- 2026/07/06 掲載
孫正義は疑問視、イーロンの「宇宙データセンター」は夢物語か?100万機構想の現実味
1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。
「データセンターを宇宙へ…」異次元の“100万機構想”
スペースXのAIデータセンター衛星、「AIコンピュート衛星」構想が具体化しつつある。AIや機械学習の利用拡大に伴い、データセンターの電力需要は急速に増えている。これに対しスペースXが示しているのは、天候に左右されにくい軌道上の太陽エネルギーを使い、AI計算に特化した衛星コンステレーションを構築するという構想だ。2026年1月30日、スペースXは米連邦通信委員会(FCC)に、最大100万機の軌道上データセンターシステムの打ち上げ・運用許可を申請した。
さらに6月12日の新規株式公開に向けて公開した目論見書では、AI事業の発展型としてAIコンピュート衛星の事業構想を説明。2026年以降にテキサス州の工場を拡張して衛星製造を始め、2028年以降に打ち上げを開始する方向性を示した。立て続けに公開された動画では、イーロン・マスクCEOが「AI1」と名付けた第1世代衛星の基本コンセプトを説明している。
しかし、100万機規模という前例のない衛星網は、本当に実現可能なのか。
仮に実現すれば、AIを動かす電力、土地、通信、そして国家間のインフラ競争までが根底から書き換えられる。スペースXが公表した計画を読み解くと、この壮大な構想が単なる夢物語なのか、それともAIインフラの地図を塗り替えるのか、手がかりが見えてくる。
スペースXが公開した「巨大AI衛星」の驚くべき全貌
AI1コンピュート衛星の第1世代「AI1衛星」は、太陽電池パネルが差し渡し70メートル、展開型の「両面ラジエーター(放射冷却パネル)」が20メートルと非常に大型のサイズだ。ピーク電力150キロワット、平均コンピュート電力120キロワットを提供する。これは、72基のGPUを搭載したエヌビディアの「GB300」ラック1台分に相当するという。AI1衛星は高度600~800キロメートルの地球低軌道で運用され、地球を南北に周回する太陽同期軌道(SSO:Sun-synchronous orbits)を利用する。衛星を高度の異なるグループ(シェル)に配置し、異なるバージョンの衛星ハードウェアを設計・運用する予定だ。
通信機能は既存のStarlink衛星との「光リンク(レーザーメッシュ)」で結ばれ、データの送受信はStarlinkを経由する。ただし、衛星の管制やバックアップ通信用として電波による通信機能も備える。Starlink衛星は衛星間で通信を次々と受け渡していくハンドオーバーの処理が非常に複雑だが、AI衛星はそうした処理は行わず、データ送受信と計算機能に特化するシンプルな構成だという。
初期は既存のエヌビディア製(GB300やRubin)やTPUなど利用するものの、最終的にはテキサス州に専用のチップ工場「Terafab(テラファブ)」を建設する計画だ。
生命線は「打上げ」「衝突回避」を支える“あの技術”
打上げには完全再使用型ロケットであるStarshipを前提にしている。スペースXは2025年まで年間2000トン規模だった打上げ質量を、2028年以降は20万トン規模、2030年には年間100万トン以上に引き上げる計画だ。1トンあたり100キロワットのコンピュート能力を持つ衛星を年間100万トン打ち上げることで、年間100ギガワットのAI計算用電力を軌道上に展開できるという。Terafabの進捗次第で最終的に「年率1テラワット」(米国の現在の電力消費の約2倍に相当)の能力を構築すると表明している。
大規模な衛星コンステレーションで課題になっている、衛星同士の衝突回避対策としては、Starlink衛星の運用で獲得した運用技術を使用する。ミッション終了後に大気圏への安全な再突入で消滅させる一般的な方法に加え、将来的には高高度の地球周回軌道への移動、さらには太陽周回軌道への移動(地球周回軌道からの脱出)も目指しているという。
再突入は衛星衝突やデブリ化を防ぐには有効だが、衛星の材料が塵となって地球の大気にばらまかれることへの懸念、批判の増加に対して応える意味があるとみられる。ただしそのためには、衛星搭載エンジンの推進剤は通常の運用より多く必要だ。 【次ページ】本当に実現できる?「100万機構想」を左右する“3つの条件”
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