- 2026/07/22 07:00 掲載
今押さえるべき「企業価値担保権」とは?成長企業を見抜ける銀行・逃す銀行の分岐点
元毎日新聞記者。長野支局で政治、司法、遊軍を担当、東京本社で政治部総理官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て独立。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。自称「霞が関文学評論家」
そもそも「企業価値担保権」とは何か
「事業性融資の推進等に関する法律」の施行で導入された企業価値担保権制度は、不動産担保などの有形資産や、経営者保証に依存することなく、ビジネスの実態や将来性に着目した融資を可能にするものです。財務情報のみならず、技術やノウハウ、地元で長年営業してきたブランド力や顧客基盤、事業計画といった判断材料をもとに、「事業の将来性」への投資がスムーズに行えるようになるのが特徴です。
新制度の登場によって、融資を受ける企業側と貸す銀行側の双方にとって選択肢が増えました。その一方、制度利用の前例が蓄積されるまでは、事前準備やコミュニケーションの取り方に悩む場面も少なくなさそうです。
金融機関は具体的に、どのような形で事業性融資に向けて取り組めばよいのでしょうか。金融庁が公表した「事業者と金融機関の信頼関係に基づく事業性融資に関する基本的な考え方」では、事業者に状況・段階に応じた継続的なコミュニケーションの在り方と、事業の将来性を反映した債務者区分・格付の在り方の見直しという2つのポイントに焦点を当てています。
融資先の異変を“手遅れ”になる前に捉える方法
継続的なコミュニケーションについては、初期の審査時、平時、悪化する兆候の確認時、苦境に陥った際といった段階ごとに、求められる対応を整理しています。
たとえば初期審査時については、事業計画などをベースとして、次のような事項について共通認識をすり合わせるよう促しています。
(B)想定通りに行動できない・結果が得られない場合に対する備えが可能であれば、それは何か
(C)その見通しを支える/疑義を生じさせ得る情報(たとえば、過去の事業見通しの達成度や過大なコストをかけずに収集できる外部情報)にはどのようなものがあるのか
平時については、事業計画等の進捗状況や、新たな事業計画等について継続的に認識を共有することが求められています。
一見すると初期審査時の対応の延長上にあるようにも思えますが、そもそも企業価値担保権制度は、銀行が平時から事業者とのコミュニケーションを深めることで「メインバンク的」な立場となることから、経営が傾くなどした際に迅速なサポートを提供できるという狙いがあります。
何か起きてからではなく、日ごろから貸出先の状況を把握しつづけておくことこそが、新制度の有効活用につながるというわけです。
仮に悪化の兆候が確認された場合には、延滞等の深刻な事態に陥る前に課題を特定してその解決策を議論し、できるだけ早く「平時」の状況に立ち戻れるよう、場合によっては事業計画を見直す選択肢を含めて迅速に対応することが求められます。
ここで重要なのが、業況がどの程度まで悪化した際に特別な対応に踏み切るか、その判断基準を事業者との間でしっかり目線合わせしておくことです。その観点で、事業計画とひもづくコベナンツ(特約条項)を設定しておくことが有効な選択肢として挙げられます。
事業性融資においては、定期的な情報提供や無断での担保提供の禁止などを定める「非財務コベナンツ」と、EBITDAなどのキャッシュフロー指標に着目した「財務コベナンツ」の2つを設定することが想定されます。非財務コベナンツは、事業計画からの乖離をいち早く捉えるマイルストーンとして機能し、財務コベナンツは将来の返済可能性を測る指標となります。
ここで最も重要なのは、コベナンツに抵触したからといって直ちに債権回収やデフォルト(期限の利益喪失)に移行するわけではないという点です。むしろ、業況悪化の兆候を早期に検知し、経営改善に向けた建設的な対話を開始するための「予防的なアラート」として機能させることが、事業者との信頼関係を維持するうえで求められています。 【次ページ】赤字や債務超過だけで判断しない、新たな格付の考え方
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