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  • 2024/09/06 掲載

量子コンピューターが金融業にもたらす「光と影」、早くも登場「耐量子暗号標準」とは?

FINOLABコラム

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米国の国立標準技術研究所(NIST)は、量子コンピューターの進化に備え、耐量子暗号アルゴリズムの標準化を進めている。2024年8月には、4種類の候補から3種類が「連邦情報処理標準(FIPS)」として最終認定された。これらの暗号は将来の量子コンピューターによるサイバー攻撃に耐えることを目的としており、金融業界への影響も大きい。本稿では、新たなセキュリティのスタンダードとなる耐量子暗号標準はもちろん、量子コンピューターの基本的な原理や実用化の道筋とともに、金融業にもたらす「光と影」と展望を解説する。
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NISTが発表した耐量子暗号標準とは?
(Photo/Shutterstock.com)

米国の国立標準技術研究所が耐量子暗号の「標準」を発表

 米国の国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology:NIST)はこの8月13日に、以前から標準化を進めていた耐量子暗号(Post-Quantum Cryptography:PQC)アルゴリズム4種類のうち、3種類を「連邦情報処理標準(Federal Information Processing Standards:FIPS)」として最終認定した。

 将来的に予想される量子コンピューターを用いたサイバー攻撃に耐えうる暗号アルゴリズムとして公開し、利用を推奨することになった。

 本稿では、標準化の背景と金融業務に与える重要な影響をみた上で、公開されたアルゴリズムの概要を整理したい。

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NISTホームページで発表された3種類の耐量子暗号
(出典:NIST

量子コンピューター「基本原理」と「実用化の現在地」

 量子コンピューターは、量子力学の原理を利用して計算を行う新しいタイプのコンピューターである。

 従来のコンピューター(古典コンピューター)は、0か1のどちらか一方の状態を取るビットを単位として、電流が流れるか流れないかで計算を行っていたのに対し、量子コンピューターは、0と1の両方の状態を同時に取ること(「量子重ね合わせ」)ができる量子ビット(キュービット)を単位とすることで、多くの計算を同時並行で行うことが可能になる。

 さらに、量子コンピューターは「量子もつれ」と呼ばれる現象を利用して、キュービット同士が強く関連し合い、より複雑な計算を効率的に行うことができる。このため、特定の問題においては、古典コンピューターでは非常に時間がかかる計算を、量子コンピューターが短時間で解決できる可能性がある。

 量子コンピューターが実用化されれば、現在のスーパーコンピューターで数百年かかる数千桁の素因数分解が、数秒から数時間で解けるようになると理論的には考えられているが、現状の技術的な課題を考えると、そこまで達するにはまだ10年以上かかると予想する人は多い。

 現在の量子コンピューターは「ノイズが多い中規模の量子デバイス(Noisy Intermediate-Scale Quantum:NISQ)」と呼ばれ、エラーが発生しやすく、長時間安定して動作させるのが難しいという問題がある。

 ただし、「量子誤り訂正技術」にも「新しい符号(GKPなど)の開発」や、「超電導方式」や「イオントラップ方式」によるハードウェア効率の向上などの進展も近年みられ、実用化までの期間が短縮されるさらなる技術的なブレークスルーがあるのではないかという期待もある。

 また、汎用的な量子コンピューターの開発に先駆けて、「最適化問題」のような特定の計算を高速化する「量子アニーリング」と呼ばれる量子計算手法の実用化は進んでおり、創薬や化合物生成、経路算出、シフト管理といった領域での活用が開始されるようになっている。

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日本にも設置された量子コンピューター「IBM Quantum System One」と筆者
【次ページ】量子コンピューターが金融業にもたらす「光と影」8項目

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