- 2026/08/26 06:30 掲載
【5方式を完全比較】量子コンピューターの本命はIBM・Googleか、“大化け”する伏兵か(3/3)
方式(4)中性原子:専門家が「大化けする」と見るワケ
近年、量子コンピューター業界で急速に注目度を高めているのが中性原子方式だ。手塚氏はこの方式について「ポテンシャルが高く、今後大化けする可能性がある」と評価する。中性原子方式では、「光ピンセット」と呼ばれるレーザー技術で原子を1つひとつつまみ、自在に配置する。この物理的な配置を変えることで、量子ビット同士の相互作用をオン・オフできるため、操作の柔軟性が非常に高い。また、単純にピンセットの数を増やすことで量子ビット数を増やせるため、比較的スケーリングしやすい。
そしてこの柔軟性が、近年最大のテーマである「誤り訂正」においても強みになることが見えてきた。中性原子方式は、効率的な誤り訂正符号(qLDPC)を実装しやすい可能性があり、必要な量子ビット数を抑えながら高度な計算を行える余地がある。さらに、符号ごとの長所を組み合わせやすい点や、並列演算への適性も注目されている。
「誤り訂正符号にはそれぞれ特徴があり、通常は何を優先するかで選択が分かれます。中性原子では、その設計自由度の高さを生かして複数の利点を取り込める可能性があります。これが量子ビット数の削減や計算の高速化につながれば、実用化の前倒しが期待できます」(手塚氏)
一方で、中性原子方式にも弱点はある。動作速度が超伝導や光と比べて遅いことに加え、超高真空のチャンバー(容器)内で多数の量子ビットを浮かせておくため、計算中に不要な原子が衝突するといった特有の誤差要因も抱える。
それでも、少ない量子ビットで大きな計算ができるという効率性は、大規模化のハードルを下げる大きなアドバンテージだ。もっとも、他方式でも誤り訂正やアーキテクチャーの改良は着実に進んでおり、どの方式が先に実用化をリードするかはなお流動的だ。
方式(5)シリコンスピン:CMOS流用で“量産”が視野に
シリコンスピン方式は、実際にはシリコンやゲルマニウムといった半導体中に閉じ込められた電子のスピンを量子ビットとして用いる方式を指すことが多い。最大の強みは、既存の半導体製造技術との親和性にある。また、量子ビットのサイズが非常に小さく、将来的には半導体チップ上に高密度に集積化できる可能性がある。そのため、既存のCMOSプロセスや製造技術の延長で作りこめるなら、量産性やコスト面で有利と言える。
一方、現在の技術的な位置づけとしては、まだ大規模な量子計算を実証する段階には至っていない。既存の半導体デバイスでは気にならない程度の欠陥や不純物でも性能に影響が生じるため、高度な製造技術や低温動作が必要な点、大規模化した際の制御線を含むアーキテクチャーの最適化などが課題とされている。
それでも、半導体の微細化に伴い、一昔前に比べると実現性は大幅に高まっている。
主なプレーヤーには、スタートアップ企業に加え、半導体産業で実績をもつ企業や研究ファウンドリと連携する企業も名を連ねる。複数の企業が300mmウェハやCMOS製造プロセスとの親和性を打ち出しており、将来的な量産を意識したアプローチを進めている。
番外:マイクロソフトが賭ける“究極の量子コンピューター”
数ある方式の中でも最も研究色が強いのがトポロジカル方式だ。マイクロソフトが注力していることでも知られるこの方式は、理論的には「究極の量子コンピューター」になり得ると期待されている。その最大の特徴は、量子ビットが自然と誤りから守られるという点にある。通常の方式では、情報は局所的に(1カ所に)保持されるため、ノイズの影響を受けやすい。
一方、トポロジカル方式では、情報を系全体に分散して保持する。これは「情報が1カ所に書いてある紙はすぐ破れるが、情報が模様として布全体に織り込まれていれば、一部が破れても読み取れる」というイメージに近い。
「トポロジカルで1番重要な特性は、量子ビットが自然とその誤りから守られるような物理系だということです。局所的に情報を保持するのではなく、系全体で情報を保持するような形になっているので、堅牢性が高いというのが1番の強みです」(手塚氏)
しかし、現在有力視されているアプローチでは、特殊な超伝導状態を安定に作る必要があるが、不純物や界面の乱れに極めて敏感であり、安定した状態を保持すること自体が非常に困難だ。この技術的ボトルネックが解消されない限り、実用化は遠いと言わざるを得ない。
【図解】結局どれに賭ける? 主要5方式+トポロジカル一覧比較
現在はどの方式にも決定打はなく、それぞれが異なる強みを持つ。では企業は何を基準に評価すればよいのか。本当に見るべき指標と実用化への道筋を後編で解説する。
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