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- 2021/01/20 掲載
日本政府が「金塊売却」で財源捻出、どのような思惑があるのか?
「政府」が金塊を売却したワケ
日銀は2020年12月16日、外為特会から米ドル(60億ドル程度:約6,200億円)を購入すると発表した。2021年3月末までのいずれかの営業日に取引は実施される。日銀からは日本円が支払われるが、為替レートは約定日の市場実勢レートが適用されるという。一方、日銀から日本円を受け取った外為特会は、その日本円を使って政府(造幣局)が保有する金塊約80トンを購入する。政府は約5,000億円の金売却益が得られるので、これを国庫に納入し、第3次補正予算の財源に充当するという。
簡単に言ってしまえば、政府が金塊を放出して財源に充てたという話だが、一般的な国債発行という手段ではなく、金塊を外為特会に売却し、外為特会はドルを日銀に売却するという複雑なスキームを用いている。
この事実については一部のメディアが報道しただけなので、多くの人はあまり認識していないだろうが、財政・通貨当局がわざわざこのような取引を行うことには理由がある。それぞれの当事者の立場で考えてみよう。
まず政府だが、保有する金塊を売却して得た資金を補正予算に充当しているので、これは政府資産の売却による財源捻出ということになるだろう。政府は2020年12月に第3次補正予算案を閣議決定しているが、追加の歳出額は21.1兆円となっており、ほぼ全額を新規の国債発行で賄っている。今回の金塊売却は国債に頼らない財源の一部というわけだが、補正予算全体の規模からするとごくわずかな金額に過ぎない。
財政当局としては、金塊を売却するという最終手段を講じてまで財源を確保したことを市場にアピールし、これ以上の国債発行について抑制したいとの意図がある。
「外為特会」が金を買い取ったワケ
では、金塊をただ放出するのではなく、外為特会に一度、売却し、その後、外貨を日銀に渡したのはなぜだろうか。財政支出全体の水準で考えれば、約6,000億円の取引はそれほど大きな金額ではないが、金の取引市場ではかなりの大口取引となる。当然のことだが、約6,000億円の金塊取引を市場で行えば、市場は大混乱に陥り、価格が乱高下してしまうだろう。少し話はそれるが、かつて明治政府は日清戦争(1894~1895)に勝利したことで清から賠償金を得たが、当初、この賠償金は銀で支払われる予定だった。ところが、清が大量の銀を市場で調達すると市場が混乱することから、このスキームは回避され、清は英国に対して外債を発行。英国の投資家から英ポンドを借り入れ、それを日本に支払っている。
しかもポンドを日本に輸送するのは現実的ではないとの判断から、日本が得たポンドはそのまま英国の銀行に預金された(日本政府はなんと、英国の銀行に預けただけの外貨を金とみなして擬似的な金本位制をスタートさせている)。
今回も、市場の混乱を防ぐため、一般的な売却を回避したということになるが、相手が外為特会というのは、関係者にとって少々気になる話だ。日本の外為特会の総資産は146兆円もの規模があるが、ほとんどが有価証券の運用となっており、金地金はごくわずか(約1,600億円)しかない。全体からすれば少額とはいえ、ここに約6,000億円の金地金が加わることになる。
外為特会は日本の外貨準備を構成する有力な主体だが、諸外国と比較して金の比率が低いという特徴があった。したがって今回の金購入は資産構成のバランスを修正する作用をもたらす。
このところ金価格が上昇しているが、これはコロナ対策に伴う各国の財政悪化リスクについて投資家が懸念した結果とされている。財政悪化で通貨の価値が毀損(きそん)するリスクがあり、それをヘッジするために金が買われるという理屈だ。
日本ではデフレが続いているというのが政府の表面的な見解なので、当局は決して口に出すことはないだろうが、金の比率を上げたということは、日本の通貨当局も財政悪化によるインフレを懸念していると見なすこともできる。
【次ページ】「日銀」のドル確保には、大きな意味がある…?
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