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  • 2019/09/09 掲載

ふくおかFGが地銀“初”の「ネット銀行」、それでも厳しすぎる現実が待ち受けるワケ

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九州の地銀グループである「ふくおかフィナンシャルグループ(FG)」が、インターネット専業銀行を開業する方針を明らかにした。地方銀行は人口減少よる市場縮小から経営統合の動きが相次いでいるが、経営統合は主にコスト削減が目的であり、必ずしも攻めの方策になるとは限らない。初の試みとなるネット専業銀行の開設は、地方銀行の起爆剤となるのだろうか。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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ターゲットとなるデジタルネイティブ世代は振り向いてくれるのだろうか?
(写真:長田洋平/アフロ)

地方銀行は規模の拡大を目指してきたが……

 ふくおかFGは、福岡銀行、熊本銀行、親和銀行、十八銀行などを傘下に持つ九州最大の金融グループである。同社は2019年8月、ネット専業銀行「みんなの銀行」の準備会社を設立すると発表した。みんなの銀行は、地銀としては初のネット専業銀行であり、2020年度中の開業を目指している。

 みんなの銀行は、従来の銀行の顧客層とは異なる「デジタルネイティブ(インターネットやパソコンが普及していた環境で生まれ育ち、デジタルに慣れ親しんだ世代)」の顧客をターゲットとしており、こうした顧客層を念頭にサービスを開発していくという。

 地銀が新しい顧客層の開拓に乗り出す背景には二つの要因があると考えられる。ひとつは地域の縛りからの脱却、もうひとつはフィンテックへの対応である。

 日本は急速に人口減少が進んでおり、地方ではその影響が顕著となっている。人口が減ると、商圏を維持できなくなるエリアが増え、地域拠点への人口集約が進むことになる。

 たとえば九州であれば、各県の過疎地域から県庁所在地への人口集約が進み、同時に九州全域では、中核都市である福岡市への集約が進む可能性が高い。そうなってくると、エリアごとにすみ分けを行ってきた地方銀行の基本的な営業戦略が成立しなくなる。

 日本の地方銀行が置かれた厳しい環境は国際的にも認識されており、国際通貨基金(IMF)のエコノミストは今後、20年間で一部の地方銀行の預貸率は、現在の水準から4割も低下するというレポートを公表している。

 預貸率というのは、集めた預金のうち何割を融資に回しているのかという指標だが、現在70%程度となっている預貸率が4割下がると、最終的な預貸率は30%を切ってしまう。

 これでは、融資で利ざやを稼ぐことができないので、銀行の経営は立ち行かない。一部の専門家は近い将来、地方銀行の数が半分になるという厳しい予想を出しているが、決して大げさな数値とはいえないだろう。

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現在の危機的状況から、地方銀行が生き残る方法はあるのか?
(Photo/Getty Images)

 こうした状況を前に地銀が取り組んできたのは、経営統合などによる規模の拡大である。

 複数の銀行を統合すれば、重複する店舗を削減したり、システム費用を共通化できるので、それなりのコスト削減が可能となる。規模が大きくなれば、不良債権処理などに対する耐性も増すので、経営を安定化できるという効果も期待できる。ここ数年、各地で経営統合の発表が相次いだが、ほとんどは規模のメリットを追求することが目的だったといって良い。


強者連合の成立で地銀の垣根が崩れてしまう

 しかしながら、経営統合は地銀が抱える問題をすべて解決する処方箋にはなり得ない。

 ふくおかFGの場合、傘下に4つの銀行があるが、福岡を地盤とする福岡銀行はかなりの高収益を上げる一方、ほかの3行の収益力はあまり高くない。経営統合によって主力行である福岡銀行の収益が大幅に拡大するわけではないので、経営統合の効果を得るためには、やはりコスト削減に頼らざるを得ないのが現実だ。

 九州の場合、ふくおかFGのほか、西日本シティ銀行(福岡)を中心とした西日本フィナンシャルホールディングス(FH)、鹿児島銀行と肥後銀行を中心とする九州フィナンシャルグループの3グループ体制となりつつある。

 ふくおかFGと西日本FHにおいては、結局のところ福岡にある主力行に事業を集約する形でコスト削減を進める可能性が高く、有力行どうしの統合だった九州FGも、熊本への集約化が進むかもしれない。これは九州に限った話ではなく、ほかの地銀グループすべてに共通している。

 加えて言うと、地銀の経営統合を進めていった場合、強者連合とそうでないところの差が明確になってしまうという問題もある。

 ふくおかFGがネット銀行設立を発表する約1カ月前、コンコルディア・フィナンシャルグループ(FG)の主力行である横浜銀行と千葉銀行が業務提携すると発表している。両行とも首都圏を地盤としており、地銀とはいえメガバンクに近い業態となっている。しかも、横浜銀行は地銀最大手、千葉銀行は業界3位であり、それぞれの提携行をすべてグループ化すれば総資産は30兆円に迫り、りそな銀行に近い規模が見えてくる。

 もし横浜銀行と千葉銀行が経営統合するといった事態になれば、両行はもはや地銀ではなくなり、限りなくメガバンクに近い存在となるだろう。そうなってしまうと、全国区で大企業と取引するメガバンク、エリアごとに地域企業と取引する地方銀行、という垣根が崩れ、首都圏に展開する大規模銀行と地方を基盤とする中小銀行という区分へのシフトが進んでしまう。

【次ページ】給与振込口座という「利権」を失う可能性も

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