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- 2021/03/09 掲載
マイナンバー利用の“高度化”とは? 「預貯金口座へ番号付与」のインパクト
政府のデジタルガバメント構想
2020年10月、内閣官房主体で国と自治体を包含したデジタルガバメントの横断的な検討体制が発足した。内閣総理大臣を本部長とする高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)の下にデジタル・ガバメント閣僚会議がおかれる構造である。さらに、この傘下には以下3つのWG・タスクフォースが設置されている。- マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善WG
- デジタル改革関連法案WG
- データ戦略タスクフォース
マイナンバー制度WGは、これまで限定的にしか利用されていなかった個人番号の利活用を主体のテーマとしている。マイナンバーの利用高度化・多様化については、2015年の番号制度開始から3年後の2018年度にも民間利活用を計画していたものであり、政府の計画から相当程度遅延しつつも、新たな用途検討が進んでいる。
マイナンバー制度WGで検討もしくは実現されそうなトピックについては改めて紹介するが、金融分野で注目すべき話題はなんといっても「預貯金口座への番号付与」である。現在は限定的及び任意にとどまる預貯金口座への個人番号付与だが、金融庁が期待するほどには個人口座への番号付与は進んでいないのが実態だ。
あくまで任意で顧客から番号の届け出を受ける、という形式を採っていることに加え、口座開設時における煩雑な窓口対応が伴うなど、金融機関における番号収集の動機が形成されていないのだから当然である。これを2021年4月からある意味「義務化」する法案が今次国会において審議予定である。
預貯金口座への付番の背景となったコロナ禍での給付金事務
コロナ禍の緊急対応として2020年夏に1人当たり10万円の個人への給付が実施されたことは記憶に新しい。ただし、自治体の取扱現場では給付手続きを巡って大変な混乱を招く結果となった。今回は郵送での受付のほか、マイナンバーカード保有者はオンラインでの受付も可能とされた。ただし、自治体では住民基本台帳システムは庁内の他のシステムとは独立して厳格に運用されている実態がある。
その結果、多くの自治体では「住民基本台帳システムから住民情報を紙に印刷」し、さらに「オンラインで申請された情報を紙に印刷」した情報を1つひとつ突合する作業を強いられたのである。つまり、マイナンバーカードを利用したオンライン申請は「単に早く役所に申請が届くだけ」にとどまり、その後の工程の多くは手作業であったわけだ。
都市部はともかく高齢者割合の多い地方自治体の場合、多くが郵送での受付となったこともあり、自治体では臨時職員を雇用し、この膨大な作業を手作業での突貫工事でさばかなければならなかったのである。
自治体は住民の口座情報を把握していない
もう1点は住民の口座情報の問題だ。自治体の現場での混乱原因の1つに「住民の振込口座」の確認に手間取ったことが挙げられる。そもそも自治体は住民一人ひとりが(本件は世帯主に振り込まれたのだが)有する預貯金口座を捕捉していない。当時は対象となった世帯主それぞれから申告を受ける格好で振込先口座を把握せざるを得なかった。自治体では、振込先金融機関名、支店名、口座番号、口座名義を1つずつ手作業でシステムに入力することを余儀なくされ、さらにダブルチェック態勢を採る自治体が多かったことが筆者らのヒアリングによって判明している。つまり、「二人一組になり、声を出しながら対象者の口座情報を再鑑」せざるを得なかったのである。
さらに常日頃、地方自治体では住民に書面を交付する際には封筒1つにも気を配っている。すなわち、「役所名と宛先を印刷した」封書もしくはシール封緘付きハガキを前提とした郵送手続きが当たり前なのだ。そのため、住民宛への郵送物が一時的に大量に需要されることになり、結果として「封筒の印刷業者の手が回らずに印刷物が入手できない」といった現象も各地で見られた。
窮余の策として「庁内で封筒などに直接印刷」するという「民間では当たり前のように実施されている」手法を選んだ自治体もあったと聞くが、これまでの自治体の「お堅い」体質ではなかなかそこまで気が回らなかったような発想である。
それはともかくとして、結果、多くの地域で国民が期待するほど迅速には給付金が振り込まれなかった、という事象が発生したわけである。
【次ページ】新規開設口座から個人番号の届け出が義務化
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