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- 2025/06/23 掲載
「旅行代が高すぎる問題」の犯人は? “空の経済”に異変、JALとANAへの影響は……
連載:北島幸司の航空業界トレンド
航空会社勤務歴を活かし、雑誌やWEBメディアで航空や旅に関する記事や連載コラムを執筆する航空ジャーナリスト。世界の航空の現場を取材し、内容をわかりやすく解説する。テレビ、ラジオの出演経験もあり、航空関係の講演を随時行っている。ブログ「Avian Wing」の他、エアラインなど取材対象の正式な許可を得たYouTube チャンネル「そらオヤジ組」も更新中。大阪府出身で航空ジャーナリスト協会に所属する。
航空機貿易の「根幹」を揺るがす事態
前提として、1980年に世界貿易機関(WTO)で施行された「民間航空機貿易協定(ATCA)」は、署名国に対し、民間航空機、エンジン、シミュレーター、関連部品および構成部品に対する関税の撤廃を義務づけており、その恩恵を他の署名国に対して無差別に提供することが規定されている。しかしながら、この合意内容がトランプ政権によって実質的に反故(ほご)にされていることが国際的な懸念事項となっている。この関税政策で大きく影響を受けているのが、米国のボーイングおよび欧州のエアバスという、世界を代表する2大航空機メーカーである。
両社は、米欧のトップランクに位置する輸出企業であり、関税の引き上げが直接的に機体価格へ反映されるため、事業運営に深刻な影響を及ぼしている。また、相互的な報復関税も導入されており、両社の部品調達や製造コストの上昇に拍車をかけている。
一見すると、エアバス機への関税引き上げは米国製のボーイング機に有利に働くように見えるが、状況はそう単純ではない。
エアバスは約1万8000社に及ぶ多国籍なサプライヤーを有しており、その中には米国のエンジンメーカーであるGEも含まれる。報復関税によりこうした部品の価格が上昇すれば、結果としてエアバス機全体の価格にも影響が及ぶことになる。
エアバスCEOのギヨーム・フォーリ氏は、「関税の影響により、中小航空会社が新型機の購入に消極的になる可能性がある」と懸念を示しており、特に価格上昇が市場全体の需要を圧迫することに警鐘を鳴らしている。
一方、ボーイングも約3000社以上のサプライヤーを抱えており、米国国内のみならず、インド、メキシコ、日本、英国、イタリア、ベトナムなど多くの国に重要な製造拠点を展開している。これらの国々は、ボーイングの航空機製造において不可欠な部品やアセンブリを供給しており、ボーイングのグローバルな事業展開を支えている。
ボーイングCEOのデビッド・カルフーン氏は、2025年4月に行われたインタビューで「関税の影響により部品調達コストが上昇し、最終的には航空機の販売価格にも影響を及ぼす」と述べ、製造コストの増加による事業リスクを明確に指摘している。
欧米間の航空機貿易においては、相互関税の原則が機体価格へ多方面から影響を及ぼすため、ボーイング、エアバス両社にとって、部品調達コストの上昇は極めて重要な経営課題となっている。 【次ページ】JALとANAへの影響は……各航空会社の反応
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