• 2026/06/05 掲載

トヨタ・ホンダも超本気「ダイヤモンド半導体」とは?“究極の半導体”のヤバい実力

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2026年6月に世界初の量産工場が福島県で完成したことで、改めて注目を集めたダイヤモンド半導体。ダイヤモンドは半導体として極めて優れた特性を持つことから、「究極の半導体」と呼ばれてきた。近年、トヨタやホンダといった日本企業や、佐賀大学といった日本の大学・研究機関を中心に技術的なブレークスルーが相次ぎ、量産化への道筋がようやく見え始めている。ダイヤモンド半導体が実用化されれば、通信、モビリティ、エネルギーなど幅広い産業に大きなインパクトを与える可能性が高い。そこで本記事では、ダイヤモンド半導体の基礎知識から近年の企業動向までを整理しつつ、世界に日本がリードできるか、解説する。
執筆:ビジネスライター 和地 慎太郎(わち・しんたろう)

ビジネスライター 和地 慎太郎(わち・しんたろう)

東北大学大学院応用化学専攻修了。大手製造業を経て自治体に勤務し、大学での産学連携業務も経験。現在はビジネス分野を中心に取材・執筆。導入事例、記事広告、技術紹介、セミナー記事、SEO記事、法令解説記事などのほか、企業向けコンテンツ制作にも携わる。理系・技術職出身で、環境分野(脱炭素・廃棄物・水質)に強み。脱炭素アドバイザー(環境省認定)、公害防止管理者。著書に『ビジネス教養として知っておくべきカーボンニュートラル』(ソシム)。

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ダイヤモンド半導体とは何かをわかりやすく解説
(AI(Gemini/Nano Banana)を使用して生成)

ダイヤモンド半導体とは何か、なぜ注目される?

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【画像付き記事全文はこちら】ダイヤモンド半導体に関する日本企業による主な取り組みまとめ。詳しくは後ほど解説します
 ダイヤモンド半導体とは、人工的に合成したダイヤモンドを材料とする半導体である。

 ダイヤモンドは炭素原子が強固に結合した結晶構造を持ち、硬度や熱伝導性が極めて高いことから、古くから切削工具や工業材料に利用されてきた。もともとは電気を通さない絶縁体だが、不純物を加えて電子の流れを制御することで、半導体として機能させることができる。

 現在、主流であるシリコン半導体は、資源の豊富さや加工のしやすさから広く普及しているが、熱や高電圧に弱く、大電力を扱う環境では性能の限界が指摘されている。そのため、EVや再生可能エネルギーの発電施設などの分野では、より効率的な電力制御を実現するため、シリコンに代わる新しい材料が求められてきた。

 近年、こうしたニーズに応える材料として注目されているのが、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などの次世代半導体である。これらはいずれもパワー半導体として優れた性能を持つが、ダイヤモンド半導体はそれらをも大きく上回る特性を備え、古くから「究極の半導体」と呼ばれてきた。

 一方、ダイヤモンド半導体の研究は長年にわたり進められてきたが、その実用化は技術的に困難とされてきた。しかし近年、国内の大学や研究機関、企業による技術開発が大きく進展し、実用化への道筋が徐々に見え始めている。

ダイヤモンド半導体は何がすごい?「5つの特長」

 ダイヤモンド半導体の最大の特長は、「タフさ」と「省エネ」に集約される。高温や高電圧といった過酷な環境に耐えながら、高効率に動作し、エネルギーロスを最小限に抑えられる点にある。その性能の高さは、シリコンはもとよりSiCやGaNをも凌駕する(図1)。

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図1:ダイヤモンドと他材料の半導体の性能を比較
(出典:佐賀大学 報道発表資料

 ここでは代表的な5つの特長を見ていく。

(1)熱に強い
 シリコン半導体は熱に弱く、温度上昇によって動作が不安定になりやすい。これに対し、ダイヤモンド半導体は極めて高い耐熱性を持つ。半導体の耐熱性を示す指標の1つである「バンドギャップ」は、シリコンのおよそ5倍に達する。この特性により、高温環境下でも安定した動作が可能となり、従来のように大掛かりな冷却装置を必要としない。

(2)高電圧に強い
 ダイヤモンド半導体は原子間の結合が極めて強く、高い電圧をかけても物理的に破壊されにくい。この電気的な強度を示す「絶縁破壊電界強度」はシリコンの33倍とされており、大電力を扱う装置でも安全かつ確実な動作を実現できる。この特性は、電力インフラや産業機器など、安定性が重視される領域で特に有効である。

