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- 2022/02/18 掲載
日銀が「国債無制限買い取り」に踏み込む理由、どうしても金利上昇を防ぎたい事情とは
国債価格と利回りの関係
日銀は2022年2月14日、10年物国債を対象に0.25%の利回りで無制限に買い取る、指し値オペを実施した。価格を指定して国債を購入するという措置は、主要国の中央銀行では日銀だけが実施しているものであり、今回の発動は3年ぶりのことである。債券の利回りと価格は互いに逆の関係になっている。債券の表面利率は発行時に設定されるので、途中で変動することはない。このため、債券の最終的な利回りは、その債券をいくらで買うのかで決まってくる。より安く買えば最終的な利回りが上がり、高く買えば、利回りが低下する。つまり利回りが高くなったということは債券価格が安くなったことを意味し、利回りが低くなったということは債券価格が上昇したことを意味する。
今回、日銀が国債を一定の利回りで買い取るのは、国債の価格下落(つまり利回りの上昇)を防ぐためである。何もせず市場に任せてしまうと、国債の価格が下がる(利回りが上昇する)可能性が高まっており、日銀が高値で買うことを保証することで、価格を一定水準に保つことが目的である。
国債価格に下落圧力がかかっているのは、全世界的なインフレによって各国の金利が上昇していることが原因である。金利が上がるということは、国債の価格が下がることを意味しており、日本国債だけが例外というわけにはいかない。当然、日本の国債市場でも売り圧力が高まっており、日銀は価格下落を回避するため、無制限の買い入れ実施を決めた。
ではなぜ日銀は、各国の金利が上昇しているにもかかわらず、国債を買い支えるのだろうか。その理由は、今の状況で金利が上がった場合、日本政府や日銀、さらには日本経済に極めて大きな影響が及ぶからである。
現状の日本経済や日本政府の財政は、超低金利が続くことを大前提に組み立てられている。住宅ローンのほとんどは変動金利で組まれており、ここ10年の間に、低金利をフルに利用して少々無理なローンを組む人が増えた。もし金利が上昇すると、住宅ローンの返済額が増えるので、家計にとっては大打撃となる。
日本政府の予算も影響を受ける。現在、政府は約1,000兆円の債務を抱えているが、もし金利が米国並みに2%に上昇した場合、最終的な政府の利払い費は20兆円に達する。金利が2%だったのはつい最近のことだが、この水準に戻っただけで、消費税10%分に迫る金額を政府は追加負担しなければならい。コロナ危機では10万円の特別定額給付金(約13兆円)をめぐって大騒ぎとなったが、金利が上昇すれば毎年、それ以上の負担が発生するという現実を考えると、給付金の議論など小さなレベルだ。
もっとも影響が及びやすいのは為替
金利が上がると、日銀のバランスシートも劣化する。金利が上がるということは、国債価格が下落することであり、大量の国債を抱える日銀には原理的に評価損が発生する。日銀は国債について簿価で評価しているので、表面的には損失は発生しないものの、市場がその理屈を額面通りに受け取ることはないだろう。そもそも日銀や政府当局は、民間の金融機関に対しては「簿価評価は不透明であり、時価で評価すべき」と強く求めてきた経緯がある。今さら、自身は簿価評価だといっても市場は信用しない。さらに言えば、額面以上で買った国債については、たとえ簿価であっても償還時に損失が生じるので、確実に日銀の自己資本が毀損する。いずれにせよ、今の日銀にとっては金利上昇だけは絶対に避けたい。民間も政府も日銀も金利が上がると困る(国債が下落すると困る)という状況であり、結果として、日銀は指し値オペに踏み切った。
日銀は理屈上、無制限に貨幣を発行できるので、日銀に立ち向かう投資家はいないはずだ。したがって、指し値オペを実施している間は、金利はほぼ確実に低く推移する。実際、指し値オペを実施した2月14日の公開市場操作では、0.25%の利回りで応札する機関投資家はゼロだった。
では、人為的に金利を低く設定した場合、弊害はないのだろうか。当然そのようなことはなく、市場を人為的に歪めれば、どこかにそのシワ寄せが行く。
最終的にどうなるのかはやってみなければ分からないが、最も影響が及びやすいのは為替だろう。
米国はインフレ対策からすでに金利上昇フェーズに入っており、今年の後半にかけて金利が一段と上昇する可能性が高い。欧州も基本的には米国に追随すると考えられる。そうなると主要国では日本だけが低金利という状況が続き、当然の結果として円が売られやすくなる。
指し値オペを発表した10日のドル円相場は一時、116円を超えたが、その後、少し落ち着きを取り戻している。相場はさまざまな要因で決まるので一概には言えないが、指し値オペの実施によってより円安が進みやくなったことだけは間違いない。
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