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  • 2022/02/17 掲載

日銀「指値オペ」が引き起こす「悪い円安」とは? それに続く驚くべき展開とは

【連載】エコノミスト藤代宏一の「金融政策徹底解剖」

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2022年2月10日に日本の10年金利は0.231%まで上昇し、2016年1月29日のマイナス金利導入決定直前の水準に比肩した。これを受けて日銀は10日の夕刻、3連休明けの14日に「指値オペ」を実施することを通知。ここで言う指値オペとは、日銀が10年物国債を0.25%の利回りで(国債売りがある限り)無制限に買い上げる措置である。日銀は2016年9月より翌日物金利をマイナス0.1%、10年物金利を「0%程度」に据え置くイールドカーブコントロール(YCC)政策を実施しており、10年金利の「程度」については、その上限が0.25%であるとしている。今回10年金利が0.25%に近づいた段階で、金利上昇圧力を断固として抑える構えを示した格好だ。仮に指値オペが発動された場合、金融市場、さらには日銀の金融政策にどのような影響があるだろうか。

執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 藤代宏一

執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 藤代宏一

2005年、第一生命保険入社。2008年、みずほ証券出向。2010年、第一生命経済研究所出向を経て、内閣府経済財政分析担当へ出向し、2年間「経済財政白書」の執筆、「月例経済報告」の作成を担当する。2012年に帰任し、その後第一生命保険より転籍。2015年4月より現職。2018年、参議院予算委員会調査室客員調査員を兼務。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。担当領域は、金融市場全般。

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指値オペが発動された場合、金融市場さらには日銀の金融政策にどのような影響があるだろうか
(写真:つのだよしお/アフロ)

日銀「指値オペ」で円安加速

 今回の日銀の指値オペによって10年金利の上限が0.25%であることが再認識された。このことは円金利以外の金融市場、あるいは日銀の金融政策にどういった示唆があるだろうか。

 一番に想起されるのは日米金利差の拡大観測を通じた円安であろう。実際、2月10日の米国時間では、米10年金利が2%超えを目指すのをよそに、日本の10年金利の0.25%の上限が再認識されたことで、思惑的な円安が進行した。

 為替は内外金利差のみならず、日米インフレ率格差なども考慮されることを踏まえれば、今後、一方的な円安進行は考えにくいが、少なくとも短期的には「日米金利差拡大→円安」といった反応が見られたのは事実である。

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日銀の「指値オペ」により、日本の10年金利の0.25%の上限が再認識され、思惑的な円安が進行した
(Photo/Getty Images)

日銀が招いている?批判殺到「悪い円安」

 仮に円安トレンドが持続した場合、筆者は日銀の金融政策に一定の影響を与える可能性があると見ている。

 円安が続く下でガソリン、日用品、加工食品の値上げが相次ぎ、消費者の体感物価が著しく上昇し、個人消費に悪影響を与える事態となれば、円安批判が激化しても不思議ではない。昨年来、脚光を浴びている「安いニッポン」を語る文脈では「悪い円安」という表現も多く見られており、その背景に日銀の金融緩和があるとする指摘もある。

 今後ドル円が横ばい圏内で推移したとしても、過去数年との比較では円安水準にあり、輸入物価は高止まりする。また、海外とのインフレ率格差を加味した実質実効為替レートが示す“見えない円安”は続き、その間、円の購買力は一層低下する。そうした事実を根拠に円高の必要性を主張する識者(含む政治家)も増えてくるだろう。

 そうした円安を「悪」とする声を察してか、日銀は3カ月に一度公表する「展望レポート」を通じて、円安のプラス効果を強調した(2022年1月展望レポートBOX1、P40~43)。

 日銀の分析によれば、10%の円安はGDPを年間プラス0.8%押し上げる効果があるとしており、黒田総裁も「全体として経済にプラスに作用しているという基本的な構図に変化はない」、「現状、悪い円安とは考えていない」と1月18日の金融政策決定会合後の記者会見で発言した。

 日銀は「円安悪論」が盛り上がっている現状を心地良く思っていないのだろう。

【次ページ】「指値オペ発動→円安→円安批判激化」に続く展開とは?

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