- 2026/09/09 06:30 掲載
デジタル決済71%を達成したウズベキスタン、楽天・PayPay型の経済圏が競う8分野(3/3)
FINOLABコラム
なぜ日本と“逆順”なのか、ウズベキスタン急成長の構造
ウズベキスタンでは近年、金融サービスのデジタル化が急速に進んでいる。人口3800万人規模の中央アジア最大の人口国であり、若年層が多いことに加え、スマートフォンの普及、電子商取引の拡大、政府によるデジタル化政策などを背景として、フィンテック市場が大きく成長している。ウズベキスタン中央銀行(CBU)も、若い人口構成と71%に達するデジタル決済利用をフィンテック発展の重要な基盤として位置付けていることから、今回のフォーラム開催に至った経緯もある。
ウズベキスタンのフィンテック発展で特徴的なのは、伝統的な銀行がオンライン化するだけでなく、決済アプリ、eコマース、BNPL(Buy Now, Pay Later=後払い決済)、通信サービスなどを起点とした企業が金融分野へ進出していることである。
そのため、金融サービスの発展段階も日本とはやや異なる。日本では銀行がインターネットバンキングやスマートフォンアプリを導入する銀行のデジタル化が先行して、フィンテック企業による各種アプリの参入といった流れだったのに対し、ウズベキスタンでは、決済やeコマースを起点にスーパーアプリに発展、貸し出しやBNPLといった付加価値を追求し、場合によっては銀行参入に至る、といった流れが目立つ。
さらに政府・中央銀行はフィンテックを金融機関のDX(デジタルトランスフォーメーション)にとどまらず、成長産業として育成しようとしている。2025年11月の大統領決定を受け、CBUは「National Strategy for the Development of Financial Technologies 2026-2030」を策定し、デジタル金融インフラ、投資、人材育成などを政策課題としている。
規制サンドボックスも同戦略の一部として運営されている。また、National Payment Switch、統一QR規格、オープンバンキング、口座間送金(Account-to-Account=A2A)など、次世代決済インフラの整備も検討されている。
そのため、現在のウズベキスタンは、「決済中心の第1段階」から、「金融エコシステムを形成する第2段階」へ移行しているものととらえることができる。
「決済」だけでは終わらない、フィンテック主要プレイヤー
主要プレイヤー(1)Payme…決済から銀行まで囲い込むTBCウズベキスタンのフィンテック市場では、Payme、Click、Uzumなどが大きな存在感を持つ。これらは単なる決済サービスではなく、決済を起点に他金融・生活サービスへ事業領域を拡大している。
Payme(2011年設立、2019年にTBCが買収)はウズベキスタンを代表する決済アプリの1つであり、ジョージアの銀行であるTBC Groupのウズベキスタン現地法人であるTBC Uzbekistanが提供している。TBC Uzbekistanは、決済を起点として、以下のようなサービスを組み合わせて金融エコシステムを形成している。
- ■TBC Bank:デジタルバンキング
- ■Payme:決済
- ■TBC BNPL:分割払い・消費者金融
- ■TBC Sug'urta:保険
- ■BILLZ:小売事業者向けSaaS(クラウド型ソフトウェア)
TBC Groupは2026年にTBC Uzbekistanを「中央アジアを代表するDigital Banking Ecosystemの1つ」と位置付け、2030年に向けた拡大戦略を発表している。
つまり、Paymeは単なる決済アプリというより、決済から銀行サービス、貸し出し、BNPL、保険、中小企業向けサービスといった金融機能に顧客を誘導する入口として機能している。
主要プレイヤー(2)Click、決済からスーパーアプリへの転換
Click(2011年設立)もPaymeと並ぶ主要決済サービスである。P2P(個人間)送金、公共料金、加盟店決済などからスタートし、現在は生活関連サービスを取り込むスーパーアプリへの転換を進めている。
これは、決済から日常生活サービス、ミニアプリ化、金融サービスといった発展を遂げているものととらえられる。
決済手数料だけに依存するのではなく、日常生活に関連するさまざまなサービスをアプリ内に取り込み、利用頻度と顧客単価を高めることが戦略の中心となっている。
主要プレイヤー(3)Uzum、“初のユニコーン”はなぜ強い
PaymeとClickが決済アプリで先行する中で、ウズベキスタン初の「ユニコーン企業(企業価値10億ドル以上の未上場企業)」として特に注目されているUzum(2022年設立)は、金融サービスから開始した企業ではない。eコマースであるUzum Marketを入口として、Uzum Tezkor(デリバリー)、Uzum Bank(銀行)、Uzum Nasiya(BNPL)、Uzum Business(中小企業向け)などを統合したデジタルエコシステムを展開している。
