• 2026/07/13 掲載

なぜ日本はAIで米中に勝てないのか?「世界11位」でも喜べない「教育の致命的欠陥」(2/2)

連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質

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中国で進むAI高速実装…米中の性能差はなくなったのか

 中国はAI分野において、さまざまな指標で見て、米国に次ぐ世界第2位の地位を占めている。そして、米国との差は、急速に縮小している。最近のStanford AI Index 2026では、「米中のAIモデル性能差は実質的に閉じた」とされている。米国はなお、トップ級モデルの数、民間投資、基礎的な研究環境などで優位にあるものの、中国のAIは、性能面で米国のトップモデルと首位を争う水準に近づいている。

 中国の強さは、大学、企業、政府、地方政府が連携し、研究開発から実装までの速度が非常に速いことにある。また、AIを監視、金融、物流、製造、医療、教育などの現実の分野に広く適用している。AIは研究室の中にとどまらず、社会の中で使われ、その過程でさらに改善されていく。

 この点で、日本との差は大きい。日本では、新しい技術を導入する際に、制度、慣行、組織内の合意形成が障害となる場合が多い。実証実験は行われるが、それが全国的な実装に広がらない。小規模な成功例はあるが、社会全体を変えるような力にならない。

「AIで遅れる」ことの意味、米中2強支配での日本の現実

 これからの世界は、米国と中国の力の争いになる。ここでいう「力」とは、軍事力だけではない。AIにおける実力が、国家の力を決める重要な要素になる。

 AIで遅れることは、単に1つの産業で遅れることではない。それは、国家全体の競争力で遅れることを意味する。かつて石油や鉄鋼が国力の基礎であったように、これからはAIが国力の基礎になる。

 日本が米国と中国に完全に追いつくことは、もはや容易なことではない。両国には、巨大な国内市場、豊富な人材、強力な企業、膨大な投資がある。米国の場合には、世界中から人材を引き寄せる力がある。

 しかし、だからといって日本が努力を放棄してよいわけではない。独自の強みを生かし、少なくともAIを使いこなす国になる必要がある。

頭脳流出が止まらない…日本のAI人材不足「本当の原因」

 日本がAIで遅れた基本的な原因は、AIやデータサイエンス関連の高等教育が遅れていたことだ。コンピューターサイエンス、統計学、数学、情報工学、機械学習を本格的に学ぶ人材の層が薄かった。大学の学部構成も、古い産業構造に対応したまま長く維持され、新しい分野への転換が遅れた。

 中国の大学は、コンピューターサイエンスや情報工学などの分野を重視し、多くの学生を育成した。さらに、学生は米国などに留学し、最先端技術を吸収した。帰国した人材は、大学や企業、スタートアップで重要な役割を果たした。

 これに対して、日本では、情報の重要性が十分に認識されなかった。製造業の現場力が強かったため、ソフトウェアの価値が過小評価された面がある。ハードウェアを作れば競争できる、品質を高めれば勝てるという発想が長く続いた。しかし、AI時代には、ソフトウェアが製品の価値を決める。データを集め、分析し、モデルを改善し、サービスとして展開する力がなければ、競争の中心に立てない。

 頭脳流出も問題だ。優秀な研究者や技術者が、より高い報酬、研究環境、自由度を求めて海外企業に移る。日本企業の給与体系や年功序列的な人事制度では、世界的なAI人材を引きつけることが難しい。

 高度人材を育てても、国内に活躍の場がなければ、結局は海外に流出してしまう。

日本はAIで巻き返せるのか…カギを握る「4つの条件」

 AIが日本で本当に発達するために、何が必要か。

 第1に、高等教育を抜本的に改革しなければならない。すべての大学生が、少なくとも統計、データ分析、プログラミング、AIの基礎を学ぶ体制を作るべきだ。

 第2に、巨大なデータセンターなどの計算資源を整備する必要がある。日本だけで完全な自給体制を作ることは難しいが、研究機関、大学、企業が利用できる共通の計算基盤を強化することはできる。

 第3に、データ利用の仕組みを整える必要がある。日本には医療、製造、行政、交通、防災などの分野で質の高いデータがあるが、それらは組織ごとに分断され、十分に活用されていない。公共目的や研究開発のためにデータを利用できる制度を作ることが重要だ。

 第4に、スタートアップを育てる必要がある。AIの発展は、大企業だけでは進まない。新しいアイデアを持つ小さな企業が、短期間で成長できる環境が必要だ。

技術の遅れが問題ではない、日本がAI時代に生き残る道

 AI時代において、日本が生き残る道は、米国や中国と同じ土俵で全面的に競争することだけではない。日本が強みを持つ分野でAIを徹底的に活用し、独自の価値を生み出すことである。そのためには、AIを特別な専門分野として扱うのではなく、社会全体の基盤技術として位置づける必要がある。

 日本のAIの遅れは、単なる技術の遅れではない。それは、教育、組織、制度、企業文化、政策の遅れだ。したがって、必要なのは、社会全体の作り替えである。これを行わなければ、日本はAI時代の世界で、周辺部に追いやられることになるだろう。

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