- 2026/05/21 掲載
スズキが推進する「神の視点」システム、工場も街も「丸ごと制御する」驚愕の正体
東北大学大学院応用化学専攻修了。大手製造業を経て自治体に勤務し、大学での産学連携業務も経験。現在はビジネス分野を中心に取材・執筆。導入事例、記事広告、技術紹介、セミナー記事、SEO記事、法令解説記事などのほか、企業向けコンテンツ制作にも携わる。理系・技術職出身で、環境分野(脱炭素・廃棄物・水質)に強み。脱炭素アドバイザー(環境省認定)、公害防止管理者。著書に『ビジネス教養として知っておくべきカーボンニュートラル』(ソシム)。
従来とは全然違う、新たな「自動走行システム」の正体
少子高齢化による労働力不足、突発的な国際情勢の変動、コスト競争の激化など──製造業や物流業を取り巻く環境が急変する中、自動走行モビリティへの期待は高まる一方だ。しかし現実には、「実証実験は成功したが、コストが合わないため本格導入には至らない」という声が業界全体で後を絶たない。そうした状況に対し、スズキは真正面から挑んでいる。杉村氏が開発するのは「モビリティ連携基盤」と呼ばれるシステムだ。これは、センサーから取得した3次元リアルタイム空間データを用いた「動的空間データ連携基盤」と、複数の自動運転車を安全かつ効率的に動かす「インフラ管制自動走行システム」で構成される新たなシステム基盤である。杉村氏はこう切り出す。
「一般的な自動走行システムと、最初はよく誤解されていたのですが、実は根本がかなり違っています」
自動走行システムと聞けば、多くの人は車両そのものにセンサーを積み込む姿を思い浮かべるだろう。だがスズキがスタートアップのハイパーデジタルツイン社と共同開発を進める自動走行システムは、従来とは発想の起点が大きく異なる。車両ではなく「空間」を主役に据え、モビリティを外部から制御するというアプローチである。
現在主流の自動走行は、車両に搭載したカメラやセンサーを用い、車自身が周囲の状況を認識しながら走行する「自律型」である。しかしこの方式は視点が車両単位に限定されるため死角が生じやすい。また複数台を同時に運用する場合、それぞれが個別に判断するため制御は複雑化する。
これに対し、スズキが開発するのは、センサーを空間側に設置し、エリア全体を俯瞰して把握する方式である。いわば「神の視点」で空間全体をリアルタイムに捉え、その中で移動するモビリティを「ラジコン」のように外部から制御する。これにより死角を排除し、複数台のモビリティを一元管理できる。
「モビリティ連携基盤」の仕組み
仕組みはシンプルだ。建物の壁や天井、各種設備といった空間内に設置したLiDARが、人やモビリティ、設備などのあらゆる対象を点群データとして取得する。それらをミリ秒単位で時空間統合し、高精度な3次元空間データをリアルタイムに生成。このデータにより、個人を特定することなく対象を識別し、空間内の状況をそのまま再現できる。こうして生成された空間データを基に、複数のモビリティへ通信を介して走行指示を送る。従来のように車両が個別に判断するのではなく、空間側が全体最適の観点から制御する仕組みである。
スズキではこの仕組みを「モビリティ連携基盤(略称:モビレン)」と呼び、「空間制御による自動走行」と「エリア最適化」をキーコンセプトとしている。
「空間側を制御することで得られるメリットは計り知れません」と杉村氏は語る。さらに同社の鈴木 俊宏社長も、初めて本システムのデモを見た際に、この仕組みが単なる自動走行システムではなく「街を作るシステム」になる可能性を感じたという。ではその秘めたる可能性にさらに深掘りしていこう。
何が違う? 凄すぎる「3つの特徴」
このシステムの特徴はいくつかある。ここでは主な3つの特徴を紹介しよう。1つは、経済合理性の高さである。スズキは、大企業に限らず、中小企業や個人商店でも導入できる水準での提供を目指している。その理由は、自律型との構造的な違いにある。自律型の場合、各車両に高性能なGPUを搭載する必要があり、モビリティの台数が増えるほどコストは比例して増大する。
一方、本システムは処理機能をインフラ側に集約し、複数台で共有する仕組みである。そのため、台数が増えるほど1台あたりのコスト優位性が高まる。
「構内物流で3~4台以上のモビリティを運用する場合、自律型よりも初期投資を抑えられると試算しています」(杉村氏)
加えて、空間側に設置するLiDARについては汎用品の活用を前提としている。今後、センサーの低価格化が進めば、システム全体のコストはさらに低減される余地がある。
2つ目の特徴は、モビリティ側の構成のシンプルさだ。高性能な車載コンピューターを必要としないため、冷蔵庫内のような低温環境や粉じんの多い現場でも安定して稼働できる。自律型では精密機器の保護が課題であり、結露や粉じんなどに弱いケースが多いが、本システムではそうした制約が少ない。
3つ目の既存設備への適用のしやすさも重要なポイントだ。工場や倉庫は顧客ごとにレイアウトや運用条件が異なるが、本システムは必要最小限の構成から導入し、段階的に機能を拡張できる。全面的な刷新を前提とするスマートファクトリーと比べ、現実的な選択肢として検討しやすい。
静岡県内の某所で実施した検証では、短期間での設定・立ち上げが可能であることを確認した。導入のハードルは比較的低く、現場への適用のしやすさも示された。開発環境だけでなく実運用に近い現場でもシステムが機能することが確認され、実用化に向けた準備は着実に整いつつある。
【次ページ】倉庫や工場さえも激変させる「空間データの価値」
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