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- 2022/05/17 掲載
アップルが大苦戦するサプライチェーン再構築、生産拠点の中国依存から抜け出せない事情
巨大なサプライチェーンはリスク要因となりつつある
1990年代以降、世界経済はグローバル化が進み、世界各地から自由に製品を調達するのはごく当たり前のことになった。巨大企業は全世界にまたがる精緻で巨大なサプライチェーンを構築し、1円でも安く製品を調達しようと試みている。こうした巨大サプライチェーンは、平時であれば、ITを駆使することでうまく運用できるが、非常事態が発生するとその脆弱性が露呈してしまう。近年、巨大なサプライチェーンを脅かす事態が次々と発生しており、企業を悩ませている。最も影響が大きかったのはやはりコロナ危機だろう。
全世界的な感染症の場合、サライチェーンのどこか1カ所でも集団感染が発生すれば、たちまち物流全体が滞ってしまう。どこで感染が拡大するのか事前に予測することはできないので、サプライチェーンが巨大であればあるほどリスクは大きくなる。企業は全世界に拡大したサプライチェーンをリスク要因とみなすようになっており、近隣調達への切り換えを進めている。そして、この動きに拍車をかけているのが、米中の政治的対立である。
トランプ政権以降、米中の対立が激しくなっており、両国は互いに高関税をかけるなど貿易戦争状態となっている。加えて両国は、相手国で生産された工業製品について安全保障上の脅威と見なすようになっており、特定品目については第三国を経由した貿易にも制限を加える意向を示している。そうなると、米中市場は完全に分断されることになり、企業は米国向けサプライチェーンと中国向けサプライチェーンを別々に構築する必要に迫られる。
部品大手の村田製作所は、二重投資によってコストが増加する可能性あると表明しており、米アップルもサプライチェーンの再構築に動き出していると言われる。だが、全世界レベルで調達の最適化を行ってきたアップルのような企業にとって、サプライチェーンの再構築は容易な作業ではない。
サプライヤーの42%は中国本土
2020年時点において、アップルは世界各地にある約600の事業所から部品などを調達している。図はアップルのサプライヤーを地域別に整理したものである。中国が最も多く全体の42.1%を占めており、次いで日本(15.9%)、台湾(6.2%)、韓国(5.0%)と続く。よく知られているように、同社は製品の最終組み立てをEMS(電子機器受託サービス)企業に委託している。アップルから組み立てを請け負う企業としては台湾の鴻海精密工業が最も有名だが、同じようにアップルから組み立てを受託している企業の多くは台湾企業であり、一方で、実際の生産拠点の大半は中国本土にある。
つまり、アップル製品の組み立ては、企業の国籍という点でも、具体的なオペレーションという点でも中国大陸近辺が中心地ということになる。そうなっている最大の理由は、東アジアは、世界で最も工業集約化が進んだ地域であり、日本、韓国、中国、台湾という技術力の高いメーカーを擁する国が多数、存在しているからである。
グローバル企業のオペレーションを最適化するという観点においては、こうした地域にサプライヤーを集中させた方が効率が良く、同社のサプライヤーもこのエリアが最も多くなっている。
同じグローバル企業でも自動車の場合、様子が少し異なっている。自動車は部品点数が多く、しかも製品のサイズが大きく重量もあるため、1カ所で生産して世界に輸送するというオペレーションは効率が悪い。消費地に近いところで生産した方が都合が良いため、サプライチェーンは広範囲に拡大している。
GM(ゼネラルモーターズ)は、自動車の生産に必要な10万点の部品を全世界の5500カ所から調達しているが、サプライヤーが展開する国や地域は多岐にわたる。ドイツ企業はクラッチやシート、窓ガラス、照明などを、スウェーデン企業は過給器などを、ベルギー企業はタイヤのホイールを生産している。中国メーカーは、電子モジュール、バッテリー、スイッチ類、ケーブルなどを生産しており、メキシコからはシートベルト、オーディオ、アンテナなどが提供されている。このほかスペイン、ブラジル、韓国、インド、カナダにも大手のサプライヤーがある。
【次ページ】東南アジアへの移管では中国リスクは軽減できない?
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