- 2026/03/16 掲載
スゴイはずが…5社比較で見えた「人工ダイヤモンド」の惨状…逆転への「勝機2つ」とは(2/2)
人工ダイヤ市場が迎えた「3つの転換点」
各社の決算を並べてみると、人工ダイヤモンド事業が必ずしも成長産業として順風満帆に拡大しているわけではないことが浮かび上がる。赤字を計上する企業も少なくない。宝飾用人工ダイヤモンドの価格下落が続く一方、工具や半導体など産業用途は需要こそあるものの、競争激化や在庫調整の影響を受けやすい。決算に表れたこうした動きを整理すると、人工ダイヤモンド市場は今、3つの大きな転換点の上に立っている。
■転換点1:宝飾と産業の分断
第1の転換点は、宝飾と産業の分断だ。宝飾は価格がブランドに直結しやすく、供給過剰になれば一気に値崩れする。産業は「性能」で買うため、価格は下がっても採用が広がる余地がある。ただし、産業側でも評価・認定に時間がかかり、需要の立ち上がりは直線ではない。
■転換点2:量産技術の進化
第2は、量産技術の進化だ。HPHT(高圧高温)やCVD(化学気相成長)などの製法の改善は供給能力を押し上げ、宝飾の価格下落を加速させた。Lightboxが象徴するように、値付けの基準が変わると流通全体の期待値も変わる。
■転換点3:半導体用途の台頭
第3は、半導体用途の台頭である。ダイヤモンドは放熱材料としての強みを持ち、研究開発用基板としての展開も進む。この用途は「量が小さくても単価が高い」可能性がある一方、品質管理と長期供給が条件になる。住友電工のような総合素材勢が強い土俵だが、特定用途に絞った新興勢にも、設計インから入る余地は残る。
日本企業の勝機は「大きく2つ」
各社の決算や市場の動きを総合すると、日本企業が人工ダイヤ事業で競争力を発揮できる領域は限られてくる。さらに、日米関税合意を受けて製造業の対米投資が加速しており、材料や加工技術も米国の半導体・先端産業のサプライチェーンにどう組み込まれるかが問われる局面に入った。こうした環境変化を踏まえると、日本企業の勝機は大きく2つに整理できる。
■勝機1:単結晶ダイヤモンド基板
1つは単結晶ダイヤモンド基板だ。これは、半導体メーカーなどの顧客が材料の品質や信頼性を長期間にわたって評価する必要があるため、採用までの時間が長くなる。しかし一度採用されれば取引が継続しやすく、新規参入も容易ではないため、参入障壁は高い。
顧客が求めるのは「大きさ」よりも、欠陥密度、内部歪、供給の安定だ。住友電工が品質管理を前提に研究開発用基板を訴求するのは、この条件を踏まえた動きと言える。EDPが直面したように、販売チャネルや輸出入手続きが詰まると、技術より先に商流が止まってしまう。
■勝機2:ダイヤモンド半導体という次世代材料
もう1つは、工具・砥粒・ワイヤといった「加工プロセス」側で、顧客の生産性改善と一体で伸びる領域だ。その象徴がダイヤモンド半導体だろう。
ダイヤモンドが「半導体そのもの」になる可能性は研究段階から議論されてきた。ただ材料が優れていても、加工・接合・実装を含めたエコシステムが整わなければ普及しない。
日本企業が強いのは、材料と加工の両方を持ち、顧客の工程に入り込んで改善を積み上げる文化だ。旭ダイヤモンド工業や中村超硬、住石HDの新素材がここで生きるなら、決算のバラつきはむしろ淘汰の前段階に見える。次の焦点は、宝飾の値崩れと切り離して、産業用途の採用がどこまで実需に変わるかである。
人工ダイヤモンド関連銘柄といっても、宝飾用LGDを巡る市場変化の影響を強く受ける企業、工具や加工プロセスに強みを持つ企業、資源配当で利益を上げる企業、インフラ素材企業など、実態はまったく異なるセクターにまたがる。各社の決算が示すのは、用途やビジネスモデルによって明暗が分かれる過渡期の姿である。宝飾市場の価格下落と産業用途の拡大という相反する動きの中で、企業は収益モデルの再構築を迫られる。
単結晶ダイヤモンド基板や放熱材料などの新用途が本格的な市場に育つかどうかはまだ見通せない。人工ダイヤモンドが製造業の中核素材として定着するのか、それとも限られた用途にとどまるのか。半導体投資の対米シフトを含めたサプライチェーン再編の中で、日本企業の技術がどこまで採用されるかが、今後の市場の広がりを左右する。
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