- 2026/07/08 掲載
トヨタ・BMWは“ロボット導入前”に何をした?フィジカルAI時代を左右する、3つの準備
大学卒業後、製造業の生産技術関連部署にて12年間従事。生産設備導入を中心に、ロボットシステムの導入を手掛ける。 船井総合研究所へ入社後は全国各地の中小製造業向けのロボット活用、DX推進コンサルティングを実施。 中小製造業向けのロボット活用及びDX診断を行っておりその数は100社を超える。生産データ分析や作業分析等、現場経験を活かした現場目線のDXコンサルティングを行っている。また、地方自治体が主催するDX人材育成セミナーや大学での中小企業経営論の講義などを行う。
「フィジカルAI」とは? 工場との関係性
まず「フィジカルAI」という言葉から整理しましょう。ChatGPTのようなAIは、テキストや画像を処理するソフトウェアです。これに対して「フィジカルAI」とは、ロボットアームや脚、センサーなどの物理的な「体」を持ち、実際の現場で作業するAIを指します。
人間の作業員が担っていた「部品をつかむ」「組み付ける」「異常を見つける」といった仕事を、AIロボットが自律的にこなす、というイメージです。
「でも、それってまだ遠い先の話では?」と感じる方もいるでしょう。ところが2025年には、BMWの米スパータンバーグ工場で人型ロボットが実際の量産ラインで11カ月間稼働し、3万台以上の車体生産に貢献した事例が公表されています。フィジカルAIはすでに「SF」ではなく「工場の現実」になりつつあるのです。
トヨタやBMWは「ロボットを買う前」に何をしているのか?
BMWだけでなくトヨタなど大手企業の事例を見ると、ロボット導入の前段階で共通する考え方が見えてきます。それは、「ロボット本体への投資」より「データへの投資」を先行させていることです。ここでいうデータとは、単なる生産数や稼働時間だけではありません。人がどの順番で作業し、どのように部品を扱い、どこで判断しているのかといった、現場の動きそのものを含みます。
トヨタ(TRI)の事例では、「LBM(Large Behavior Models:大規模行動モデル)」と呼ばれるAIの学習基盤の構築に注力しています。バイクのロータープレート取り付けなどの複雑な動作データを約1700時間分蓄積することで、1つのAIが数百種類の作業を習得し、新しい作業も少ないデータで素早く覚えられるようになっています。
「どんなロボットを使うか」よりも「自社の技術をAIにどう覚えさせるか」こそが将来の競争力の本質、という考え方です。
また、BMWの事例では、Figure AI社の人型ロボット「Figure 02」を量産ラインに投入しました。ポイントは「スタート地点の選び方」です。BMWは「工場全体の無人化」を目指すのではなく、「ボデー工場の溶接工程で板金部品を溶接治具に正確におく」という1つの作業に絞りました。
結果として11カ月で9万点超の部品をロードし、BMW X3を3万台以上生産することに貢献。5mm以内という高精度での配置を99%以上の精度で達成しています。「全部やろうとしない」──これが大企業でさえ守っているフィジカルAI導入の鉄則です。
ここで重要なのは、BMWが人型ロボットを導入したこと自体ではありません。いきなり工場全体を自動化しようとせず、特定の工程に絞って、ロボットが現場で作業するための条件や改善点を1つずつ蓄積している点です。フィジカルAIの導入では、「どの作業から始めるか」「その作業をどう学習・改善させるか」を見極める準備が欠かせません。 【次ページ】「大手の話でしょ?うちは中小だし」その考え方が危ないワケ
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