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  • 2026/06/30 掲載

迫る2027年…S/4HANA移行にAIはどう使う?「AI前提」の基幹システム刷新が本質的すぎた

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SAPのERP 6.0のサポート終了が2027年末に迫っている。対象となる企業は、問題を解決するためにさまざまな取り組みを行ってきたはずだが、サポート切れを直前に控えた現時点でも、すべてを解決しきれていないのが実態だろう。しかしここにきて、急速に進化する生成AIが問題解決に向けた大きなドライバーとなる可能性が見えてきた。ここでは、「AI駆動型開発」の現実と可能性を解説する。
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SAP刷新の常識が変わる?

SAP刷新プロジェクトが止まる「本当の理由」

 多くの企業で基幹システムとして活用されているSAP ERP 6.0のサポート終了が2027年末に迫っている。サポートが切れると脆弱性が発見されても修正プログラムが提供されなくなり、法改正・税制改正への対応、新機能の提供も行われなくなる。

 もちろん、これは早くから「2025年問題」として知られていた。サポート期間が2年延長されて「2027年の崖」となったわけだが、対象となる企業が何もしてこなかったわけではない。現実に、すでにこの問題を解決し、最新のS/4HANAへの移行を完了した企業も存在する。

 ただし、大半の企業はいまだ“道半ば”の状態だ。たとえば、日本本社は移行を完了したが、米国、ヨーロッパ、中国などの海外拠点は手つかず、あるいはその逆、といったケースは、特にグローバルでビジネスを展開する大手企業には多い。

 その背景には、一朝一夕には解決できないSAP ERPが抱える課題がある。まず、長年のアドオン開発によってシステムが複雑化している。周辺システムとの連携も複雑で、運用・保守も属人化している。こうした仕組みを単純にS/4HANAに移行するだけでは、巨額のコストと数年単位の時間を投じても、業務そのものはほとんど変わらないケースも少なくない。

 ビジネス環境が大きく変化した今、本来なら、自社の業務そのものを見直し、“あるべき基幹システム像”を描くべきだ。しかし現実には、それを担える人材も、十分な時間もない。結果、既存システムの保守に追われ、抜本改革に踏み切れないのが、多くの企業の現状といえるだろう。

 ただし、このような停滞の要因を分解すると、必ずしもすべてが高度な専門判断だけで構成されているわけではない。膨大な設計情報の読み解き、会議内容の整理、課題や論点の構造化、ルールに沿った文書作成、過去のノウハウの参照といった、時間と手間を要する作業が大きな比重を占めている。

 たとえば、既存システムやアドオン資産の解析に時間がかかることで、移行方針の検討が進まず、導入スピードが上がらない。作業量が膨らめば、そのままコスト面の負担にもつながる。つまり、プロジェクトが停滞する背景には、判断の難しさだけでなく、情報を集め、読み解き、整理し、関係者が判断できる状態にするまでの負荷の大きさもある。

 こうした領域において、生成AIの進化は大きな意味を持つ。AIを単なる効率化ツールとして使うのではなく、S/4HANA移行プロジェクトの進め方そのものを見直す契機として活用できれば、これまで人手不足や属人化によって進みにくかった基幹システム刷新を、前に進める可能性が見えてくる。

「AI導入だけ」では変わらない、基幹システム特有の“難題”

 もっとも、AIを導入すれば、こうした課題が自動的に解決するわけではない。AIテクノロジーの進化は目覚ましく、現在では、AIと対話しながらプログラム作成を進める「AI駆動型開発」、いわゆるバイブコーディングも注目されている。システム開発のあり方は大きく変わりつつあるが、基幹システムの領域では、一般的なアプリケーション開発とは異なる難しさがある。

 特にS/4HANAへの移行のような大型プロジェクトにおいては、AIを活用するのは簡単ではないと、日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM) 理事/パートナー コンサルティング事業本部 成長戦略統括事業部 ビジネスアプリケーション SAPプラクティス リーダー 森 洋子氏は次のように述べる。