同社の発表によれば、「2025年には利用者が2,000万人を超え、Uzum Bankはオンライン決済市場で13%のシェア、111億ドルのTPVを記録している。Uzum Nasiyaは2025年に12億ドルを供与し、国内BNPL市場の約40%を占める」となっている。
Uzumの特徴は、eコマースから取引データを蓄積し、クレジットスコアリングによってBNPLや決済の実績をあげ、銀行サービスにも参入しており、顧客との接点が有機的に拡大してきた点にある。
その意味では、単なるデジタルバンクというよりも中国のAlibaba/Ant Groupなどに近い「Commerce + Finance」型のモデルと考えることができる。
その他の注目企業、Paynet、Alif…存在感増す
このほか、決済インフラを提供し2000万人超のユーザーを持つPaynet(2005年設立)、BNPLとイスラム金融を組み合わせて中央アジアで展開するAlif(2014年タジキスタンで設立 2019年にウズベキスタン現法設立)、電子ウォレット・QR決済のOSON(2016年設立)、通信サービスと決済を組み合わせるBeepul(2018年設立)、Telecomとフィンテックを統合したHumans(2020年設立)、など、多様なフィンテック企業が存在する。
CBUとフィンテック企業による2026年3月の協議では、中小企業向けデジタルファクタリング、複数銀行カードのアグリゲーション、請求書の分割、AIの安全な金融システムへの統合、取引データの分析、個人資産管理(Personal Financial Management=PFM)などが具体的な実証テーマとして議論されている。
もっとも、この市場の見どころは決済アプリの先にある。異なる出自を持つ4行のデジタルバンクが、まったく違うモデルで正面からぶつかり始めているのだ。
【デジタルバンク4行比較】勝つモデルは何か?
フィンテック企業の成長と並んで重要なのがデジタルバンクの拡大である。特に、TBC Bank Uzbekistan、Uzum Bank、ANORBANK、AVO Bankの4行が注目される(下図)。■TBC Bank Uzbekistan── エコシステム型
TBC Bank UzbekistanはジョージアのTBC Bank Groupが展開するデジタルバンクである。最大の特徴は銀行単体ではなく、Payme、BNPL、保険、BILLZなどを組み合わせたエコシステムを形成していることである。
従来型銀行が店舗をデジタル化するのではなく、最初からモバイルファーストの金融プラットフォームとして設計されているところに特徴がある。
■Uzum Bank── eコマースから生まれた銀行
TBCとは反対方向から金融市場へ進出しているのがUzum Bankである。前項でも紹介したように、eコマースからスタートして複数金融関連サービスを展開するなかで、銀行の設立に至っている。
Uzum Bankは100%デジタル銀行として運営され、2026年には500万人以上がUzumのVisaカードを利用しているとされる。
TBCが「銀行からスーパーアプリへ」向かっているのに対し、Uzumは「スーパーアプリから銀行へ」向かっている。この2つの異なるモデルの競争は、今後のウズベキスタン金融市場を見るうえで重要なポイントになるだろう。
■ANORBANK── 独立系デジタルバンク
ウズベキスタン国内で誕生した独立系デジタルバンクの代表例である。2020年にカード、預金、融資、送金、分割払いなどをスマートフォン中心で提供し、非対面での本人確認、プラットフォーム構築を意識したサービスなど、対面チャネルをもたないデジタル銀行モデルを構築している。
TBCやUzumのような巨大な非銀行エコシステムを持たないため、「純粋なデジタルバンクがスーパーアプリ型金融グループとどのように競争するのか」という点が注目されている。
■AVO Bank── デジタルレンディングから銀行へ
2023年に設立されたAVO Bankは消費者金融を起点としてデジタルバンクへ発展した事例である。そのモデルは、ネット上での貸し出し、クレジットカードの発行、預金の受け入れのためにデジタルバンクを設立したものである。
これはTBC、Uzum、ANORBANKとも異なるモデルであり、ウズベキスタンにおけるデジタルバンキングの多様性を示している。
Kapitalbankら既存銀行も追撃、それでも苦しいワケ
