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  • 2021/02/03

ニューノーマルの企業評価基準とは? 「ESG経営」や「DX」をどう見るべきか

将来に向けての不確実性が増す一方のニューノーマル時代。金融機関や企業にはどのような役割や責任が求められ、それに対してどう応えていけば自社の企業価値を高めていくことができるのか。前編に引き続き、経営とデジタルの関係に詳しい一橋大学大学院 野間 幹晴教授とAI(人工知能)研究者であり企業経営や一橋大学での講師も担う松田 雄馬氏に話を聞きながら、ニューノーマル時代における企業価値について実例を挙げながら考察する。

聞き手:編集部 山田 竜司 執筆:吉村 哲樹

聞き手:編集部 山田 竜司 執筆:吉村 哲樹

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野間 幹晴 氏
一橋大学大学院経営管理研究科教授。2002年、一橋大学大学院商学研究科で博士(商学)取得。2002年4月から横浜市立大学商学部専任講師。04年10月から一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授、准教授を経て19年4月より現職。10年より11年までコロンビア大学ビジネススクール・フルブライト研究員。現在、経済産業省「企業報告ラボ」座長、バンダイナムコホールディングス社外取締役、ナイス社外監査役、ダーウィン・キャピタル・パートナーズ社外監査役、キーストーンパートナース社外投資委員。


ニューノーマル時代における「サステナビリティ」の重要性

 今般、コロナ禍という世界規模の大規模パンデミックに見舞われ、多くの企業が事業戦略の見直しを迫られている。そんな中、「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」を重視した経営が注目されている。

 SXとは一言でいえば、企業が短期的な利益の最大化を追求するだけでなく、コロナ禍のような不確実性の高い事態に直面しても事業を滞りなく継続できる「持続可能性」を重視する考え方を指す。コロナ禍以降、このSXの重要性を指摘する声が多く挙がっており、経済産業省の「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」においてもその実現に向けた道筋が示されている。

 一橋大学大学院 教授で同大学院のフィンテック研究フォーラム代表の野間幹晴氏によれば、コロナ禍以前からSXのような取り組みを進めてきた企業は数多く存在しており、その大半は順調に業績を伸ばしてきているという。そうした企業の多くは、自社の利益や事業継続性を追い求めるだけでなく、むしろ顧客や従業員の幸福を何より重視する「人間を中心とした企業、社会」を標榜していると同氏は述べる。

「たとえば化粧品やシャンプーなどを美容院に卸しているミルボンという企業は、ただ単に商品を販売するだけでなく、美容院に対する経営コンサルティングサービスも提供しています。人と人同士のつながりがベースに、“モノ”だけではなく経営コンサルティングという“コト”を売ることで自社と顧客の双方の価値を高めている好例で、アマゾンのような巨大小売業者にはなかなか真似できないビジネスモデルだと言えます」(野間氏)

 こうした独自戦略が顧客から高く評価された結果、同社は約15年間に渡って右肩上がりの成長を続けるとともに、同社の顧客である美容院と、美容院の顧客である消費者の三方に幸せをもたらす「社会全体のサステナビリティ」に貢献していると野間氏は指摘する。

 その一方で、現在ほとんどの企業は直近の危機を乗り切ることに精一杯で、サステナビリティや社会貢献にまで頭を回す余裕がないのも事実だ。そうした実態を、合同会社アイキュベータ代表の松田 雄馬氏は次のように解説する。

「会社の仕組み全体を変えることなくSXのような新たな取り組みを始めると、既存の業務に新たな仕事が積み重なり、特に中間管理職の負担が増して組織が回らなくなってしまいます。したがってSXを実現するには、まず企業構造を根本から見直す必要があります」(松田氏)

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松田 雄馬氏
1982年生まれ、大阪出身。博士(工学)。京都大学大学院修了。NEC中央研究所員としてのMITメディアラボ・ハチソン香港・東京大学との共同研究を経て、東北大学とのブレインウェア(脳型コンピュータ)に関する共同研究プロジェクトにおける基礎研究・社会実装で博士号取得。独立して合同会社アイキュベータを設立、現在、共同代表。一橋大学大学院非常勤講師。AI/IoTを中心に研究開発と情報発信を行う。

DX実現のためには会社全体の構造改革が不可欠

 企業構造の改革に成功し、かつデータ活用やDXによって成果を上げている企業の例として、野間氏は作業服・機能服の専門店「WORKMAN」を全国に展開するワークマンを挙げる。同社では現在、営業マンが自らExcelを駆使してデータを積極活用することで、営業成績を順調に伸ばしているという。そんな同社もかつては営業活動におけるデータ活用は軽視されており、何より対面のコミュニケーション能力が重視されていた。

 しかし営業マンの評価基準をがらりと変え、「コミュニケーション能力が高かろうが低かろうが、とにかく営業成績が良ければ評価する」と定めた。その途端、それまでコミュニケーション能力に自信がなく、なかなか評価を得られなかった営業マンが、Excelを使ったデータ活用を取り入れることで急速に営業成績を伸ばし、結果的にはコミュニケーション能力の高さが売りだった営業マンの成績を抜いてしまった。

「ワークマンが成し遂げたような変革を実現するには、やはり社内の評価制度や意思決定プロセス、組織構造を変える必要があります。逆に、せっかくデータ活用の仕組みを導入したのに、そこから出てきたデータをベテラン社員が『俺の経験とは違う!』と却下してしまうようなカルチャーのままでは、いつまでたってもDXに踏み出せません」(野間氏)

 野間氏はDXの本質を表現するキーワードとして、「DX for CX by CX」を挙げる。これは、DXはCX(カスタマー・エクスペリエンス)実現のための手段であり、そのためにはCX(カンパニー・トランスフォーメーション)、つまり企業の構造転換が必要だということを言い表している。しかし多くの企業では「2つのCXの視点が薄く、DXに集中してしまう傾向がある」と野間氏は指摘する。

 では一体どうすれば、企業構造の転換に踏み出せるのか。松田氏によれば、「一気に転換するやり方は日本企業には向いていない」という。

「お勧めは、まず社長直轄のバーチャルチームを作って、そこで限定的な構造改革を実験してみることです。ここで成果が上がれば、独立した組織に昇格させて、社長の後ろ盾のもとで少しずつ改革の範囲を広げていく。こうしてまずは小さな成功事例を作って、少しずつ周囲を巻き込みながら変革を進めていく方法が日本企業には合っています」(松田氏)

 たとえば、コールセンターの持つ顧客の行動履歴や、プレスリリースによって公知にされている競合他社の製品開発の動向など、既に蓄積されているデータや情報をまとめてグラフなどの形で描画(ビジュアライゼーション)し、社内システムによって誰にでも閲覧可能にしておくだけで、情報をデータ化して分析することの重要性が理解されやすくなるという。

 地味な活動だが、それによって理解者が増え、他部門からのデータ提供が起こるなど、さまざまな形で組織の壁が取り払われ、ボトムアップの組織変革につながっていくことにつながるとした。

【次ページ】ESG経営に積極的な企業がマーケットから高く評価される

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