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  • 2021/03/29

デジタル庁が旗を振る「行政デジタル基盤」は可能か? 早くも前途多難である理由

大野博堂の金融最前線(34)

本年9月にはデジタル庁が設置され、国・都道府県・自治体が一体となった行政デジタルプラットフォームの構築が進もうとしている。IT化で行政手続きの高度化や合理化を推進しようという試みだ。本稿では、国民との接点を担う現場となる自治体側を取り巻く環境とクラウド利用の課題について解説する。

NTTデータ経営研究所 パートナー 金融政策コンサルティングユニット長 大野博堂

NTTデータ経営研究所 パートナー 金融政策コンサルティングユニット長 大野博堂

93年早稲田大学卒後、NTTデータ通信(現NTTデータ)入社。金融派生商品のプライシングシステムの企画などに従事。大蔵省大臣官房総合政策課でマクロ経済分析を担当した後、2006年からNTTデータ経営研究所。経営コンサルタントとして金融政策の調査・分析に従事するほか、自治体の政策アドバイザーを務めるなど、地域公共政策も担う。著書に「金融機関のためのサイバーセキュリティとBCPの実務」「AIが変える2025年の銀行業務」など。

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デジタル庁が旗を振る「一体型デジタル行政基盤」は可能か?
(Photo/Getty Images)


自治体における業務システムの全体像

 自治体では、住民記録(住民基本台帳)システムを核に、法定の自治事務、法定受託事務、法定外事務を担うシステムが業務ごとに用意されている。法定の自治事務とは個人住民税、介護保険、国民健康保険などが挙げられる。法定受託事務とは、戸籍、国民年金、生活保護といった業務が該当する。さらに、法定外事務とは印鑑登録などの業務が中心となっている。

 総務省公表資料によれば、図のように自治体における情報システムは多岐にわたっており、業務ごとに半ば独立した情報システムが乱立しているのが実態だ。

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自治体の主要な情報システム
(出典:総務省公表資料)

 とりわけ重要性の高い住民基本台帳システムは、他の業務やシステムと連携せず、ブラックボックスのように保護・管理されている。他システムとの接続がないため、自治体職員は住民に関する手続きを実施する際には、その都度住民基本台帳システムから必要な情報を印刷して他の情報と突合する、といった作業に追われることとなる。

 2020年夏のコロナ禍での給付金事務についても、住民の請求に応じ、自治体では手作業での住民情報の突合作業に追われることとなった。これは自治体側のシステムが業務間連携を実現することを想定していないためである。すなわち、突発的な事務などを迅速にこなすためのインフラが整っていない、と見ることができよう。

 したがって、今後予定されているワクチン接種についても、相応の混乱を招くであろうことが容易に想像できる上に、手続き中に住民情報の変更(結婚による苗字変更、転居、他自治体への転出・転入)があった場合には「そもそも住民であることの確認」作業が複雑化することになりかねない。

 こうした自治体における管理上の課題に着目し、内閣官房では今次ワクチン接種の段取りを検討する際、新たに国と自治体との間でワクチン接種対象となる住民管理の一元化をシステム整備で実現しようとした経緯がある。

 ただし、短期間にシステムを整備することが困難である上、先行してリリースしたcocoa(感染者との接触情報の管理・通知ツール)の不安定な動作や拙速な開発・運用体制などを指摘されたこともあり、本件の実現が見送りとなっていた。

自治体基幹業務システムへのクラウド導入

 自治体システムにおいても、既にクラウドの利用は進んでいる。ただし、国の調査によれば、メインフレームの利用団体は引き続き多数にのぼり、とりわけ人口30万人以上の自治体におけるメインフレームの利用比率は現在でも60%超とみられる(2014年<平成26年>の国の調査では人口30万人以上の自治体で61.2%)。

 このような中、大規模震災などにおいて自治体がローカルで保存する住民情報が庁舎の倒壊により喪失するといった事象も発生し、政府ではとりわけ重要な住民基本台帳のバックアップなども念頭に、自治体システムのクラウド化を推進しつつあるのが実情だ。

 こうした環境下、2019年8月には政府の「住民記録システム等標準化検討委員会」において「地域情報プラットフォーム標準仕様」の概要が示された。これは、「自治体の庁内における業務システムのマルチベンダ化を進めるために、庁内のさまざまな業務システム間の情報連携を可能とする標準仕様」、とされるものである。

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「地域情報プラットフォーム標準仕様」の概要
(出典:総務省公表資料)

 そこでは、自治体業務のうち、住民基本台帳、個人住民税等26業務の情報システムについて標準化(団体内統合宛名、防災、教育などの基幹系以外の業務・機能を含めると32システム)を目指すとされていた。具体的には、業務システム間の連携データ項目やデータ連携を実現する技術要素を標準化するものだ。これにより業務ごとに最適なIT製品の選定が可能となるだけでなく、コスト削減も見込まれる点がメリットとなる。

 たとえば、業務ごとにシステムの開発・提供ベンダーが異なる、いわゆるマルチベンダーを実現することも可能となる。実際、地域情報プラットフォームでは、システム間での情報連携の基盤となるインタフェースが標準化されるため、いずれのベンダー同士でも情報のやり取りが可能になることが期待されている。

 この2021年4月から作業が開始される自治体システムの標準化・共通化の要件定義作業は、これに基づく実際の開発フェーズとして位置づけられることとなる。ただし、図で示した通り、自治体におけるシステムは個々の業務に紐づいてデザインされている。当然ながら、自治体における業務は所管する中央省庁の法令に基づく要件として事務が定義されている。

 そのため、地域情報プラットフォームとして自治体システムのクラウド化や相互連携を目指そうにも、あまりにも対象業務が多いことに加え、カウンターとなる自治体の情報システム部門の担当者は全体でもわずか数人にとどまる例が珍しくない。

 したがって、政府が省庁ごとに所管する自治体事務の標準化・共通化の要件を定義しようとした場合、同時に自治体の複数の業務にかかる情報システムの検討が平行して実施されることになり、自治体側のリソースが追い付かなくなることが容易に想像されるのだ。

 自治体の業務ごとに担当システム要員が自治体側に張り付いて業務要員や現状把握作業をフォローできる環境にあるならばともかく、前述のとおり自治体職員はぎりぎりの員数で業務を運用するケースが多い。このことからも、政府が想定するスケジュール通りに工程が進捗するとは考えにくい。

【次ページ】デジタル改革関連法案WGにおける自治体システムを巡る議論

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