「押印が必要な場合も、他の代替手段を認めるべき」という話が展開されている点を落合氏は強調する。

「7月2日の規制改革推進会議における議長の意見は、電子署名についても押印と同様にQ&Aを早期に作るべきであるといった内容であり、一定の要件を満たすと電子署名法3条の対象になり得るという範囲について、より広げていこうという話も出ています。不動産、金融、会社法関係について、さらに見直しを進めるようにという意見も出ています」(落合氏)

 また、7月3日に開催された未来投資会議においても、押印等の規制・慣行の抜本的な見直しが提言されている。

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投資会議でも押印等の規制・慣行の抜本的な見直しが提言された
(出典:内閣官房未来投資会議(第40回))

「押印に関する法律の規定の意味や、押印を廃止した場合の懸念点にこたえる考え方を示すとともに、電子署名法における電子署名の解釈の明確化も行っていくという話や、行政手続も必要な見直しを行うということも書かれています。規制改革会議でも、電子署名のあり方なども中心に、これから更に電子化ができるように見直しが図られていくことになっています」(落合氏)

【次ページ】デジタル化の進展で生じたサービスと法律とのギャップ

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