- 2026/05/22 掲載
残高11兆円…地銀8割が手を染める「仕組み貸し出し」、金融庁が警戒する“ある目的”
元毎日新聞記者。長野支局で政治、司法、遊軍を担当、東京本社で政治部総理官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て独立。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。自称「霞が関文学評論家」
通常の融資と異なる「仕組み貸し出し」の正体
そもそも仕組み貸し出しは、その名のとおり、決算上は「貸し出し(ローン)」として位置付けられます。しかしその中身をのぞいてみると、国債などの有価証券を裏付け資産としてそこにデリバティブ取引を組み込むというように、普通の貸し出しと比べはるかに複雑な「仕組み」を持っている金融商品です。
代表的な仕組み貸し出しの種類としては、「リパッケージローン」と「クレジットリンクローン」の、2つが挙げられます。
1つ目の「リパッケージローン」とは、国債や社債などの有価証券を特別目的会社(SPC)などに購入させ、それに金利スワップ、コールオプションなどのデリバティブを組み合わせた上で、銀行がそのSPCに対して融資を行うというスキームです。
2つ目の「クレジットリンクローン(CLL)」とは、特定の企業や国家などの信用リスクに連動するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を組み込んだ貸し出しです。参照する組織がデフォルトを起こさなければ、通常よりも高い利回りが期待できるといった商品構造になっています。
仕組み貸し出しにはほかにもさまざまなバリエーションがありますが、通常の融資や単純な債券投資に比べ複雑なリスク構造を持つという共通点が見いだせます。
残高11兆円に急増した“真相”
仕組み貸し出しとよく似ている名前の金融商品に、債券の一種である「仕組み債」があります。どちらもデリバティブを組み合わせた金融商品であるという共通項があり、紛らわしく感じるかもしれません。ただ、仕組み貸し出しは主に銀行自身が資金運用目的で扱うものであり、顧客から手数料を得る金融商品として一時期、金融機関で取り扱いが過熱した仕組み債とは基本的な性質が異なります。
金融庁の調査によると、2025年9月末時点で仕組み貸し出しは地域銀行の総貸出残高の3.4%程度を占める規模であり、その内訳の半分弱を日本国債のリパッケージローンが占めています。
なぜ、地域銀行はこれほどまでに仕組み貸し出しへ資金を投じているのでしょうか。
表面的な理由としては、「地元企業向けの資金需要が伸び悩む中での余剰資金の運用先確保」や、「リスクアセット利益率(RORA)を重視した経営」、あるいは「業種別の信用リスク分散」などが考えられます。しかし金融庁のモニタリングによって、より切実な「裏の目的」が浮かび上がってきました。
それは、仕組み貸し出しならではの会計上の取り扱い方の「ある特徴」を利用した、時価評価の回避と貸し出し目標の達成です。
債券は金利が上昇すると価格が下がります。銀行が債券に直接投資している場合、売却して損失を確定させないとしても、保有し続けているだけでその評価損が決算に反映されてしまいます。
一方、仕組み貸し出しは、債券投資の枠とは別立てで貸出金として処理されるので、時価評価の対象外です。金利が上昇する局面で実質的な含み損を抱えていても、表面上の財務諸表は傷つきにくいしかけになっているのです。
さらに、貸出金として計上される性質上、銀行として掲げる「年間貸し出し目標」を達成するための調整弁として利用されやすい側面もあります。地道な営業活動を要する事業会社への融資とは異なり、仕組み貸し出しは市場を通じて大口で残高を積み上げることが可能だからです。
金融庁は、金融機関が「外形的な貸出残高の増加」や「時価評価の回避」のみを主目的として仕組み貸し出しに傾斜することを問題視しているのです。米国など諸外国でも同様の商品を組成することは可能ですが、時価評価に関するルールの違いを背景に、日本で仕組み貸し出しの存在感が増大していると考えられます。 【次ページ】金融庁が求める「リスク管理態勢」の再構築
株式・債券・金利・資金調達のおすすめコンテンツ
株式・債券・金利・資金調達の関連コンテンツ
PR
PR
PR