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- 2024/07/29 掲載
第3号被保険者問題とは何か? 批判だらけでも「全然解決されない」ワケ
連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質
第3号被保険者問題とは何か
現在の公的年金制度では、被用者(会社員や公務員など厚生年金の被保険者:「第2号被保険者」)の配偶者で被用者に扶養されている人は、「第3号被保険者」とされている。基礎年金の保険料を払わなくとも、基礎年金を受けられる。こうなっている理由として、「第3号被保険者については、配偶者が納める厚生年金保険料の中に第3号被保険者の分の保険料も含まれているため、保険料を納めなくて良い」、つまり、「独身者も含めた厚生年金保険被保険者全体で、第3号被保険者の基礎年金保険料を負担している」と説明されている。
しかし、これはいくつかの面で不公平な制度だという批判がある。これが「第3号被保険者問題」だ。
なお、以下では、便宜上、第2号被保険者が男性、第3号被保険者が女性である場合について述べているが、この逆であっても良い。ただし実際には、第3号被保険者の圧倒的多数が女性である。
第3号被保険者問題における3つの批判
この制度については、次のような批判がある。(1)夫が国民年金加入ならダメ
第1に、前記の措置が適用されるのは、夫が「第2号被保険者」(厚生年金の加入者)である場合であって、「第1号被保険者」(国民年金の加入者)である場合には適用されない。
つまり、夫が厚生年金の加入者なら、妻が保険料を払わなくても年金を受けられるが、夫が自営業などの場合には、妻も自ら国民年金に加入しない限り、基礎年金を受けることができない。このため、自営業者の妻や母子家庭の母は、個別に保険料を納めなければ給付が受けられず、不公平だとの批判がある。
(2)共働き世帯に比べて専業主婦世帯が有利
第2に、夫が厚生年金に加入している場合でも、共働き世帯と専業主婦の場合を比べると、専業主婦に有利であって、不公平であるとの批判がある。共働き世帯の場合は妻も厚生年金保険料を支払っているが、専業主婦は、保険料を支払わずに年金を受けられるからだ。
このため、「この制度は、主婦のほとんどが専業主婦であった時代の名残であり、共働き世帯が増えた今となっては時代にそぐわない」と批判される。
(3)「年収の壁」が女性の就業を阻害する
第3に、この制度が適用できるのは、主婦の収入が一定額未満(年収130万円未満)の場合なので、女性の就業に抑制的な効果があるとの批判がある。年収106万円または130万円に達すると、それぞれ年額で約16万円または約27万円の負担が生じ、手取りが減ってしまうため、労働時間を調整してしまう。これは、「年収の壁」と言われる現象だ。
もちろん社会保険に加入することによって、将来受給できる年金は増えるだろうし、傷病手当金や出産手当金を受けられるようにもなるといったメリットはある。そして、こうしたメリットを考えれば、仕事を調整しないほうが長い目でみればトクなのだという意見もある。
しかし、多くの人はなかなかそうした長期的視点を持ちにくい。また本人が労働時間を調整しなくとも、雇用主負担が増えるため、雇用主がそれを認めないということもあり得る。
以上のような問題があることは事実だ。ではなぜ改革がなされないのだろうか。 【次ページ】第3号被保険者問題が解決されない理由
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