• 会員限定
  • 2023/10/26 掲載

「所得税・法人税・消費税」どれを下げれば良い? 生活者のお財布に効果アリの選択とは

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
解散総選挙が取り沙汰される中、与党内で減税の大合唱となっている。単なる世論対策との声がもっぱらだが、税に関しては本格的な議論が必要なタイミングに差し掛かっており、見せかけの減税を叫んでいる場合ではない。日本の税の体系や減税の効果についてまとめた。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

photo
日本の税の体系や減税の効果について解説する
(Photo/Getty Images)

所得税減税は高額所得者だけに恩恵が及ぶ

 日本の税収は主に「所得税」「法人税」「消費税」の基幹3税で成り立っている。日本の税収総額は65.2兆円(2022年度当初予算)だが、3税で全体の8割以上を占めており、税に関して何らかの議論を行う際には、この3つのいずれかを増やす、あるいは減らすという議論にならざるを得ない(図)。

画像
国家予算(一般会計)の歳入と歳出

 逆に言えば、税収全体の議論をしている時に、これ以外の税について言及してもほとんど意味はない。基幹3税以外の税については、政策的にさまざまな効果を発揮させるという意味で重要ではあるが、税収確保という観点からすると、些末なものと認識して良いだろう。

 所得税はかつての日本においては中核的な税だったが、直間比率の見直しなどが議論され、1989年の消費税導入以降は、主要3税の1つという位置付けになった。現時点での全税収に占める所得税の比率は約31%となっており、33%を占める消費税より若干低い。

 所得税における最大の特徴はやはり累進課税の制度だろう。

生成AIで1分にまとめた動画
 累進課税とは、高額所得者ほど税率が高くなり、納める税額が所得の増加分以上に大きくなる仕組みのことを指す。つまり日本の税制は、お金持ちからたくさん税金を取り、庶民からは税金を取らないという基本方針で作られている。ちなみに高額所得者の最高税率については引き下げが行われたものの、現時点でも45%となっており、高額所得者は所得のかなりの割合を税金で持っていかれる。

 一方、年収400万円の場合、月あたりの所得税は約7,000円程度となっており、極めて税金が安く設定されている。さらに所得が下がれば、事実上、税金はゼロに近いくらいにまで下がる。日本において1,000万円以上を稼ぐ人は全体の5%に過ぎないが、所得税の税収の半分以上が、人数の割合としては5%程度に過ぎない高額所得者によって納税されているのが現実だ。以前、岸田政権内でサラリーマン増税が検討されていると報道され、騒ぎになったことがあるが、政府内部(政府税調)で議論が行われていたのは、税率の低い年収400万円以下の層に対する課税である。

 このように日本の所得税は、年収が低い人にはほとんど税金がかからない仕組みになっているため、仮に岸田政権が所得税の減税を行ったとしても、その恩恵は高額所得者にしか及ばない。このため低所得者向けには、給付を組み合わせる形が検討されているようだが、給付については批判の声もあり、所得税減税は選挙対策としては効果的とは言えない。

所得税減税が選挙に有利とは限らない

 所得税の減税は選挙に追い風どころか、むしろ逆風になることもある。1998年、橋本内閣は所得税などの恒久減税を打ち出して参院選に臨んだ。ところが出演したテレビ番組で財源について問われ、橋本氏は「恒久減税ではない」とトーンダウン。この発言が大きな批判を浴び、結果として参院選は大幅に議席を減らし、橋本氏は引責辞任に追い込まれた。

 実際には99年から07年まで定率減税が実施され、税額からさらに2割を減税するという措置が実施されたものの、景気に対して十分な効果を発揮したとは言い難い。00年代の後半には円安で多少、景気が持ち直したものの、所得税を減税したことによる景気浮揚効果はほとんどなかったと考えて良いだろう。 【次ページ】消費税の減税の余地は?効果は?

関連タグ

関連コンテンツ

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます