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  • 2023/09/08 掲載

レノボの「最先端工場」が凄すぎる? 独自AI活用による“6時間→90秒”の生産革命の全貌

【連載】現役サプライチェイナーが読み解く経済ニュース

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新型コロナウイルスの感染拡大は、企業の部品調達や製品供給を大きく狂わせた。しかし、当時、迅速なサプライチェーン改革により、影響を最小減に抑えた企業がある。それが『Think Pad』で有名な世界的PCブランド「レノボ」だ。“1秒に2台”ものPCを生産するなど、驚異の生産能力を誇る同社の最先端工場は何が凄いのか。独自AI活用によって“6時間→90秒”を実現した同社の生産革命を解説したい。

執筆:泉啓介(いずみ・けいすけ)

執筆:泉啓介(いずみ・けいすけ)

CSCP、CPIM。『全図解 メーカーの仕事』(ダイヤモンド社)の著者山口雄大、行本顕、小橋重信との4名によるグローバルSCM 推進ユニット「SCM4」で顧客サービスとコストのパートを担当。現在外資系化学メーカーに勤務。生産計画や需要予測、需給調整などサプライチェーンのプランニングに関わる業務に主に携わる。SCMの国際標準を策定する米ASCM/APICSのCPIM(在庫管理や需給調整に関する知識)とCSCP(サプライチェーン全般のマネジメントに関する知識)を取得。同団体認定インストラクター。APICSディクショナリーの翻訳メンバーにも第14版より参画している。最新版は『APICSディクショナリー第16版』(生産性出版、2020)。

■連載『現役サプライチェイナーたちが読む経済ニュース』について
本連載は、150社以上のSCM実務家と議論してきた経歴を持つ需要予測のプロフェッショナルである山口雄大氏、ロジスティクス専門のコンサルティングファームを経営する小橋重信氏、日系消費財メーカーの経営企画室に勤務し、グローバルSCMの世界標準を主導するASCM (Association for Supply Chain Management)の国際資格のインストラクターも務める行本顕氏、大手外資系メーカーでSCMを担当し、同じくAPICSの資格を保有する泉啓介氏による共同連載。需要予測、ロジスティクス、世界標準のSCMの世界観と整理軸、外資系のSCMといったそれぞれの専門分野の目線から経済ニュースを読み解く。

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“1秒に2台”ものPCを生産する、レノボの最先端工場は何が凄いのか?
(Photo:N.Z.Photography/Shutterstock.com)

パンデミックどう切り抜けた? レノボの工場運営とは

 レノボは自社・合弁会社含め中国・ドイツ・ハンガリー・インド・メキシコ・アメリカ・アルゼンチン・ブラジル・日本など世界に35以上の生産工場があり、年間1億台以上の製品の出荷を行っています。そんなレノボも、多くの企業と同様に、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けました。

 たとえば、レノボの工場の1つがある中国の武漢では2019年12月に感染者が報告されており、2020年1月には同市でロックダウンが発動されています。レノボも2020年の1~2月には武漢市のスマートフォン工場含めた中国の複数の工場について、現地で示された制限に対応するか、完全封鎖する必要があったと振り返っています。

 そうした中、工場の従業員がいかに安全に仕事に復帰するか、製造プロセスに関連するメンバーの安全確保のための適切なチェックをどのように行うかの検討・実行を進めました。当時、同社は工場の運営に関して次のような対応を進めました。
■供給量の調整
 2020年1月から、同社は供給能力と工場の状況を「作戦指令室」で可視化しつつ、すべてのリーダー職に就く人間がエンドツーエンドの正しい状況を把握できるよう整備している。これにより、今後発生する影響を先取りし、サプライヤーや工場、各国のリーダーと明確にコミュニケーションをとることが可能になった。
 その際、過去数年間に構築していたデジタル機能を活用することでチームメンバーが自宅でシームレスに作業ができたことも有効であった。

■工場の従業員の確保
 工場での生産再開と生産量の増加に伴い、同社はオンラインで人材採用ができるように整備している。また、従業員のバスでの輸送、現場までの移動、カフェテリアや敷地内の宿泊施設、生産ラインにわたってあらゆる要素を検討し、必要な対応を行った。
 また、新しいメンバーと経験豊富なメンバーを組み合わせて品質を確保する運用方法を採用したほか、ツールの準備して人員配置・供給予測・パフォーマンス管理に役立てた。

 こうした対応策により、工場運営の影響を最小限に抑えたのです。そして、これらを実現するには、複数チーム間のコラボレーションが不可欠だったのです。

国境閉鎖に運航停止…レノボは供給問題をどう解決した?

 コロナ禍では、ロジスティクスも大きな影響を受け、飛行機の運行停止や世界の国境の閉鎖などが発生したため、さまざまな対応を行う必要があったと振り返っています。

 通常時、同社の製品の航空機輸送量は旅客便が半分以上を占めていますが、旅客便の運航が大きく減少して必要な量が輸送できなくなってしまったため、中国向けにマスクなどを運んだ貨物飛行機の帰り便のスペースを確保したり、工場から船・トラック・鉄道などでいったん輸送した後、シンガポールなどのハブ空港から飛行機で輸送したりするなど、さまざまな手段をとりました。

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コロナ禍で飛行機の運航停止が相次いだ中、レノボは製品供給を止めないよう何をしたか?
(Photo:Tada Images/Shutterstock.com)

 製品の生産拠点についても、たとえば米国や欧州の供給需要を満たすために、新たにブラジルの工場で製造できるように生産ラインを移動するなど、生産場所の複数拠点化を進め、必要な製造量を確保するような対応も行っています。

 また、リーダーの振り返りとして、危機管理には、早期のエグゼクティブのエンゲージメントと意思決定、明確でひんぱんなコミュニケーションが必要だと述べられています。また、グローバルの拠点をどのようにデザインして、レジリエンス(回復力)、アジリティ(俊敏性)の高い製造ネットワークを構築するかが、供給に混乱があった場合も顧客にサービスを提供し続けるためには重要だったと述べられています。

 このように、コロナ禍においても迅速な対応により、危機を乗りこえた同社ですが、その象徴的な事例として評価されているのが、レノボが中国で運営する合肥工場です。ここからは、同社の最先端工場の取り組みを解説します。 【次ページ】レノボ「最先端工場」の秘密、“6時間→90秒”のスゴイ裏側

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