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- 2024/01/31 掲載
ステーブルコインは“使える”か? 既存の金融機関の生かし方と有力事例まとめ
連載:ステーブルコインの実際
Web3の「世界的冬の時代」と「日本の状況」
三根公博氏(以下、三根氏):ここしばらく世界的には「Web3冬の時代」と言われながらも、日本では2023年6月1日に資金決済法が改正され、新たな電子決済手段として「ステーブルコイン」と呼ばれる制度が新設されました。藤井さんはこうした日本でのWeb3の潮流をどのようにみていますか?藤井達人氏(以下、藤井氏):先に申し上げておくと、みずほとしては、公の立場ではまだステーブルコインに対するスタンスは発表していません。したがって個人的な見解ですが、ステーブルコインが法制度化されたのは、暗号資産の法制度の制定時に匹敵する、非常に画期的なことだと思います。
金融インフラの未来を論ずるには、ブロックチェーンは外せないのですが、ネイティブな日本円をブロックチェーンの中で取引できるようにするのは、実はすごいことです。前職で資金移動業の枠組みでステーブルコインを発行したことがあるのですが、さまざまな制約があって実用に至りませんでした。
そのころに比べれば、ブロックチェーンで流通するトークンベースの金融商品・取引に対する期待感というのは相当上がったとみています。
ステーブルコインの影響
三根氏:ここで10月2日に新しい会社、デジタルアセットの発行・管理基盤を手がける「プログマ(Progmat)」を立ち上げた齊藤さんに、そもそもステーブルコインとは何かとその意義を説明してもらいたいと思います。齊藤達哉氏(以下、齊藤氏):ステーブルコインには「広義のステーブルコイン」と、「狭義のステーブルコイン(日本法上の電子決済手段)」があります。
狭義のステーブルコインの条件は2つあります。1つ目は法定通貨建てであり、裏付け資産があってデペッグしない(価格が基準値から逸脱しない)ことです。ほかの数多ある海外の広義のステーブルコインのように、「100ドルあると思ったのに、突然1ドルになります」というようなことは、日本法上ではステーブルコインとは呼びません。
2つ目は、不特定の人に移転できること。言い換えると、パーミッションド、つまり「特定の人にしか移転できない」のは、今までの電子マネーと同じなので電子決済手段ではありません。ブロックチェーン的な言い方をすると、KYC(本人確認)されていなくとも、アドレスさえ分かっていれば送れることが条件です。
この2つを兼ね備えているのが「狭義のステーブルコイン」と定められる電子決済手段であり、以下の2つがポイントです。
- 「デペッグしかねない“自称ステーブルコイン”」は「暗号資産」
- 「特定者しかアクセス/送金できない“自称ステーブルコイン”」は「既存デジタルマネー」
今回の制度改正の意義は、日本がどの国にも先駆けて、主要なデジタルアセットに対するレギュレーション(法規制)を、一通り整備し終えたことにあると考えます。
暗号資産については、2017年と2020年の資金決済法改正で法規制が整備されています。この後、大きな事故は起きていません。次に有価証券をブロックチェーン技術でデジタル化した「セキュリティートークン(ST)」について金商法の改正が2020年に行われました。
今回、ステーブルコインについても2023年に施行されて、一通り整備が終わり、「NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)」についてはどれにも該当しないということが、2022年の12月から今年にかけて、金融庁のパブコメから明らかになりました。
現在、どのデジタルアセットを手がけようとしても、「規制が不明確なので取り組めない」という状態は日本にはありません。これは世界で一番進んだ状況です。
規制がなくてもビジネスができた国の典型が米国で、「グレーゾーンは白なので行け!」というのが今までだったのですが、現在は政治的な背景もあり、「グレーは黒」ということで叩かれています。相対的に日本は今、非常にいい位置にいるのです。
三根氏:厳しいか緩いかは置いておいて、ルール、乗り越える壁が可視化されているのが大きいのですね。
齊藤氏:はい、予見可能性があるのが大きいですね。特に、金融機関は「根拠は不明確だけどまずやれ」という姿勢は取り得ないので。我々Progmatは、ブロックチェーンを中心としたビジネスを行っていますが、ブロックチェーンに国境は関係ないので、当然日本に閉じたガラパゴスな仕組みを作るつもりはありません。
一方で、マザーカントリーが日本であるのも事実なので、先ほど申し上げたように現状相対的に有利な規制環境にある日本で実績を出したいと考えています。三菱UFJの冠で業界全体の環境を作りづらかったので、それを無色化したいというのが、独立起業の最大の狙いです。
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