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  • 2021/08/30 掲載

コロナ変異株流行で「下落する日本株」と「上昇する米国株」、決定的な違いとは?

【連載】エコノミスト藤代宏一の「金融政策徹底解剖」

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新型コロナウイルスの変異株が猛威を振るい、日経平均は2万7,000円台まで落ち込んだ。一方、米国株が大きく売られるといった事態に陥ってはいない。なぜ、これほど実体経済に影響がある変異株の流行を受けても、米国株は堅調なまま推移しているのか。米国株と日本株の違いを探ると、原因はFRBと日本銀行の金融政策の違いが関係しているようだ。

執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 藤代宏一

執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 藤代宏一

2005年、第一生命保険入社。2008年、みずほ証券出向。2010年、第一生命経済研究所出向を経て、内閣府経済財政分析担当へ出向し、2年間「経済財政白書」の執筆、「月例経済報告」の作成を担当する。2012年に帰任し、その後第一生命保険より転籍。2015年4月より現職。2018年、参議院予算委員会調査室客員調査員を兼務。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。担当領域は、金融市場全般。

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変異株が流行し、日本株は下落する一方、米国株は堅調なまま推移している。両社の違いはどこにあるのか?
(Photo/Getty Images)

コロナ変異株流行も…米国株式が急落しないワケ

 1日あたりのワクチン接種が100万回を超えた6月中旬頃、筆者は7~9月期以降に個人消費が回復基調を辿ると期待していた。なぜなら、ワクチン接種で先行する欧米諸国では、高齢者のワクチン接種に目途がつく頃に感染状況が安定に向かい、経済制限が段階的に解除され、個人消費が回復に向かった経緯があるからだ。

 しかしながら、7月下旬になると変異株の猛威によって国内のコロナ感染状況は再び悪化し、政府は緊急事態宣言の延長・拡大に踏み切る事態に追いやられ、筆者の描いていたシナリオは修正を迫られた。

 8月入り後、日経平均が2万7,000円台まで落ち込んだのは、筆者と同じように考え行動していた市場関係者が多く存在した可能性を示唆している。

 それとは対照的に米国株式は8月に入っても連日で最高値を更新している。コロナの変異株の脅威は米国にも襲いかかっているが、米国株が激しく売り込まれる事態には至っていない。

 その背景には「コロナが無事終息なら業績拡大」というメインシナリオと「もしコロナ感染再拡大なら金融緩和によってコロナ相場第二幕の幕開け」というサブシナリオが併存していることがあるだろう。端的に言えば「いずれにせよ株価上昇」という思考パターンだ。

 仮に実体経済がダメージを被ったとしても、出口を模索中の金融緩和が一転長期化の公算大となれば、投資家は、“じゃぶじゃぶ”に供給されたおカネが溢れ出して金融市場になだれ込む展開を想像する。このような「期待」そのものが金融緩和の潜在的効果と言えるのではないか。

 こうして考えると最近の日本株がさえないのは金融政策に対する期待が低いからと換言できる。

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日本株がさえないのは金融政策に対する期待が低いから?
(Photo/Getty Images)

日本経済の現状、何が問題か?

 投資家の金融政策に対する期待がFRBと日銀で大きく異なるのは、米国の金融緩和は実体経済、特にGDPの7割を占める個人消費(含む住宅投資)を刺激する効果があるからだろう。

 他方、日銀の金融緩和が実体経済を刺激するとの期待は低く、実際、コロナ禍における金融緩和が実体経済を刺激した証左はない(政府と連携して実施した資金繰り支援策は倒産抑制に寄与したが、あくまで日銀の役割はサブである)。

 ここで8月16日に発表された4~6月期のGDP統計で日本経済の現状を整理しておきたい。実質GDPは前期比プラス0.3%、同年率プラス1.3%であった。事前予想よりもやや強めの数値だが、1~3月期の落ち込み(前期比年率マイナス3.7%)の一部を取り戻したに過ぎず、過去数四半期をならしてみれば弱い結果である。


 GDPの約6割を占める個人消費は前期比プラス0.8%、同年率プラス3.4%と2四半期ぶりにプラス成長であった。形態別に見ると非耐久財(前期比マイナス0.6%)が減少した反面、耐久財(プラス0.4%)と半耐久財(プラス1.9%)は増加し、対面型サービス業の不振にもかかわらず、サービス消費(プラス1.5%)も戻した。

 もっとも、個人消費の水準は2019年同期比でマイナス4.8%と停滞しており内需の弱さを象徴している。また速報性に優れたサービス業PMIや景気ウォッチャー調査が7月も低水準で推移していることを踏まえると、先行きも回復は期待しにくい。

 他方、設備投資は前期比プラス1.7%、同年率プラス7.0%と堅調であった。実質輸出が既往最高レベルで推移する中、製造業は能力増強目的もあり設備投資に前向きと見られ、機械受注や企業サーベイ(日銀短観、PMI)の強さと整合的な結果であった。

 その反面、内需停滞に直面する非製造業は設備投資に消極的な姿勢が長引く可能性がある。たとえば、機械受注統計に目を向けると非製造業からの受注は持ち直しの動きが一服している。コロナ感染状況の好転が遅れれば、投資計画を修正せざるを得ない企業も相当数出てくると思われる。

 また輸出の強さも続いた。前期比プラス2.9%、同年率プラス12.3%と4四半期連続で増加であった。米国向けの自動車、アジア向けのIT関連財が好調に推移。自動車は半導体不足による供給制約に直面したものの米国の販売好調が効き、IT関連財は世界的な需要好調によりIC、半導体製造装置、半導体部材等が強く伸びた。

 以上見てきたように日本のGDPは内需、個人消費に弱さが集中している。現在のところ企業部門(設備投資、輸出)がそれを補う構図となっているが、国内コロナ感染状況の好転が遅れると、やがて企業の設備投資(特に内需向け)は下火になり、輸出依存度が強まることで海外景気減速に脆弱になってしまう。そのため、個人消費の回復が急務であると言える。

【次ページ】なぜ日銀金融政策は「無力」か? 米国のようにはいかないワケ

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