- 2026/10/20 06:50 掲載
【今日打ち上げ】日本の「火星衛星」探査に大注目、米中に割って入る「世界初」の全貌
1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。
打ち上げの目的は?「火星の衛星」って何?
フォボスとダイモスの成り立ちはまだわかっておらず、もともと遠くにあった小惑星の軌道が何らかの理由によって変わり、火星の重力に捕まったとする「小惑星捕獲説」と、原始火星に大規模な天体衝突が起こり、火星の軌道上でその破片が集積して2つの衛星が形成されたとする「巨大衝突説」という仮説がある。フォボス表面の物質を分析することで、2説の解明が大きく前進することになる。
フォボスを目指した世界の探査ミッションはこれまで3回。旧ソ連が1988年に相次いで打ち上げた「フォボス1・2」、2011年にロシアと中国が共同で打ち上げた「フォボス・グルント」があった。
このうち、フォボスに到達し観測画像の送信に成功しのは「フォボス2」のみで、フォボス1とフォボス・グルントは火星圏に到達することができなかった。日本は2003年に火星探査機「のぞみ(PLANET-B)」の火星軌道投入を断念した歴史があり、火星圏への航行は再度のチャレンジになる。
着陸は米中のみ…世界の「火星探査」競争
現在、世界で火星探査をリードしているのは、過去から多くの探査機の実績を有する米国だ。「キュリオシティ」「パーサヴィアランス」という2機の火星ローバーが現役で活動している。これに、同じく火星ローバー「天問1号」の着陸を成功させた中国が続く。火星周回探査機では欧州、インド、UAEなどが続く。
火星という惑星の進化、火星の大気や気候、生命につながる兆候の存在など科学テーマの中で浮上している中核的な目標が「火星サンプルリターン」だ。これを実現するには、火星の表面に着陸し、物質を採取してまた軌道上に戻り、地球まで航行して物質の入った容器を届ける、という技術的な課題が数多く残されている。
まず火星に着陸する段階からハードルが高く、複数回の火星着陸を成功させたのは米国のみ、1回の実績を持つのが中国と、世界で2カ国しかない。
次の段階であるサンプルリターンに、米国(NASA)は大きな計画を組んだ。欧州と共同で、パーサヴィアランスローバーが収集した火星の物質が入った容器を、回収専用のミッションで地球に届ける「マーズ・サンプル・リターン」計画だ。
成功すれば世界初はもちろん、もし集めた物質の中に過去の火星で生命が発生していた手がかりが得られれば、太陽系の生命誕生という巨大な科学テーマで米国は世界の先頭に立つことになる。
しかし110億ドル(約1兆6,500億円)規模まで膨れ上がった費用面での課題から、第2次トランプ政権になってマーズ・サンプル・リターン計画の実現はほぼキャンセルとなっている。将来の計画再編の余地はあるものの、オリジナルの構想だった複数の探査機による大掛かりなサンプル回収は見込めなくなった。
米欧が足踏みする中で、史上初の火星サンプルリターンを実現するプレイヤーとして浮上してきているのが中国だ。2021年に初の火星着陸ミッション「天問1号」と火星ローバー「祝融」を成功させた中国は、「天問3号」で火星からの物質採取を目指している。2031年ごろに約500gの物質を持ち帰る予定だ。
これまで中国は月探査で堅実かつ着実にミッションを重ね、月の裏側への着陸と独自のサンプルリターンを成功させた。天問3号の成功を期待するだけの実績は十分に持っている。
この競争的な状況に、火星そのものではなく、火星の衛星フォボスから試料を持ち帰ることで、第3のプレイヤーとして存在しているのが実はMMXだ。MMXは火星サンプルリターンを目標として計画されたわけではなく、元からあくまでも火星の衛星に対して日本が積み重ねてきた小天体サンプルリターンという手法を適用するミッションとして計画された。
しかしフォボスサンプルの中には0.1%の確率でフォボス表面には、隕石衝突により火星表面から吹き飛ばされた火星隕石のかけらが降り積もっていると考えられている。MMXのサンプル採取目標は10グラム以上を目指しており、火星由来の物質は0.01グラム相当になる。MMX帰還が2031年目標、天問3号が同時期ということで、偶然が重なったとはいえ「火星サンプルリターン」での競合が健在化することになった。 【次ページ】MMXは「日本最大級」、その驚きの構造とは
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