(3)放射線に強い
 ダイヤモンド半導体は、放射線が飛び交う環境でも性能の劣化が少ない。シリコン半導体は放射線を浴びると結晶構造が損なわれやすいが、ダイヤモンドは損傷を受けにくく、長期にわたって特性を維持できる。そのため、宇宙や原子力といった特殊環境での利用にも適している。

(4)高効率で省エネ
 半導体は電流をオンとオフに切り替え、電力を制御する「スイッチ」として機能する。この切り替えが遅いとエネルギーが熱として失われるが、ダイヤモンド半導体は高速スイッチングが可能で、エネルギーロスを最小限に抑えられる。その結果、発熱が少なく、高効率な電力変換を実現できる。

 さらに、ダイヤモンドはシリコンの約17倍という高い熱伝導度を持ち、放熱性にも優れている。これにより冷却装置への依存を大幅に減らし、システム全体の小型化や省エネ化を可能にする。

(5)p型半導体として優れる
 半導体では、電子を主な電荷担体とする「n型」と、正孔(ホール)を主な電荷担体とする「p型」の両方が利用される。高性能な電力変換回路を実現するには、両者を組み合わせて使用することが重要である。

 ダイヤモンドは、現在主流のSiCやGaNと比べてp型半導体として優れた特性を持つことが知られている。このため、将来的にはより高効率で高耐圧なパワー半導体回路の実現につながる可能性があり、研究機関や企業による開発が活発化している。

ダイヤモンド半導体の「3つのデメリット」

 ダイヤモンド半導体の最大の難点は「作るのが大変」という点に尽きる。半導体として実用化するためには、一定の「大きさ」と「高品質」を確保しながら、さらに「コスト」を抑えて量産する必要がある。いまだ本格的な普及に至っていない背景には、この製造の難しさがある。ここではダイヤモンド半導体の主なデメリットを3つ紹介する。

(1)大口径化が難しい
 半導体産業では、生産効率を高めるために大口径のウエハが求められる。現在、シリコンでは8インチ(約200ミリメートル)や12インチ(約300ミリメートル)が主流であるのに対し、ダイヤモンドでは人工的に大きな結晶を成長させることが容易ではない。現在用いられている「高温高圧合成法」や「化学気相成長法(CVD)」といった製法には、装置の制約や結晶の均一性などに課題があり、大口径ウエハの製造は依然として高いハードルを伴っている。

(2)品質を安定させにくい
 半導体の信頼性を確保するには、結晶中の欠陥や不純物を抑え、品質を安定させることが不可欠である。しかし、ダイヤモンドの場合、結晶を大きく成長させるほど欠陥やばらつきが生じやすく、高品質を維持することが難しい。高温高圧合成法は結晶性に優れるものの大口径化が難しく、CVDは大きさを確保しやすいが品質の安定に課題がある。品質と大きさを両立できる製法の確立が、実用化への最大の鍵となる。

(3)製造コストが高い
 ダイヤモンドの合成には、高温高圧環境といった特殊な条件や、精密なプロセス制御が必要である。そのため、現時点では他の半導体材料に比べて製造コストは高くなると見られる。しかし近年、量産技術の確立に向けた取り組みが進みつつあり、今後の技術進歩によって、コスト低減と市場拡大の好循環が生まれることが期待される。

ダイヤモンド半導体の主な「5つの用途」

 ダイヤモンド半導体は、従来の半導体では対応が難しかった環境や用途において高い性能を発揮する。その特性を生かせる分野は幅広く、社会インフラから先端技術まで応用が期待されている。ここでは代表的な領域を紹介する。

(1)EV、鉄道車両
 EVや鉄道車両では、大電力を効率的に制御する必要がある。ダイヤモンド半導体は高温や高電圧に強く、電力ロスを抑えられるため、EVでは航続距離の延長が、鉄道では車両の軽量化や省エネ運航が期待されている。

(2)通信インフラ
 5Gや6Gといった次世代通信では、大量のデータを高速かつ安定的に処理するため、高周波での高出力動作が欠かせない。ダイヤモンド半導体は高速スイッチング特性に優れ、高周波領域でも安定した出力を維持できる。この特性により、基地局装置の消費電力削減や通信品質の向上が期待されている。

(3)電力システム、産業用設備
 送電網や産業用設備では、大電力を機械の仕様に合わせて変換・制御する電力変換装置が不可欠である。これらの心臓部には半導体が組み込まれており、ダイヤモンド半導体を用いることで高電圧下でも安定した動作が可能となる。電力の切り替え効率が向上し、送電ロスの低減や設備全体の省エネ、さらにはコスト削減にもつながると期待されている。

(4)航空・宇宙産業
 宇宙空間や航空機の運用環境では、高温や低温、放射線といった過酷な条件に耐える半導体が求められる。ダイヤモンド半導体はこうした条件下でも安定して動作でき、人工衛星や探査機の長期運用を支える材料として注目されている。

