- 2026/07/07 掲載
10.5兆円投資「フィジカルAI」、自動化で「失敗し続けた」中小物流はいつ救われるか?
Pavism 代表。元トラックドライバーでありながら、IBMグループでWebビジネスを手がけてきたという異色の経歴を持つ。現在は、物流業界を中心に、Webサイト制作、ライティング、コンサルティングなどを手がける。メルマガ『秋元通信』では、物流、ITから、人材教育、街歩きまで幅広い記事を執筆し、月二回数千名の読者に配信している。
フィジカルAIの「よくある誤解」
フィジカルAIと言うと、マニピュレーター(ロボットアーム)を備えた人型ロボットを思い浮かべる人も多いだろうが、これは理解不足である。最近の政府資料におけるフィジカルAIに関する説明を紹介しよう。
- 「自動運転、工場やインフラの管理、人との協働を実現する自律型ロボットなど、現実世界における物理的タスクを実行可能なフィジカルAI」(出典:内閣府 「人工知能基本計画〈令和7年12月23日 閣議決定〉」)
- 「画像・音声・動画・各種センサーを 統合し現実世界を理解し動くフィジカルAI」(出典:「経済産業省:半導体・デジタル産業戦略検討会議(第15回)参考資料>」)
つまりフィジカルAIとは、ロボットや機械、設備、モビリティなどのアクチュエーター(駆動体)を制御する仕組みだ。各種センサーから取得した信号と蓄積された膨大なビッグデータなどをAIが学習・理解することで、人のように柔軟に、複雑かつ多様なシチュエーションにも対応できるようになる。
ゆえに、フィジカルAIの対象は人型ロボットに限定されない。従来の製造設備をはじめ、AGV・AMRといった搬送ロボット、自動倉庫などのハードウェア、あるいは人(作業員)とロボットの協働を統合制御するソフトウェアまで幅広く含まれる。
たとえば先に挙げたRLWRLD社は、さまざまなロボットを動かすソフトウェアであるロボティクス基盤モデル「RLDX-1(リアルデックス)」を開発し、ロボットメーカーとのパートナーシップを通じて実機への実装を進めている。
その1つである人型ロボット「ALLEX」(WiRobotics社)は「コーヒー注ぎ(Pot-to-Cup Pouring)」課題において70.8%の成功率を記録した。競合の基盤モデルが30%台後半に留まることを踏まえると、「ALLEX」×「RLDX-1」の組み合わせは、現時点で最先端のフィジカルAIロボットの1つだと言えるだろう。
モノづくり大国・日本を支えた「ワークハンドリングの限界」
かつて日本は「モノづくり大国」であり、またロボット先進国だった。1990年時点では、世界中で稼働していた産業用ロボットのうち、60.9%が日本国内で稼働していた。その後、国内メーカーの製造拠点の海外シフトなどに伴い、現在の国内稼働シェアは全世界の1割程度まで下がっている。一方で、現在でも世界で稼働する産業用ロボットの半分程度が、日本メーカー製である。この実績を支えてきたのが、ワークハンドリング技術(部品取扱技術)である。たとえば以下だ。
- バラバラ状態の部品の向きをそろえる整列供給(パーツフィーディング)
- 加工や組み立てを正確に行うために、部品を特定の場所に正確に配置する位置決め(ポジショニング/アライメント)技術
- 加工対象となるものをしっかりと固定する治具の開発技術
これらは重力やバネ、歯車などの物理的な仕組みを利用し、「部品の向きを変える」「位置をそろえる」「次の工程へ滑り落とす」といったからくりを創意工夫して編み出す、日本の職人たちによって培われてきた。
一方でこういった仕組みが求められたのは、人ならば当たり前にできる柔軟な判断や対応が、機械には難しかったからである。
旧来の産業用ロボットが正確な動作を行うためには、部品などが常に正確な向きや位置に整置されるからくり(ワークハンドリング技術)が不可欠だったのだ。
だが、特に中小の製造現場において、こうした精密な設備を導入するのは容易ではない。機械が高価かつ大型化しがちだからだ。また、ワークハンドリング技術が開発されるのは一定のビジネスボリュームが見込まれる分野に限られ、職人の技術をすべて機械化できるわけでもない。
結果として、自動化の恩恵は大手製造業の現場が中心となり、日本国内約176万社(注)の法人企業のうち、98.3%を占める(資本金1億円以下)中小零細企業は、自動化・機械化の波に取り残されがちだった。
乱暴な言い方をすれば、旧来の自動化は資本力のある大企業向けであり、中小零細企業は依然として職人への属人化や人海戦術から脱却するのが難しかったのだ。 【次ページ】フィジカルAIによるPoC工数“大幅削減”の意義
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