デジタルバンクが拡大する一方で、Kapitalbank、Ipak Yuli Bank、Aloqabank、Hamkorbankなど既存銀行もデジタル化を進めている。既存銀行では、窓口での対面取引を中心とした業務プロセスが確立しているが、デジタルバンクとの競争もあり、デジタルチャネルの強化を図っている。とはいえ、デジタルバンクとフィンテックの境界が消えつつあり、既存行にとっては顧客基盤を維持するのが難しい状況となっている。
【陣営マップ】4大勢力の激突、日本の“経済圏競争”と同じ
現在の競争構造は、個々の企業を見るよりも「エコシステム間競争」として整理すると理解しやすい。それぞれの出発点は異なっていても、各社が最終的に「決済+金融+eコマース+データ」という同じ領域へ向かっている点は興味深い(下図)。| 陣営 | 主なプレイヤー | 出発点 |
| TBC | TBC Bank、Payme、BILLZなど | 銀行 / 決済 |
| Uzum | Uzum Bank、Uzum Market、Uzum Nasiyaなど | Eコマース |
| Click | Click | 決済 |
| インフラ・専門型 | Paynet、Alif、ANORBANK、AVO、OSONなど | 決済インフラ、BNPL、各種ウォレット |
■TBC陣営:TBC Bank、Payme、BILLZなど(出発点=銀行/決済)
この構造は、日本でいえばPayPay経済圏、楽天経済圏、ネット銀行、BNPL、通信キャリアなどが、市場構造がまだ固まっていない段階で同時に競争しているような状況と考えると理解しやすい。
今後3~5年の注目8分野、A2A決済からイスラム金融まで
今後3~5年間で特に注目される領域としては、以下の8つが挙げられる。(1)オープンファイナンス/口座間の直接決済(A2A決済)
銀行口座間の直接決済が普及すれば、現在のカード・P2P中心の決済市場の競争構造が変化する可能性がある。
(2)QR規格の統合/決済インフラの整備
QR規格の統一や、国全体の銀行、フィンテック企業、決済サービスなどのシステムを1つにつなぐ中央プラットフォーム(National Payment Switch=NPS)の整備は、決済サービス間の相互運用性を高める可能性がある。このため、ウズベキスタン中央銀行はVISAなどと協議を行っている。
(3)中小企業(SME)向けのファイナンス
デジタルファクタリング、加盟店向けファイナンス、取引データを活用したクレジットスコアなど、中小企業・個人事業主向け金融の成長余地は大きい。
(4)AIの活用
顧客対応、クレジットスコア、不正検知などの領域においてAIの活用が期待され中央銀行もAIの安全な金融システムへの統合的な利用をフィンテック企業との実証候補として議論している。
(5)BNPL/デジタルファイナンス
Uzum Nasiya、Alif、TBC、AVOなどの競争がさらに拡大すると考えられる。
(6)国際送金
中央アジア域内だけでなく、ロシア、トルコ、中国、中東、南アジアなどへの送金・決済には大きな潜在需要がある。ウズベキスタンの国内資金およびカード決済ネットワークを提供しているHUMOはAnt Internationalとの提携を2025年10月に発表しており、越境決済に対応していく予定である。
(7)イスラム金融
人口の大多数がイスラム教徒であることから、イスラム教の原理に沿ったシャリア金融、投資、保険などは長期的な成長領域となる可能性がある。2026年3月にはイスラム金融に関する法体系が整備されており、国際的にもイスラム金融の集積地となる可能性が期待されている。
(8)規制対応/デジタル認証
金融サービスのオンライン化が進むほど、eKYC(オンラインでの本人確認)、AML、不正検知、サイバーセキュリティの重要性も高まることが想定され、こうした分野に特化したフィンテック企業も出てくるものと考えられる。
日本の金融機関は何を学ぶべきか、変革の“順序が逆”の市場
ウズベキスタンのフィンテック市場は、現在大きな転換点にある。ウズベキスタンの事例が興味深いのは、単にフィンテック市場が急成長しているからではない。銀行、決済、eコマース、通信など異なる出自を持つ企業が、デジタル上の顧客接点を起点として金融サービスを再構築しているからである。成熟した銀行システムを前提としてデジタル化を進めてきた日本とは、変革の順序が逆ともいえる。
今回のフォーラム開催は、ウズベキスタンがシンガポールの成功モデルも意識しながら、フィンテックを国家的な成長産業として育成しようとしていることを象徴している。
今後、オープンファイナンス、口座間決済、イスラム金融、AIなどの制度整備が進めば、同国は単なる中央アジアの新興フィンテック市場ではなく、周辺地域へ金融サービスを展開する集積地となる可能性がある。その意味でも、日本の金融機関やフィンテック企業にとって、今の段階からその変化を追う価値のある市場といえるであろう。
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