「こうした取り組みは、部分的にはすでに行われています。ただし、S/4HANAへの移行のような長期間に渡り、強いガバナンスが求められる大型プロジェクトにおいて、AIを全面的に導入する取り組みはほとんど見られません。なぜならそれは、AI前提ですべての業務を再設計する難易度の高い取り組みだからです」(森氏)

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日本アイ・ビー・エム
理事/ パートナー
コンサルティング事業本部 成長戦略統括事業部
ビジネスアプリケーション SAPプラクティス リーダー
森 洋子氏

 「基幹システムの移行では、業務プロセスの再設計、他システムとの連携など考慮すべきことが多岐にわたります」と続けるのは、日本IBM コンサルティング事業本部 アソシエイトパートナー 柳川 典久氏だ。

「さらに、移行に必要な多くの情報やノウハウが暗黙知のままテキスト化されていません。加えて、基幹システムにはガバナンスも強く求められます。このような条件下では、専門人材の不足もあって、AIが使える範囲が限られているのが実態です」(柳川氏)

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日本IBM
コンサルティング事業本部 アソシエイトパートナー
柳川 典久氏

 一方で、AIへの期待が大きいのも事実だ。たとえば、AIを活用すれば議事録の作成や課題の抽出・整理を自動化できる。ルール・規約に則った文書作成も容易になる。また、アドオンの開発で前述のバイブコーディングのような手法を取り入れれば、開発生産性を圧倒的に効率化できるだろう。

 AI前提で業務を再設計することは、単に生成AIツールを導入すれば実現できるものではない。AIの特性を理解し、業務プロセスそのものを見直し、さらに大規模な基幹システムに求められる品質とガバナンスを担保しなければならない。

 そして、この難易度の高いチャレンジに数年前から取り組んできたのが大規模なS/4HANAの導入・移行をグローバルレベルで数多く支援しているIBMだ。すでにいくつかの大手企業との検証が進んでおり、S/4HANAへの移行の新たな選択肢として、その可能性が見えてきた。

「AI前提」でS/4HANA移行を再設計、必要な「3つの能力」

 IBMの取り組みの最大のポイントは、S/4HANAの導入・移行におけるすべてのプロセスを「人間中心」から「AI前提」に設計し直していることだ。

 たとえば、アドオンを開発するケースを考えてみよう。従来であれば、顧客に必要な機能をヒアリングし、それを文書にまとめ、レビューを経て、設計書に落とし込む。設計書ができたら、顧客のシステム部門に確認し、承認を得たあと、Excelで詳細設計書を作成し、それに基づいてプログラマがソースを書く……といった流れになる。これが、AIを前提にすると大きく変わると、柳川氏は次のように説明する。

「最初に数回、関係者で必要な機能を議論します。その後、AIが作成した議事録や関連情報をもとに、必要な要件のたたき台を生成し、それを人が確認しながら詳細化して、お客さまに確認・承認いただきます。承認後は、AIが設計やソースコード作成の初期案を支援し、人がレビュー、テスト、検証を行う。このように、人が判断すべきポイントを明確にしながら、開発プロセス全体を効率化していく流れになります」(柳川氏)

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従来のアドオン開発とAIを前提としたアドオン開発

 もちろん、アドオン開発は1つの例にすぎない。IBMが取り組んでいるのは、S/4HANAの導入・移行のすべてのプロセスをAI前提の業務フローに書き換えることだ。

 ただし、それを実現するには、AIでできることを見極めた上で、「何をAIに任せ、人は何に集中するのか」を設計し直さなければならない。つまり、AIを単なるツールとして後付けで導入するのではなく、要件定義、設計、開発、テスト、承認といったプロジェクト全体の進め方を、AI前提で再構成する必要がある。

 その上で重要になるのが、AIが正しく機能するための「コンテキスト」だ。業務知識、成果物テンプレート、開発や品質ルール、過去のノウハウなどを、AIが参照・活用できる形で体系化することで、AIによる生成や判断支援の精度を高めていく。

 日本IBMでは、こうしたAI前提の開発・移行プロセスを個別プロジェクトの工夫にとどめず、標準的な成果物、ルール、テンプレート、業務・技術ナレッジをAIが活用できるコンテキストとして体系化している。日本IBMが「AI Lifecycle Shared Engineering Artifacts:ALSEA」としてアセット化しているのは、まさにこの領域であり、S/4HANA導入・移行に必要な知見や成果物標準も、この考え方に基づいて整備している。

