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  • 2022/04/22 掲載

インフレ退治が遅れると命取り?賃金上昇なしの物価上昇でも「早期利上げ」が正しい?

【連載】エコノミスト藤代宏一の「金融政策徹底解剖」

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原油価格の高騰やロシア・ウクライナ問題などの影響もあり、世界的なインフレ率の上昇が続いている。こうした中、連邦準備理事会(FRB)や英イングランド銀行(BOE)など、いくつかの中央銀行は金融引き締めにかじを切っているが、この選択は正しいのだろうか。一方、金融緩和策を継続する日本銀行はこのままで大丈夫なのだろうか。過去の教訓をもとに現在の高インフレ局面における対応の在り方を考えたい。

執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 藤代宏一

執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 藤代宏一

2005年、第一生命保険入社。2008年、みずほ証券出向。2010年、第一生命経済研究所出向を経て、内閣府経済財政分析担当へ出向し、2年間「経済財政白書」の執筆、「月例経済報告」の作成を担当する。2012年に帰任し、その後第一生命保険より転籍。2015年4月より現職。2018年、参議院予算委員会調査室客員調査員を兼務。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。担当領域は、金融市場全般。

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高インフレ局面における各国の金融政策の違いは?どの国の判断が正しいと言えそうか?
(写真:毎日新聞社/アフロ)

経済停滞も“利上げ”を実施した「トリシェ総裁時代のECB」

 リーマンショック後、主要中央銀行で最も早く利上げを実施したのは米国の連邦準備理事会(FRB)ではない。意外にも欧州中央銀行(ECB)である。世界が金融危機の後遺症に苦しむ2011年4月、ECBは主要政策金利を0.25%引き上げ1.25%としたのだ。

 2011年4月と言えば、米国ではリーマンショックの後処理がようやく一区切りがついたとはいえ、失業率は6%台となお高く、実体経済は正常と呼ぶには程遠い状況であった。当時はデフレの脅威に直面していたこともあり、金融政策は量的緩和策の第2弾、いわゆるQE2(2010年11月~2011年6月)が実施されていた局面であった。

 この間、日本経済は折からの不況に加え、東日本大震災の影響から深刻な景気低迷に直面し、当時の白川日銀総裁は上場投資信託(ETF)購入(2010年10月に決定)を含む強力な金融緩和策、いわゆる「包括緩和」を段階的に強化していた。

 一方、欧州はギリシャの財政不安に端を発する債務問題が広がりを見せていた、まさに「危機前夜」とも言うべき緊張感を帯びる状況にあった。ユーロ圏の実質GDP成長率は0%近傍から小幅なマイナス基調にあり、主要株価指数は停滞し、イタリアやスペインといった経済規模の大きい国の国債すら安全資産としての性格を失いつつあった。

 ではなぜ、こうした局面でECBは“利上げ”という、景気減速をもたらしかねない金融引き締めを決行したのか。その最大かつ唯一の理由はインフレであった。

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トリシェ総裁時代のECBは、ギリシャの財政不安に端を発する債務問題など欧州経済が冷え込む中でも、インフレ退治に金融引き締めを行ったが、この選択は正しかったのか?
(写真:AP/アフロ)

再評価されるトリシェECBの素早いインフレ退治

 当時は中東・アフリカ情勢の緊迫化などから原油価格が上昇し、ユーロ圏の消費者物価指数(CPI)は2%台半ば~後半に高まっていた。食料・アルコール・タバコを除いたコアCPIは1%台前半~半ばで推移していたことから、賃金上昇を伴う内生的なインフレは発生しておらず、金融環境を引き締める必要はないように見えたが、それでもECBは物価上昇を断固として抑える姿勢を見せた。

 つまり、当時のトリシェECB総裁は「物価の番人」としての役割に終始した形だ。このように物価上昇の「質」を問わないスタイルは当時も今も批判的な意見が多いが、インフレ退治が後手に回って収拾がつかなくなっている最近の米国を見ると、当時のトリシェ総裁の判断が再評価されても良いように思える。

 FRBは当初、一次産品価格の上昇やサプライチェーンの乱れといった供給側に起因するインフレを金融引き締めで対処する必要性は乏しいとの判断から金融引き締めを急がない姿勢を示していたが、後講釈的に振り返ると、今回はトリシェ・スタイルが正しかったように思える。

【次ページ】日銀が「金融引き締め」に向かう可能性は何パーセント?

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