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  • 2021/09/20

「高圧経済」とは? イエレン氏の唱える「やり過ぎな経済策」が、日本に超必要なワケ

【連載】エコノミスト藤代宏一の「金融政策徹底解剖」

バブル崩壊以降、物価上昇率が低い状態が続く日本では、物価が上がらないことを前提とする経済活動が定着してしまった。こうした思考パターンを払拭し、日本経済を完全復活に導くためにはどうすれば良いか。経済復活のヒントになるのが、「履歴効果」と「高圧経済」だ。就職氷河期時代の日本の状況や、元FRB長官イエレン氏のとった経済政策などを振り返りながら、2つのキーワードを解説したい。

第一生命経済研究所 経済調査部 主任エコノミスト 藤代宏一

第一生命経済研究所 経済調査部 主任エコノミスト 藤代宏一

2005年、第一生命保険入社。2008年、みずほ証券出向。2010年、第一生命経済研究所出向を経て、内閣府経済財政分析担当へ出向し、2年間「経済財政白書」の執筆、「月例経済報告」の作成を担当する。2012年に帰任し、その後第一生命保険より転籍。2015年4月より現職。2018年、参議院予算委員会調査室客員調査員を兼務。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。担当領域は、金融市場全般。

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デフレマインドからの脱却のヒント、「履歴効果」「高圧経済」とは?
(Photo/Getty Images)

「履歴経済」とは

 まず「(負の)履歴効果」とは、端的に言えば「一時的な経済ショックが長期にわたってマイナスの影響を与える」ことである。

 何らかの理由で経済活動が急激に縮小すると、危機が終わっても経済活動のレベルがすぐに元の状態に戻らない傾向にある。危機時に本来使うべきおカネが削られてしまうことで成長の種が撒かれず、低成長が長期化してしまうことが一因だ。

 ここで言う「本来使うべきおカネ」とは、雇用や設備投資、すなわち労働者育成や最新設備導入、研究開発費など成長に必要なおカネである。そうした支出が過度に抑制されると危機が過ぎ去った後に、熟練労働者の不足に直面したり、新製品の開発が進まず技術革新が滞ったりすることで低成長が長期化してしまう。

 日本では1990年代前半のバブル崩壊から2000年代前半(ITバブル崩壊や金融システム不安)までの不況の影響で「就職氷河期」と呼ばれる極端な新卒採用の抑制が長期化し、その結果、人的資本の蓄積が進まず、長期停滞の一因になったとの指摘がある(※ちなみに「就職氷河期世代」とは1993年から2005年までに新卒就職活動に差し掛かった年代を指すことが多い)。

 またこの間、企業の設備投資や研究開発費が抑制されたことも大きい。1990年代まで高い国際競争力を有していた電気機器セクター(家電、半導体)において韓国、中国勢の追随を許しシェア低下につながったのも、この履歴効果で一部説明できるように思える。

 こうした過去の教訓を踏まえると、コロナ禍における日銀の責務は「履歴効果」を回避することにあるだろう。金融緩和手段を使いつくした日銀にできることは少ないが、資金繰り支援策を含めて十分な金融緩和策を講じたうえで、それを長期にわたって継続することにコミットし、金融緩和が続く安心感を醸成する必要がある。

 黒田総裁が、パンデミックが収束しても金融緩和を継続するという見解を示したのは、そうした認識がベースにあるからではないか。

 それでは、履歴効果を回避するにはどうしたから良いか。そのヒントになるのが「高圧経済」だ。

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バブル崩壊以降、長らく低い物価上昇率が続く日本……
(Photo/Getty Images)

「高圧経済」とは

 高圧経済と言えば、米財務長官のイエレン氏が象徴的な人物だ。2016年、当時FRB議長だったイエレン氏は「負の履歴効果が存在するならば、政策によって総需要を長期間刺激し続ける『高圧経済』を維持していけば、逆に、正の履歴効果が起きる可能性もある」と発言している。

 これはどういうことか。端的に言えば、景気が十分に回復した後も景気刺激策を講じ続けることで雇用や設備投資を力強く促していくという政策態度だ。経済ショックに見舞われた後は、高圧経済の実現によって人々の苦い記憶を払拭し、前向きな支出を促す必要があるという考え方だ。

 その点、米国の経済対策は「高圧経済」の実現という政策理念があるように思える。コロナ禍における米国の景気対策は1年半でマネーストック(民間非金融部門にあるおカネ)が3割強も増加する極めて巨額な規模で、マクロの家計所得は劇的に増加した。こうした「やり過ぎ」とも言える経済対策は負の履歴効果の回避に大きく貢献したと考えられる。


日銀の金融政策、「自民党総裁選」「コロナ」の影響とは?

 本校執筆時点では、自民党総裁選および衆院選の行方は判明しておらず、次期政権がどういった経済政策を発表するか不明確な部分は多い。ただし金融政策については、少なくとも黒田総裁が任期満了となる2023年3月まで大幅な変更は見込まれない。

 これまでの金融緩和の結果として、日銀の国債保有残高は約750兆円(2021年3月末時点)に達し、政府が発行済みの国債残高の4割強を占めるに至った。

 そうした状況を踏まえ、一部の識者は「金融緩和の修正」を主張しているが、よほど急進的な政権が誕生しない限り、政府主導で金融緩和路線が修正される可能性は低いだろう。2%の物価目標も維持されるとみられる。

 そもそも日銀の金融政策はパンデミック前後で大きく変化していないので、コロナ感染状況に関係なく、2%の物価目標が達成されるまで金融緩和を続けるという考えを示したに過ぎないのかもしれないが、いずれにせよ金融緩和の出口をほのめかす意図は伝わってこない。

 ちょうど5年前の2016年9月に始まった「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は長期にわたって継続するだろう。

■長短金操作付量的・質的金融緩和とは?
  • 「金利」
    短期金利をマイナス0.1%、長期金利をゼロ%程度(上限は0.25%)に維持するイールドカーブ・コントロール政策

  • 「量」
    長期国債の買い入れを軸とするマネタリーベースの拡大方針

  • 「質」
    ETF買い入れ(上限12兆円)

 黒田総裁のインタビューでは「企業も消費者も過去のデフレの状況に引きずられる傾向がある」、「デフレの影響が人々のマインドセット(思考様式)に残っている」という見解が示された。これらの見解は積極的な金融緩和にもかかわらず、なかなか物価が上がらない理由を説明する際に日銀がよく使うものだ。

 バブルが崩壊した1990年以降、物価上昇率が低い(下がる)状態にある日本では、物価が上がらないことを前提とする経済活動が定着してしまい、そうした粘着的な思考パターンを変革させるのには時間がかかるという。

 こうした思考パターンを払拭し、日本経済を完全復活に導くには、上記で解説した「負の履歴効果」を回避するために、「高圧経済」を参考にするという選択肢も考えられる。

 ワクチン接種が進展し、これから回復期に入っていくと期待される日本では「コロナが終わっても景気対策の手を緩めることはない」と政策当局がコミットする姿勢が重要だろう。金融緩和の手段が尽きた日銀は脇役に過ぎないが、だからといって出口戦略を急ぐ必要はない。

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