 柳川氏は、S/4HANAの導入・移行のすべてのプロセスをAI前提の業務フローに書き換えるためには3つのケーパビリティ(能力)が必要になると、次のように説明する。

「1つは、AIにできることを正確に認識することです。AIは急速に進化していますから、その最新情報も含めて、常に正確な知識を持っておく必要があります。2つ目は、業務についての深い知識・経験です。そして3つ目が、この2つを結びつけてAIを前提とした“あるべき業務の姿”を描くことです」(柳川氏)

 つまり、AIが分かる人材、S/4HANAの導入・移行業務が分かる人材、両方を理解して橋渡しし、AI前提の最適な業務フローを考えられる人材の3つが必要になるということだ。そして、この3つを持ち、現在進行形で取り組みを進めているのがIBMなのである。

【未来到来】AIはどこまで担い、人は何に集中するのか?

 IBMでは、AIをシステム導入・移行作業に組み込み、プロジェクトの進め方そのものを変革する「AI for IT」の取り組みを進めている。本取り組みもその一環であり、S/4HANAの導入・移行においても、IBMグローバルで開発された多くのAIアセットが活用されている。

 ただし、グローバルで整備されたアセットだけでは、日本のプロジェクトで求められる品質や進め方に十分に対応しきれない領域もある。たとえば、成果物の粒度、レビューの厳格さ、プロセスや入出力の明確化、関係者間の合意形成といった点では、日本独自の商習慣や品質要求を踏まえた対応が必要になる。

 そこで日本IBMでは、グローバルのAIアセットを活用しながら、日本のプロジェクトで求められる成果物、ルール、テンプレート、業務・技術ナレッジをAIが参照できる形で独自に体系化している。その代表的な取り組みが、「ALSEA」である。森氏は、次のような例を挙げる。

「たとえば、S/4HANA導入前には必要なプロセスを整理したプロセスマップを作成します。海外ではそれほど厳格なマップは作成しませんが、品質を重視する日本では『何をインプットして、何をアウトプットするのか』の詳細を詰めて文書化するのが一般的です。こうした日本品質が求められるところでは、日本独自のAIアセットを開発して、積極的に組み込んでいます」(森氏)

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S/4HANAの導入・保守における生成AIアセットの全体像

 前述したように、本取り組みではすでに数社の大手企業で検証が行われ、その成果も明らかになりつつある。

「現場にとっては、規約やルールを見る必要が減るのが大きいと思います。S/4HANAの導入・移行では高い品質基準が求められるため、文書の書き方や表現にも厳格なルールがありますが、AIを活用すればそこはAIが担保してくれるのです」(森氏)

 もちろん、議事録作成や要約、文書作成やソース生成など、これまで人がやらざるを得なかった面倒な業務・作業の多くもAIで代替される。その上で柳川氏は、最大の成果を「本質的な議論と調整に集中できるようになること」と次のように述べる。

「面倒な作業はすべてAIが引き受けてくれるので、人は『この業務でやるべきことは何か』『この機能で実現すべきことは何か』といった本質的な議論に集中できるようになります。さらに、多くのステークホルダーがいますので、その調整にも十分な時間を割けるようになります。もちろん、プロジェクト全体の効率化によって時間短縮、コスト削減も期待できます」(柳川氏)

 AIテクノロジーでS/4HANAの導入・移行を再設計するIBMの取り組みは、AIの進化に合わせて、日々、アップデートされている。その結果、AIでできることは徐々に拡大し、人はより多くの時間を「本質的な議論と調整」に割けるようになっていく。

 「2027年の崖」は目前に迫っている。これまで、さまざまな障害からプロジェクトが停滞していた企業も、そろそろ動かざるを得ないだろう。重要なのは、それを単なるシステム移行として終わらせるのではなく、AI前提で業務そのものを見直す機会と捉えることだ。S/4HANAへの移行は、企業の働き方そのものを変える起点になり得る。IBMの取り組みは、その現実的な選択肢を示しているといえるだろう。


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