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  • 2021/03/12 掲載

“5年で廃止”の約束手形、「商習慣の変革」とデジタル化に必要なものとは

FINOLAB コラム

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約束手形を5年以内に廃止しようとする動きが顕在化している。すでに手形や振込といった支払手段の電子化は進んでいるため、5年という期間は長く思えるかもしれない。しかしそこには、長年の商習慣が変革を妨げる“岩盤”として存在する。ここでは、約束手形が抱えている課題と廃止に向けた最新動向を、廃止後の代替手段も含めて解説する。
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「手形の廃止」がなぜ決まったのか
(Photo/Getty Images)

「約束手形廃止」に向けた動きが本格化

 経済産業省は2021年2月19日、「約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会」を開催し、企業間の支払いに使う紙の約束手形について、2026年を目処に廃止するように産業界へ呼びかけていく方針を示した。

 同検討会は、2020年7月より5回にわたって経済産業省のもとで中小企業庁によって開催されており、これまでの議論を踏まえて報告書がまとめられた。そこでは、従来の取引慣行を見直すために「約束手形の利用の廃止等に向けた自主行動計画」を策定すべきとしている。

 こうした動きが事前に報道されたことを受け、全国銀行協会の三毛 兼承会長は、2021年2月18日の記者会見において次のように見解を示した。

「銀行界としては、足元の大きな環境変化を踏まえたデジタルトランスフォーメーション推進の機運ならびにペーパーレス、印鑑レス、非対面化といった社会的要請の高まりも踏まえ、約束手形に限らず、支払手段全般の電子化を通じて、企業の生産性向上、ひいては社会全体のコスト削減の実現が期待されているものと受け止めている」(三毛氏)

 さらに「今夏を目途という期限を目指して、約束手形の利用の廃止等に向けた自主行動計画を策定する予定」とコメントした。

約束手形の歴史と現在の状況

 「約束手形」は、取引先への支払を猶予してもらい、振出人側の資金繰りの負担を軽減する手段として用いられてきた。特に戦後の高度成長期においては、発注する企業は資金不足を補うため、原材料の購入や下請事業者への支払いに約束手形を用いる企業間信用が広く利用されるようになった。

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約束手形(見本)
(出典:全国銀行協会)

 このような手形や小切手を持ち寄り、お互いの銀行が支払うべき手形類を相互に交換して、受取額と支払額の差額を日本銀行または交換所の幹事銀行で決済する制度が「手形交換制度」である。そして、この制度を担うのが、各地の銀行協会が運営する「手形交換所」(全国179カ所)である。

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手形交換制度の仕組み
(出典:全国銀行協会)

 「手形」と呼ばれる商習慣は江戸時代から存在しているが、現在の形の「約束手形」は明治時代以降、「為替手形約束手形条例(1872年)」を出発点として法制度の整備が進められ、基本的な法体系は「手形法(1932年)」において確立した歴史がある。

 江戸時代に為替取引の中心であった大阪に手形交換所が設けられたのは1879年と、東京手形交換所の設立(1891年)に先行しているのは興味深い点である。

 1990年代に入り、それまで資金不足であった法人部門(民間非金融法人企業)が資金余剰に転じたことや、エクイティファイナンス(新株発行による資金調達方法)など資金調達手段が多様化したこと、インターネットバンキングが普及したことなどによって、支払手形の発行残高は減少している。具体的には、1990年度の約107兆円をピークに25兆円まで減少した。

 ただし、2007年度以降は下げ止まっており、銀行のデジタル化を阻む「岩盤業務」の1つと考えられる。

 なお、手形の利用が多いのは、卸売小売、製造、建設といった特定の業種であり、資本金10億円以上の大企業の発行残高が多いという特徴もあることから、下請けとの力関係の中で続いてきた取引慣行と考えることができる。

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支払手形残高の推移
(出典:財務省財務総合政策研究所「法人企業統計調査」)

【次ページ】約束手形取引の問題点

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