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  • 2022/12/22 掲載

トヨタやKDDI先行、ガートナーが「今すぐ量子コンピューターに取り組むべき」と語る訳

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社会を変えるイノベーションの1つとして期待を集めている技術の1つが「量子コンピューター」だ。ただし、活用に向けた関心は高まりながらも、技術の難解さから、現状の動向把握に苦労する企業も少なくない。量子コンピューターの開発は今、どこまで進み、今後、どのようなシーンから活用が進められていくのか。ガートナージャパン ディスティングイッシュト バイス プレジデント,アナリストの亦賀忠明氏は「CIO(最高情報責任者)は今すぐ量子コンピューターへの行動を起こすべき」と語るとともに、量子コンピューターによって、「大企業の25%は未採用の同業他社に対して次元が異なるほどの優位性を獲得する」と警鐘を鳴らす。亦賀氏が量子コンピュータの現状とともに、成果を上げている企業の事例などを解説した。

執筆:フリーライター 岡崎勝己

執筆:フリーライター 岡崎勝己

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本物の量子コンピューターは2050年頃の実用化が見込まれている。対して、量子コンピューターの動きをシミュレーションするCMOSアニーリングは、すでに実用化済みだ
(出典:Gartner(2022年11月))

CMOSアニーリングは商用化

 社会に革命をもたらすと期待を集める技術の1つが、量子力学の物理現象を応用してデータの最小単位の1ビットに“0”と“1”のデータを同時に持たせるという、現実世界では理解しにくい手法を応用した「量子コンピューター」だ。これまで1つ1つ計算してきた処理の、いわば「重ね合わせ」現象を用いた並行実施により、「組み合わせ最適化問題」の処理を劇的に高速化。素材/新薬開発、各種最適化などへの応用に大きな期待を集める。2010年代半ばから開発競争はグローバルで本格化し、すでに量子コンピューティングをうたうクラウドサービスも登場している。

 ただ、その技術の特殊性から量子コンピューターは難解で、現状の正確な理解も難しい。その点についてガートナージャパン ディスティングイッシュト バイス プレジデント,アナリストの亦賀忠明氏は次のように解説する。

 まず、開発の進捗度については、本物の量子コンピューターの登場は2050年以降と、まだまだ先の話だという。“壁”となっているのが、ノイズによる誤り耐性の実現で、「極めてミクロの世界の取り組みだけに、一筋縄ではいかないチャレンジです」(亦賀氏)

 こうした中、中期的な視野で開発が進んでいるのが、NISQ(Noisy Intermediate Scale Quantum)による量子コンピューターだ。IBMやグーグルが手がけるのもこの方式で、「ノイズの存在を前提に、計算を小規模に限定し、その中で何とか使えるよう仕立て上げようとしています」(亦賀氏)。

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ガートナージャパン ディスティングイッシュト バイス プレジデント,アナリストの亦賀忠明氏

 もう1つ、すでに商用化されているのが、量子のふるまいを疑似的に再現するデジタル回路の「CMOSアニーリング(量子アニーリング)」だ。厳密には量子コンピューターとは言えないが、半導体技術を基に作られているため、本物の量子コンピューターのように、極低温環境下でなくても動作するなどの扱いやすさがメリットだ。

「今、最も注目されている量子コンピューターはこれです。日立製作所やNEC、富士通が取り組みを強化しており、国内企業が利用に乗り出しやすい環境にあるのがメリットです」(亦賀氏)

「本物の量子コンピューター」も国内設置

 亦賀氏は、「CIOは今すぐにでも量子コンピューターに対して何らかの行動を起こすべきです」と訴える。根拠の1つが、近年での利用コストの低廉化だ。CMOSアニーリングによるサービスは、安価なもので月額利用料が30万円を切る。

「効率的な配送ルート決定など、組み合わせ最適化問題が有効な課題を抱えているのなら、CMOSアニーリングは費用対効果から現実解になりつつあります」(亦賀氏)

 一方で、量子コンピューターは、従来からの暗号化技術を一気に陳腐化させるリスクも併せ持つ。しかも大半のIT組織は、自社の採用する暗号化の種類とともに、量子コンピューターによる影響や範囲についても、いまだ十分には認識できていない。

 こうした“創造”と“破壊”の双方でのインパクトの大きさを踏まえ、各国政府は量子コンピューティングやポスト量子暗号、量子ネットワーキングなどの領域で開発支援を加速させている。日本でも23年3月までに初の国産量子コンピューターの開発という政府目標の下、耐障害性や量子ソフトウェア、計算機基盤などのプロジェクトがすでに立ち上がり、理化学研究所や大阪大学などによる民間と連携した研究拠点の開設も相次ぐ。

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量子コンピューターの開発はグローバルで加速。政府の支援を追い風に国内でも大学や民間の共同による各種プロジェクトが立ち上がっている
(出典:Gartner(2022年11月))

「2021年には東京大学とIBMが、日本初のゲート型量子コンピューター、つまり本物の量子コンピューターの『Quantum System One』を国内に設置しています。量子コンピューターは、課題解決を通じたよりよい社会づくりだけでなく、国家の将来の浮沈も左右する存在となっているのです」(亦賀氏)

【次ページ】トヨタやKDDIなどを皮切りに利用企業続々と

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