- 2026/07/09 掲載
1.8兆円の巨額投資…アマゾン「最先端倉庫」で導入の触覚ロボVulcanのヤバい実力
「人が足りない」のに配送は速くなる、アマゾン倉庫のヤバさ
ネットで注文した商品が翌日、時には当日に届く。受け取る側から見れば、それは便利なサービスにすぎない。だが箱が玄関に置かれるまでには、膨大な商品が棚から取り出され、箱に詰められ、仕分けされ、配送網へ流されている。物流現場は人手不足と賃金上昇にさらされている。普通に考えれば、配送は遅くなり、コストは上がる。ところがアマゾンは、その前提をロボットとAIで崩しにかかっている。
同社は2026年6月4日、欧州のフルフィルメント網の拡張と近代化に100億ユーロ超(約1.8兆円超)を投じると発表した。投資対象には、触覚を持つロボットVulcan、コンベヤー上のトートを扱うSTARK、次世代Proteusが含まれる。STARKはスペイン・バルセロナで先行導入され、2027年までに欧州15拠点へ広げる計画だ。アマゾンは同時に、欧州で2万5000人の雇用を増やすとも説明している。
なかでもVulcanは、ただのロボットアームではない。アマゾンによれば、Vulcanは同社初の触覚を持つロボットで、フルフィルメントセンター内に保管される商品タイプの約75%を扱える。高い棚や低い棚など、人に負担のかかる場所の商品を処理し、作業者が脚立を使ったり、無理な姿勢を取ったりする場面を減らす狙いがある。
倉庫で厄介なのは、商品が規格品のようにきれいに並んでいないことだ。柔らかい袋、箱、筒状の商品、つぶれやすい商品が混在する。人は手の感覚で力加減を変えるが、従来のロボットはここが苦手だった。Vulcanは商品に触れたときの力を測り、押し込み過ぎれば止まり、つかめないと判断すれば人に交代を求める。
届いた箱だけを見ていても、この変化は分からない。だが倉庫の棚の前では、AIが物流の制約条件そのものを変え始めている。速さの源泉は配送車だけではない。棚の前の作業が変わっている。
Vulcanは何がすごい? 約75%の商品を扱える理由
Vulcanが狙うのは、さらに難しい領域だ。商品を実際に取り出し、空いたスペースに収納する作業である。見る、触る、押す、避ける、戻す。複数の動作が一体になっている。商品を取るだけならまだしも、棚の中にある別の商品を傷つけず、必要な商品だけを取り出すには、視覚だけでは足りないのだ。
アマゾンはVulcanについて、先端部にあたるエンド・オブ・アーム・ツーリングを使い、商品にどの程度の力がかかっているかを把握できると説明している。商品に接触した瞬間、どの程度の力で押しているかを検知し、壊さない範囲で動作を止める。Vulcanの核心は腕の形ではなく、力加減を読めることにあるという。
この力加減が意味を持つのは、倉庫の商品が極めて多様だからだ。アマゾンはVulcanがフルフィルメントセンターで扱う商品タイプの約75%を、人の作業速度に近い水準でピックまたは収納できるとしている。すべてを自動化するのではなく、多くの繰り返し作業をロボットに任せ、苦手な商品や例外処理は人に渡すのだ。
100%自動化を追うと、残り数%の例外処理に膨大なコストがかかる。75%の作業を安定してこなせれば、人は高い棚、低い棚、きつい姿勢、単調な繰り返しから少しずつ離れられることができるようになる。これにより作業者は人が得意な判断や復旧、ロボット管理へ回る。
アマゾンのロボット戦略は、人の手を完全に置き換える話ではない。人の手が担ってきた感覚の一部を機械に移し、人とロボットの仕事の境界線を引き直すものなのだ。 【次ページ】次世代Proteus、STARK、DeepFleetで倉庫はどう変わるか
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