- 2026/07/06 掲載
キオクシア、岩手県北上工場よりAI向け第10世代NANDメモリのサンプル出荷を開始
岩手県北上市の新拠点から世界市場への供給体制を本格化
メモリセルの積層数を218層から332層へ約52%増加
第10世代のフラッシュメモリは1テラビットのNANDメモリとして提供される 。物理的なメモリセルの積層数を第8世代の218層から332層へ約52パーセント増加させるとともに、平面方向の微細化を組み合わせることで記憶密度を従来比で59パーセント向上させた 。データの転送速度は最大で毎秒4.8ギガビットに達し、書き込み時の電力効率は18パーセント、読み出し時の電力効率は30パーセント改善している。韓国サムスンやSKハイニクスなそ競合他社が400層を超える超高層化を進める中、キオクシアはあえて332層にとどめる設計を選択した 。極低温エッチング装置や新材料の導入に伴う天文学的な初期投資を回避し、既存のタングステン配線を継続採用することで歩留まりの維持と製造コストの削減を図っている。
周辺回路とメモリセルを別々に製造して貼り合わせる技術を強化し、電気的干渉を排除して転送の高速化と無駄な電力消費の削減を同時に実現している。生産は2025年9月に稼働を開始した岩手県北上市の北上工場第2製造棟が担う 。同工場は米サンディスクとの共同運営体制のもとで立ち上げられ、クリーンルーム内では人工知能を用いた自動搬送システムが稼働して生産性を飛躍的に高めている。
AIデータセンターでは演算を担うGPUに大量のデータを遅滞なく供給するためのストレージ性能が新たな課題として浮上している。高い処理性能と低い消費電力を両立する高性能ストレージへの需要は急速に拡大しており、キオクシアが2026年中に生産を予定しているフラッシュメモリおよび完成品ストレージの供給枠は事前の長期契約ですでに完売している。
今回の新製品は評価段階を経て順次量産へ移行し、ハイパースケーラー向けの最先端ストレージ製品群に組み込まれる見通しである 。
キオクシアが積層競争を避け、332層に留めた訳
3D NANDフラッシュメモリ業界では、ダイあたりの積層数を競う階数競争が続いてきた 。競合他社が400層を超える超多層積層を掲げてロードマップを競い合う中、キオクシアは第10世代の仕様を332層にとどめる現実路線を選択した。この判断の背景には、400層超の極端な高層化がもたらす物理的な限界とプロセス工学上の深刻なトレードオフを回避し、市場が求める実利を最優先する狙いがある。400層以上に積み上げる設計には複数の大きな障壁がある 。第一に、積層体にナノスケールのチャネルホールを垂直に穿孔するプロセスの難度である。これには極低温エッチング設備などの新たな導入が必要となり、設備投資コストが天文学的なレベルに跳ね上がる。
第二に、セルの薄層化に伴う電荷のリークやノイズ干渉であり、長期信頼性や耐久性が著しく低下する。さらに、配線の微細化により従来のタングステン素材では電気抵抗が跳ね上がり動作遅延を引き起こす。競合はモリブデンなどの新材料導入を進めているが、安定供給やプロセス開発に多大な技術的課題を残している。
これに対して332層を選択したキオクシアは、未成熟な技術や莫大な初期コストを回避し、既存設備やタングステン配線を継続することで明確な実利を達成している。プロセスの簡素化により製造単価を競合の400層級に対して約10パーセント削減し、セルの物理的形状を安全領域に保つことで耐久性を約35パーセント高い水準で維持した。
さらに過剰な高層化による電力悪化を防ぎ、約10パーセント優れた電力効率を発揮させている 。データセンター事業者が求めるのは、派手な層数ではなく、物理故障を起こさない信頼性や電力削減効果、そして予定通り納品される安定した調達力である 。数字の見栄えではなく、市場が真に求める要件の最適解を提供するアプローチこそが、合理的なビジネス判断となっている。
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