- 2025/11/24 掲載
「米国第一」と「日本第一」を両立、高市首相の新しい日米外交ビジネスモデルとは
専門は、現代米国政治、政治マーケティング・広報。とくに米国大統領選挙・政権における経営とマーケティングおよび広報戦略の事例分析。
東京都出身、早稲田大学政治経済学部政治学科卒、早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。埼玉大学教養学部・助教授、同大学人文社会科学研究科・教授(2002年~2022年)を経て、2022年4月より名誉教授。米国ハーバード大学行政大学院・ジョージワシントン大学政治経営大学院にて客員研究員(1999年~2001年)。
主な著作に、「マーケティング・デモクラシー: 世論と向き合う現代米国政治の戦略技術」 (単著、春風社、2014年)、「政治コミュニケーション概論」 (共著、ミネルヴァ書房、2021年)、「現代のメディアとジャーナリズム6:広報・広告・プロパガンダ」 (共著、ミネルヴァ書房、2003年)など
日米首脳の個人的信頼と「対等」のアピール
トランプ氏はビジネスライクな「交渉外交」スタイルを好む反面、個人的な信頼関係を重視することで知られる。高市氏は、巧みな戦略広報でこの信頼を勝ち取り、加えて日米首脳の親密で「対等」な関係のイメージを演出した。1つは、「安倍レガシーのフル活用」である。安倍晋三元首相と近い高市氏は、安倍氏とトランプ氏の個人的親密さを自分との関係に重ね、また安倍氏の「後継者」を強調した。
トランプ氏は日米会談冒頭で、仲の良かった安倍元首相との友情と、安倍氏の高市評価が信頼の礎になることを示し、「(安倍氏は高市氏を)褒めていた」、「いつでも助ける」とのコメントを残している。
高市氏も安倍氏のトランプ対応にならい、臆さぬ賛辞を贈り、一方で協力して新たな外交地平を開く積極的提案を行う。トランプ氏を「アジア、さらに世界の平和と安定に貢献」と褒め称え、ノーベル平和賞推薦を申し出、安倍氏がトランプ氏を説得して始めた「自由で開かれたインド太平洋地域(FOIP)」構想の後継者であり、ともに日米同盟を「さらなる高みに引き上げる」決意を示した。贈り物は、安倍氏の遺品のゴルフパターだ。
2つ目は、トランプ氏と肩を並べるイメージ作りである。
高市氏とトランプ氏は、実は共通点が多い。政権開始時の政治基盤の弱さを、高市氏は「維新の党」、トランプ氏は共和党非主流の右翼と、リスキーな連合を組んで乗り切った。あきらめず、断固たる覚悟で国難に立ち向かう無尽の熱量、率直で明確な物言い、短文でキーワードを繰り返すトランプ流の語り口も実は共通する。ビジネスライクで交渉好き、しかも「競争」指向なのは、片方は不動産王、片方は米国下院議員政策スタッフとして間近に見た80年代日米経済戦争の熾烈さが、両者の考え方や行動パターンの基層にあるためだろうか。
距離の近さをアピールする演出も巧みだった。高市氏は演説の筆頭に、会談直前まで2人だけでワールドシリーズのドジャーズの試合をテレビ観戦していたことを取り上げた。安倍氏同様、外国要人でも普通は乗れない大統領専用ヘリに同乗し、横須賀米軍基地で並び立って演説する姿は、身体の大きさが違うのに「対等な存在感」を印象づける画だ。
基地訪問では、冷静さを表す青色のパンツスーツとローヒール靴に着替え、”女性が制服組の司令官?“という偏見に抵抗するかのように、強く真っ直ぐな姿勢と眼力でトランプ氏と並び立って歩く。高市氏の「役割モデル」は、安倍氏と元英国首相サッチャーだというが、サッチャー氏の信念、凜とした強さ、怖くしたたかな女性政治家の顔をもつ反面、過剰なほど笑顔を振りまく高市氏のバランスは、敵意と親密さを極端に使い分けるトランプ氏と同じだ。
【次ページ】トレードオフから「対等な取引」へ─日米関係のパラダイム転換
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