- 2026/08/26 06:30 掲載
【5方式を完全比較】量子コンピューターの本命はIBM・Googleか、“大化け”する伏兵か(2/3)
方式(1)超伝導:IBM・Google先行のワケと“ある限界”
量子コンピューターの報道で最も目にする名前はIBMとGoogleだろう。両社が採用しているのが超伝導方式だ。では、なぜこの方式が現在最も先行しているのか。手塚氏によれば、その理由は大きく2つある。1つ目は、技術の蓄積が圧倒的に厚いことだ。超伝導方式はシンプルに言うと電気回路として量子ビットを作り込む方式であり、半導体業界で何十年もかけて成熟してきた試作、製造、量産のプロセスを活用しやすい。
さらに、基盤技術であるマイクロ波の制御は、物理学の分野で50年以上前から使われている枯れた技術であり、知見の積み上げが膨大にある。
2つ目の武器は「巻き込み方」のうまさ
2つ目は、エコシステムの構築がうまかったことだ。特にIBMは、世界中のユーザーを巻き込みながらコミュニティごとデファクトスタンダード(業界標準)を取っていく戦い方をしている。クラウド経由で実機を提供し、自社で開発したソフトウェア環境を基盤に、アプリケーションやユースケースを一緒に探索していくアプローチだ。
「技術領域としてこれまでの技術蓄積が転用しやすかったのと、他方式に加えてプロトタイピング-検証のループが比較的高速に行えたことがまず技術的な面として挙げられます。加えて、ユーザーを巻き込んでいくプラットフォーミングの仕方がうまかった点も、数ある方式の中でもいち早く市民権を獲得した要因だと思います」(手塚氏)
最大のボトルネックは「大規模化」
一方で、超伝導方式には深刻な課題もある。最大のボトルネックは「大規模化」だ。超伝導の量子ビットは極低温環境(絶対零度に近いマイナス273度付近)で動作させる必要があり、巨大な冷却装置が不可欠となる。
さらに、量子ビットは高速で動くため、エラーを検知して修正する「誤り訂正」のフィードバックループも超高速で回さなければならない。これは、量子コンピューター本体だけでなく、それを支える古典コンピューター側のシステムも相当に高性能でなければならないことを意味する。
何千ビット、何百万ビットと規模が大きくなったときに、極低温環境を維持しながら発熱を抑え、データを外に取り出して戻すという全体システムをいかに成立させるか──これが超伝導方式の最大の挑戦だ。
また、数百万、数億という素子を製造する場合、人工物である以上、製造ばらつきが生じることは避けられないため、いかに品質の均質化と底上げができるかという点もシステムとして性能を高めるには重要な開発要素である。
「以前は、超伝導方式はスケーリングに有利と言われていましたが、それはNISQ時代のことです。誤り訂正を見据えると、さまざまな要素が関係してくるため一筋縄ではいきません」(手塚氏)
方式(2)光量子:常温で動くのに実用化に苦戦しているワケ
超伝導が極低温を必要とするのに対し、光量子方式には大きなアドバンテージがある。常温で動作できるのだ。光(光子)を量子ビットとして使うこの方式は、大掛かりな冷却装置を必要としないため、運用コストやシステム規模の面で将来的な優位性が期待されている(ただし、検出器には4K〔絶対温度4度〕程度の小規模な冷却機構が必要なことが多い)。光量子方式の強みは大きく3つある。第1に、通信との相性が非常に良いこと。光はそもそも通信の主役であり、複数のデータセンターをまたいで大規模な計算を行う「分散量子計算」や、拠点間をまたぐ「安全な量子情報処理」といった用途に適している。
第2に、アーキテクチャーによっては高速な演算が可能。そして第3に、超伝導ほど大規模な極低温設備を必要としないことだ。
ただし、光量子方式にも弱点がある。ゲート操作(量子ビット同士を相互作用させて計算を行う操作)が確率的にしか成功せず、確実に実行するのが難しいのだ。
また、光子は移動し続けるため、長時間安定に蓄えることが難しく、メモリには非常に長い光ファイバ中を伝搬させたり、原子との相互作用を利用するなど複雑な現象を利用する必要がある。結果として、実用化の段階としては、超伝導やイオントラップと比べるとまだ原理実証に近い位置づけにある。
「光量子方式は、シンプルな動作原理の小モジュールを使って大規模化を進めるエンジニアリング寄りのアプローチをとるプレイヤーと、より高度な機構の成立に向けて要素技術を磨き込む研究開発寄りのアプローチをとるプレイヤーがいるが、特に後者はまだ調べることが多い」(手塚氏)
つまり光量子方式は、通信インフラとの融合を見据えた長期的なポテンシャルは高いが、実用化までにはもう一段階の技術的ブレークスルーが必要な段階だと言える。
方式(3)イオントラップ:精度は最強だが大規模化に課題
イオントラップ方式は、イオン化した原子を電磁場で空中に浮かせて固定し、それを量子ビットとして使う方式だ。最大の特徴は精度の高さにある。量子ビットがイオンそのものであるため、製造プロセスによるばらつきが極めて少ない。すべての量子ビットが「同じ品質」で動作するため、1回1回の操作精度が非常に高い。
この高精度は、実際の実験でのデモンストレーションにも反映されている。小規模な量子ビット数ではあるものの、高精度に動作する点で、イオントラップ方式は超伝導方式と並んで実用化に最も近いポジションにいるとされている。
「イオントラップは、操作が高精度な点を武器に、実機によるデモンストレーションが最も進んでいます」(手塚氏)
しかし、課題も明確だ。電磁場を使ってイオンを閉じ込める仕組みであるがゆえに、量子ビットを1カ所に大量に用意しようとすると不安定になる。つまりスケーラビリティ(大規模化のしやすさ)に制約がある。
さらに、量子コンピューティングの高い計算力の源であり、異なる量子ビットを相互作用させる「2量子ビットゲート」の並列操作に大きな制約がある。イオントラップでは、複数のイオンで共有した振動モードを介して量子ゲートを実現するため、複雑な操作を並行して実行するのが困難なのだ。
高精度だが大規模化と並列処理に課題がある──これがイオントラップ方式の現在地だ。
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