(5)原子力分野
 原子力発電所の廃炉作業など、強い放射線環境下で使用される制御装置にも有望視されており、高い信頼性が期待されている。

佐賀大・トヨタ・ホンダなど「主な取り組み6つ」

 こうした課題を乗り越えるため、企業や大学が連携し、量産技術の実用化に挑んでいる。近年は大手メーカーに加え、スタートアップの存在感も高まっている。以下に、主要企業の取り組み事例をまとめる(図3)。

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図3:日本企業による主な取り組みを紹介
(編集部作成)

(1)オーブレー×佐賀大学
 精密部品メーカーのOrbray(オーブレー、旧アダマンド並木精密宝石)は、2021年9月に佐賀大学と共同で、直径2インチ(約50ミリメートル)のダイヤモンドウエハ量産技術を開発したと発表した。この製法は、サファイア基板をわずかに傾け、その上でダイヤモンド結晶を成長させる「ステップフロー成長」と呼ばれるものであり、高品質な結晶を比較的大口径で生成できることが特徴だ。現在は直径4インチ(約100ミリメートル)のウエハ開発に取り組んでおり、さらなる量産化技術の確立を目指している。

(2)トヨタ×デンソー
 トヨタ自動車とデンソーは、次世代車載半導体の研究開発を目的に共同出資でミライズテクノロジーズを設立している。2023年5月には、同社とオーブレーがダイヤモンド半導体の共同研究を開始すると発表した。ダイヤモンド半導体を車載インバータなどに応用できれば、電力損失の低減によるEV航続距離の延長やバッテリーコストの削減が期待される。同社では2030年代の実用化を目指して開発を進めている。

(3)ホンダ×産総研
 ホンダは、ダイヤモンド半導体について素材から実装技術まで一貫した研究を進めている。2025年3月には、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)と共同で、ハーフインチサイズの単結晶ダイヤモンド基板を用いたパワーMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)の開発に成功した

 これは、世界で初めてアンペア級の大電流を扱いながら高速スイッチング動作を実証したもの。それまでの1000倍近い電流を制御したもので、ダイヤモンドパワー半導体の実用化に向けた大きな前進といえる。今後は、EVへの応用を視野に回路設計や実装技術の最適化を進める方針だ。

(4)大熊ダイヤモンドデバイス(札幌市)
 北海道大学と産総研発のスタートアップ。福島第一原発の廃炉作業向けデバイスを開発している。2026年には、福島県大熊町の産業団地「大熊中央産業拠点」において、国内初となる量産工場を完成させた。年産能力は最大数十万個で、2028年度の本格稼働を目指している。

(5)Power Diamond Systems(東京都新宿区)
 早稲田大学発のスタートアップ。2023年末にダイヤモンドパワー素子の開発で世界最高レベルの大電流通電に成功。2025年7月にはJAXAとの共同研究を発表した。

(6)EDP(大阪府豊中市)
 産総研発のスタートアップで、東証グロース市場に上場。宝飾用合成ダイヤの種結晶を製造販売し、世界最大級の単結晶を生産する体制を確立した。

まとめ:日本は世界を「リードできる」か?

 ダイヤモンド半導体は、理論上はSiCやGaNをも上回る性能を持つことから、「究極の半導体」と呼ばれてきた。日本は佐賀大学や産総研をはじめとする研究機関に加え、オーブレーやEDPなどの材料メーカー、トヨタやホンダといったユーザー企業までが国内に集積しており、研究開発の面では世界有数の存在感を示している。

 政府もまた、パワー半導体を次世代産業の柱に位置付け、研究開発支援や生産基盤の整備を進めている。欧州や米国と並ぶ「世界の第三極」としての産業拠点を目指す動きも加速している。

 もっとも、技術的な優位性がそのまま産業競争力につながるとは限らない。ダイヤモンド半導体は依然として研究開発段階にあり、大口径ウエハの製造や品質の安定化、コスト低減など、量産化に向けた課題は少なくない。現在のパワー半導体市場ではSiCが先行して実用化を進めており、ダイヤモンド半導体が本格的な市場を形成するまでには、なお時間を要すると見られる。

 それでも、AIデータセンターの電力需要拡大やGX(グリーントランスフォーメーション)の進展を背景に、高効率な電力変換技術への期待は世界的に高まっている。ダイヤモンド半導体が実用化の壁を越えれば、EVや電力インフラだけでなく、次世代のデジタル社会を支える基盤技術となる可能性がある。

 日本が研究開発で築いた優位性を量産技術や産業化へとつなげられるかどうか。その成否が、世界の半導体競争における次の主導権を左右することになりそうだ。

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