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- 2020/10/16 掲載
令和2事務年度金融行政方針の「裏側」とは? 文書を読み解くと見えてくるもの
なぜ「金融行政方針の公表」は想定よりも早かったのか
コロナ騒ぎの中で執筆された令和2事務年度金融行政方針は、サブタイトルに「コロナと戦う」といったメッセージが付されている。ただし、梅雨時期の段階でメディアも既に「アフターコロナ」「withコロナ」をキーワードに掲げてきたことからわかるように、現在は既に「コロナを排除する」といった段階から「コロナとの共生」を念頭においたフェーズへとシフトしている。つまり、行政方針の中身が定義されたのは発表(8月末)の相当程度前であることが明らかで、それ以降に足元で生じた重大事象や環境変化に即した課題設定がビルトインされていないと見るべきであろう。また筆者ら関係者は内々に「9月以降に公表される」といった情報を耳にしており、どうしても早く公表したい事情があったであろうことを拝察している。
要因として考えられるのは二点だ。つまり、総理交代と長官交代である。行政方針は一年間の金融行政の方向付けを示す文書であり、早くから遠藤前長官が構築した新しい検査・監督の流れを令和2事務年度も踏襲することが決まっていたのであろう。そのため、トップ交代、とりわけ新官邸からの影響を受けないギリギリのタイミングで急ぎ公表に踏み切ったものと筆者は予想している。
令和2事務年度金融行政方針で見るべきポイントは2つ
このような事情で早期に公表された金融行政方針であるため、内容は昨年度の焼き直しに近く、新たな着目点は少ない。目新しいところでは「重要情報シートの導入」といったものも記載されているが、アカウンタビリティ(説明責任)をしっかりと全うせよ、といった従前からの指導そのものでもあり、今更ながらの感が漂う。また、「コロナと戦う」を標ぼうするが故に、テレワークの推進のほか、デジタル化への障壁となっている従来の書面・押印・対面を前提とした慣行の見直しを推進する、といった点について、形式的に語られている程度である。
既に他の識者からもこうした「表面的な分析」、というよりも「紹介」は十分にし尽くされているが、ここでは2つのポイントのみを簡単に述べる。
●地銀の合従連衡の推進
新総理からも着任早々発言があったとおり、具体的な統合の将来像を「単独での生き残りが困難」と思われる地銀に検討させることで、早期の合従連衡を推進しようとしている。金融庁は、以下の問題を抱える地銀を対象に、経営者との対話を実施するとしている。
- ・持続可能な収益性が期待できない銀行
- ・将来にわたる健全性が確保できない銀行
このような課題がある地域金融機関とは、早期警戒制度などに基づく深度ある対話により、持続可能なビジネスモデルを構築するための実効性のある対策を求めるとしている。
【次ページ】金融行政方針で「本来示すべき」喫緊の課題とは
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