- 2026/06/08 掲載
職人の技を残したい…岐阜の町工場が「生成AI」で挑む、超切実な「技能承継の突破口」
連載:勝てる工場のつくり方~田中工業編~
東北大学大学院応用化学専攻修了。大手製造業を経て自治体に勤務し、大学での産学連携業務も経験。現在はビジネス分野を中心に取材・執筆。導入事例、記事広告、技術紹介、セミナー記事、SEO記事、法令解説記事などのほか、企業向けコンテンツ制作にも携わる。理系・技術職出身で、環境分野(脱炭素・廃棄物・水質)に強み。脱炭素アドバイザー(環境省認定)、公害防止管理者。著書に『ビジネス教養として知っておくべきカーボンニュートラル』(ソシム)。
生成AIで変えたい…「技能承継」への切実な危機感
田中工業は1960年創業、従業員17名の金属加工会社。大型部品の加工を強みとし、工作機械メーカーを中心に取引を広げてきた。門型マシニングや大型旋盤などの設備を活用し、5メートル級の部品にも対応している。その現場でいま進んでいるのが、生成AIの活用である。田中氏は数年前からAIを活用し、業務に即したアプリやツールを自ら開発してきた。製品表面の傷を検出するアプリや、作業手順を動画化した多言語対応マニュアル、受注から請求までを一元管理するシステムなど、その取り組みは多岐にわたる。
背景にあるのは、生成AIの急速な進化だ。従来は専門知識が必要だったアプリ開発も、対話形式で一定の機能を持った形で開発できるようになった。田中氏はSNSなどで情報を収集し、試行錯誤を重ねながら現場に取り入れている。
では、なぜここまでAI活用に取り組むのか。田中氏は「一番大きいのは技術承継の問題です」とその背景を話す。同社では従業員の半数以上が65歳を超え、70代の職人も現役で活躍している。技能やノウハウは競争力の源泉である一方で、その多くが個人に依存しており、承継が進んでいないのが実情だ。
長年培ってきた技術を一から引き継ぐには時間がかかる。写真や動画、文章で記録する方法もあるが、日々の業務に追われる中で十分に整備するのは容易ではない。
「このままでは、同じものが作れなくなってしまう」と田中氏は危機感を口にする。こうした切実な思いを原動力に、生成AI活用に励んでいる。ここまでに至った背景には、やはり生成AI活用の実力を実感した経験が根底にあるという。そのエピソードについて紹介しよう。
【エピソード1】社労士の顧問契約を見直した「就業規則への活用」
田中氏が生成AIを本格的に業務へ活用するように至った背景には、日常業務の中で積み重ねてきた小さな成功体験がある。その1つが、就業規則への活用である。就業規則は文量が多く、細部まで把握するのは容易ではない。疑義が生じるたびに読み返したり、社労士に相談したりする必要がある。だが手間がかかったり、些細な内容では相談をためらうことがあったり、社労士と改善の方向性にズレが生じるということもあった。
こうした中で、ChatGPTにファイルを読み込ませて質問できるようになったことは、現状を打開する1つの契機となった。田中氏が自社の就業規則を読み込ませて確認してみると、「思った以上にきちんと答えてくれました」と振り返る。
規則を見直したい場合も、即座に方向性や判断材料を示してくれる。労働基準監督署への手続きについても、ChatGPTを活用することで、自力で完結できるものも増えていった。社労士との顧問契約継続について、改めて見直すきっかけとなったという。
【エピソード2】システム選定の「意思決定」が爆速化
さらに活用の幅を広げたのが、ChatGPTのDeep Research機能である。AIがWeb上の情報を収集・整理し、調査内容をレポートにまとめることが可能になり、調査業務の進め方が一変した。従来、ソフトウェアや備品の購入を検討する際は、複数のサイトを見比べながら情報を集める必要があり、業務の隙間を縫いながら1週間以上、調査に時間をかけることも珍しくなかった。それがDeep Researchを活用することで、必要な予算や購入先といった判断材料を即座に整理できるようになった。
「これはやばいなと思いましたね。意思決定のスピードがめちゃくちゃ上がりました」(田中氏)
図面管理システムの導入を検討した際は、ネットワーク設定や必要な機器など、それまで知見がなかった領域の情報を短時間で把握できたという。従来は販売店に連絡し、現地での確認や見積もりを経て検討を進めていたプロセスが、大きく簡略化された。
こうして田中氏は、生成AIの進化と共に用途を広げ、業務への応用に確かな手応えを感じていった。 【次ページ】【エピソード3】Claude Codeで「要件定義の常識」破壊
AI・生成AIのおすすめコンテンツ
AI・生成AIの関連コンテンツ
PR
PR
PR