- 2026/07/14 掲載
三菱重工・IHI・QPS HDなど5社比較、政府が激推しする「防衛宇宙」の知られざる明暗
防衛宇宙「3つの政策転換」
防衛宇宙産業に追い風が吹いている。背景にあるのは、一時的な民間ブームではない。政府が安全保障と産業政策の両面から、宇宙と防衛を国策産業として位置付けていることが背景だ。宇宙基本計画は2023年6月に閣議決定され、2025年12月には工程表も改定された。宇宙を科学技術の一分野にとどめず、安全保障、通信、測位、災害対応、産業競争力を支える基盤として扱う姿勢がはっきりしてきた。
1つ目の転換は、防衛省の宇宙関連予算の拡大である。防衛省は2026年度宇宙関係予算で、衛星通信網の整備などに契約ベースで約1740億円、歳出ベースで約2183億円を計上した。
(出典:防衛省 2026年度宇宙関係予算)
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宇宙領域は、ミサイル防衛、情報収集、通信、測位、部隊運用を支える基盤になっており、地上、海上、航空の防衛力と切り離して考えにくくなっている。防衛力整備計画の中で宇宙領域の能力強化が進めば、衛星、ロケット、センサー、通信機器、電子部品などへの需要も広がる。
組織面でも、航空宇宙自衛隊への改編や宇宙作戦集団の新設が掲げられており、宇宙領域は単なる装備調達ではなく、防衛体制そのものの再編テーマになっている。
2つ目は、宇宙戦略基金による民間企業支援だ。同基金はJAXAに設置され、民間企業や大学などが複数年度、最大10年間にわたり研究開発に取り組める仕組みである。
従来の単年度予算では進めにくかった衛星コンステレーション、打ち上げ、通信、探査関連技術の開発を、長期資金で支える狙いがある。QPS研究所(QPSホールディングスの完全子会社)のような小型SAR衛星を開発する企業にとっては、研究開発費の支援にとどまらず、量産化や商業化までの時間軸を支える政策インフラになる。
3つ目は、防衛装備移転三原則と運用指針の見直しである。政府は2026年4月21日、殺傷能力のある防衛装備品の輸出に事実上の制約となってきた「5類型」を撤廃する改正を決定した。
防衛省は、同盟国や同志国の抑止力・対処力の強化、国内生産能力の確保を理由に、官民一体で防衛装備移転を進める方針を示している。国内市場に依存してきた防衛関連企業にとって、海外展開の余地が広がる政策変更と言える。
こうした背景の中、追い風を受ける5社の決算を読み解くと、「国策産業なら誰でも儲かる」という単純な構図ではなく、受注を利益に変えられる企業と、先行投資の重さに耐える企業の差が浮かび上がってくる。
【比較1】三菱重工・IHIなど「5社決算」
政策の追い風は、すでに一部企業の決算に表れ始めている。規模が最も大きいのは三菱重工業だ。2026年3月期の全社受注高は7兆6,536億円(2025年3月期比19.5%増)、売上高は4兆9,741億円(同14.1%増)、事業利益は4,322億円(同21.7%増)だった。このうち航空・防衛・宇宙セグメントは、受注高1兆9,294億円(同8.1%減)、売上高1兆3,938億円(同35.2%増)、事業利益1,515億円(同51.7%増)となり、防衛・宇宙が全社利益を押し上げる構図がはっきりした。IHIも、防衛宇宙を含む航空・宇宙・防衛セグメントが収益の柱になっている。2026年3月期の全社売上高は1兆6,434億円(2025年3月期比1.0%増)、営業利益は1,655億円(同15.3%増)。航空・宇宙・防衛は受注高7,031億円(同2.3%減)、売上高6,517億円(同17.3%増)、営業利益1,124億円(同8.4%減)だった。営業利益率は17.3%で、全社営業利益の大部分を担う。IHIは今後3年間の資金配分でも、民間エンジン、防衛、原子力を成長領域に置き、育成事業として宇宙関連にも投資する方針を示している。
中堅・小型株では、日本アビオニクスの伸びが目立つ。同社の2026年3月期売上高は291億9,400万円(2025年3月期比45.1%増)、営業利益は55億1,500万円(同97.2%増)。情報システム事業は防衛用システム製品や宇宙用電子部品を含み、受注高332億7,500万円(同44.5%増)、売上高238億5,800万円(同48.8%増)、セグメント利益50億9,600万円(同67.3%増)となった。高水準の防衛予算を背景に、受注残高も296億5,700万円(同46.5%増)へ増えている。
放電精密加工研究所も、防衛・航空宇宙関連需要の強さを映す企業の1つだ。同社が7月7日に発表した2027年2月期第1四半期の売上高は43億1,700万円(前年同期比20.8%増)、営業利益は5億6,100万円(同47.5%増)だった。航空・宇宙関連では航空機エンジン部品が増収となり、安全保障強化に伴う防衛力整備計画の拡充を背景に防衛装備品の需要も増加した。放電加工・表面処理セグメントの売上高は31億円(同26.9%増)、営業利益は7億500万円(同22.4%増)となっており、完成品メーカーとは違う立ち位置で国策需要を取り込んでいる。
また通期業績予想も上方修正。売上高は160億7,300万円から167億1,900万円、営業利益は12億円から14億3,600万円などに引き上げた。増収に伴う利益の上振れを見込んでおり、防衛・航空宇宙、環境・エネルギー関連の加工需要が業績を押し上げる構図が続いている。
一方、QPSホールディングスは投資先行の段階にある。2026年5月期第3四半期の売上高は16億1,100万円(前年同期比なし)、営業損失は14億5,000万円(前年同期比なし)だった。同社は7月1日、通期業績予想を修正し、売上高を40億円から38億円に引き下げる一方、営業損失は12億円から8億円へ縮小する見通しに改めた。
さらに宇宙戦略基金事業の補助金収入の一部を営業外収益に計上する見込みとなったことで、経常利益は6億円から11億円、純利益は5億円から11億円へ上方修正した。なお、2026年5月期の通期決算は本日発表の予定だ。 【次ページ】【比較2】国策産業の「利益構造」を読む
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