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  • 2023/09/01 掲載

いよいよ非上場化のSBI新生銀、一連の騒動で浮かび上がる「知られざる被害者」とは

大関暁夫のビジネス甘辛時評

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先月発表した2023年4-6月期連結決算で、最終損益が131億円の黒字となったSBI新生銀行。SBIホールディングス(以下、SBI)によるTOB成立で、非上場への道を歩む同社は、未返済である約3,500億円の公的資金のうち、190億円を2024年に返済するとされており、経営健全化に向けた歩みが注目されています。そんな同社ですが、SBIによるTOBはやや強引とも取れる形で行われ、「被害者」も生んでいます。一連の騒動を整理するとともに、その「被害者」とは誰かを解説します。

執筆:企業アナリスト 大関暁夫

執筆:企業アナリスト 大関暁夫

株式会社スタジオ02代表取締役。東北大学経済学部卒。 1984年横浜銀行に入り企画部門、営業部門の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時にはいわゆるMOF担を兼務し、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。2006年支店長職をひと区切りとして独立し、経営アドバイザー業務に従事。上場ベンチャー企業役員を務めるなど、多くの企業で支援実績を積み上げた。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業などのアドバイザリーをする傍ら、出身の有名進学校、大学、銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆やコメンテーターを務めている。

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非上場化するSBI新生銀は公的資金を返済できるのだろうか
(Photo:T. Schneider/Shutterstock.com)

いよいよ非上場化するSBI新生銀

 SBIホールディングス(以下SBI)による子会社SBI新生銀行(以下新生銀)の非上場化を目的としたTOBは、今年5月に成立。いよいよ、本日開催する臨時株主総会を経て非上場化が実現する見通しです。

 SBIが新生銀にTOBを実施したのは、約四半世紀前の平成の金融危機時に資本注入され、いまだに残る約3,500億円の公的資金を返済するためです。

 本来、政府は同行の全発行株式の約23%を占める持ち株を売却して、公的資金を全額回収する計画でした。しかし上場を維持したままでは、株価を約3倍の7,450円まで引き上げる必要があります。

 現状の同行の収益力や成長性では、この計画の実現性は乏しく、今般TOBによって株主をSBIと政府のみにすることで、返済に向けた国との直接交渉の下地づくりが目的となっているのです。

 事の発端と言えるのは、2021年秋に突如SBIが新生銀に敵対的TOBを仕掛けたことにあります。ネット証券をなりわいとするSBIにとって、総合金融業として発展の足場固めと信用力向上によるブランド構築上で、銀行免許は喉から手が出るほど欲しいものだったと推察できます。

 しかも、旧日本長期信用銀行(以下長銀)という銀行界の名門中の名門である新生銀を子会社化できるのなら、それは願ってもないことです。免許業務である銀行の株式を20%以上取得するには、監督官庁である金融庁の了解が必要なのですが、SBIがネット証券の風雲児として「証券業界の暴れ馬」的なイメージの強かったこと、当時も融資型クラウドファンディングを扱うグループ企業の不祥事があったことから、常識的には金融庁はクビを縦には振らないだろうと思われていました。

 しかしここで、新生銀にまつわる「特殊な事情」が見え隠れします。

「公的資金の未返済」という特殊事情

 その事情とは、いまだ返済かなわぬ公的資金問題です。1998年の金融危機で経営破綻に追い込まれた旧長銀に対して、「金融再生プログラム」にのっとって注入された公的資金。他の大手行はすべて返済済みで、唯一新生銀だけに残る負の遺産なのです。

 20年以上もくすぶり続けてきた新生銀の公的資金返済について、SBIの傘下となることで返済を期待する思惑もあったのでしょう。結局、このTOBは成立しSBIの傘下に入ることが決定。その後、今年の非上場化の動きにまで至ります。

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金融庁は新生銀から公的資金3,500億円を返済してもらう必要がある
(Photo:Ned Snowman/Shutterstock.com)

 非上場化については、SBIとしても、国という気を遣わなくてはならない株主には早期にご退場いただいて、自分たちのやりたいように新生銀を動かしたいという思惑がおそらくあるのではと推察できるわけで、SBIと金融庁両者の利害一致の上での動きであると捉えることができます。

 しかしSBI、金融庁の思惑が一致しているがゆえ、今回の進め方がやや強引である点に懸念もあります。というのも、新世銀へのTOBは買い付け予定数の下限を設けていないため、仮に1株も応募がなくともTOBが成立する異例のものなのです。

 臨時株主総会で上場廃止に向けた株式併合が可決されれば、TOBに応募しなかった株主はTOB価格で強制買い取りされてしまいます。もっとも、同行の株主構成はSBIと国の持ち分で3分の2以上を占めているわけですから、総会での可決は確実と言えるでしょう。

 すなわち、SBIと国の利害優先で進められているこの「TOB⇒上場廃止」の流れが、少数株主の利益を毀損(きそん)するのではないか、という懸念が残るわけなのです。現実にTOB募集開始以降の新生銀の株価はTOB価格2,800円を上回って推移し、最終的にTOB終了時点でも2,807円を付けていました。

 この株価の動きは、公的資金の返済をするのならば本来は株価7,450円が正当な株の買い戻し水準であり、2,800円での買い取り決着には納得がいかないという一般株主の不満の表れであるとも言えるのではないでしょうか。海外のヘッジファンドからも、「事実上、SBIと政府が一般株主を締め出すために手を組んだ構図」との批判が出ているようです

 そもそもSBIの新生銀買収時点からして、金融庁の元長官である五味広文氏(現新生銀会長)はじめ、複数の金融庁OBを役員待遇で招き入れるなど、SBIは「裏技」も駆使して政府の了解を取ってきた印象が強く、置き去りにされた一般株主の被害者意識は根強いものがあるとしても仕方がありません。 【次ページ】浮かび上がる別の「被害者」とは

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