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- 2022/08/25 掲載
「驚異のペースでITパスポートを取得」百五銀行のデジタル研修による波及効果
前編はこちら(この記事は後編です)
専門性の高い研修で行員のスキルの底上げに成功
百五銀行が2021年度より展開する「デジタルリテラシー向上研修」には他の研修とは一線を画す特徴がある。たとえば、3部構成の研修のうちパート1は一般的なeラーニングながら「全員参加必須」であること、パート2の「ノーコード/ローコードでの業務アプリの開発」とパート3の「オリジナルアプリの開発」が、専門性の高い内容になっていることだ。前編では主に「デジタルリテラシー向上研修」導入の経緯、パート1の「eラーニング」とパート2の「ノーコード/ローコードでの業務アプリの開発」の内容について話を聞いた。パート1での行員の反応は良好だったとのことだ。パート2の「業務アプリの開発」では行員からさまざまな反応が返ってきたと若林氏は語る。
具体的にパート2の研修は、各参加者がチュートリアル動画を見ながらPower Platformの各ツールの使い方を学び、最終的に営業成績管理アプリを完成させるという内容である。
「『アプリ開発は想像以上に難しいものなんですね』という反応も目立ちました。研修で開発したのは営業成績の管理アプリです。誰かが営業結果を報告すると、その内容が上席にメールで届く仕組みになっていて、そのデータベースをBIで一覧できる機能が備わっています。しかし、参加者それぞれがデータベースに書き込みをすると、そのたびに結果の通知が約350人全員に届いたため、思わぬ負担になることも体験しました。どのような仕様が最も使いやすいのかを、ユーザー側だけでなく開発側の視点からも体験できた良い機会でした。」(若林氏)
パート2の「ノーコード/ローコードでの業務アプリの開発」の研修は、デジタルの利便性のみならず、デジタルの運用の難しい面を実感する場にもなったとのことだ。DXを推進するうえでは、プラス以外の要素にも目を向ける必要がある。より大きな視点を持つという意味でも、成果のあるものになったと若林氏は語る。
パート3の「オリジナルアプリ開発」は、パート2の延長線上にある研修だ。参加者が自分の業務で使えるアプリのアイデアを考え、FIXER社にアドバイスをもらいながら開発するというものである。たとえば、出張旅費精算のアプリ、債権書類管理のアプリ、新卒採用応募者の管理アプリなどのアイデアが寄せられた。ここまで専門性の高い研修は、金融機関では極めて珍しい。若林氏はパート3を設けた理由を次のように説明する。
「パート3を作るかどうかは、悩んだところでした。しかし、せっかくパート2で業務アプリの開発を体験するのだから、そこからさらに底上げしていくとどこまで行けるのか、もう一歩進んだ出口を設定すべきだと考えました。業務をアプリ化するだけでなく、自分のアイデアを具現化するところまで体験してほしかったのです。組織全体にも、ここまで行ける可能性があることを示したいという狙いもあり、3部構成にしました」(若林氏)
「デジタルリテラシー向上研修」がもたらした他の研修への波及効果
パート3の「オリジナルアプリ開発」は公募制が取られた。当初の予定人数7名に対し、40名近くの応募があった。「最終的には13名まで絞りました。FIXER様にマンツーマンで指導してもらうため、7名に設定にしたのです。しかし、予想以上の応募があったため、参加可能な限度の13名に変更しました。パート2で優れた作品を作ってくれた人や斬新なアイデアを出してくれた人を優先的に選びました。あとは各部署に散らばるようにということも意識しました」(若林氏)
パート3の研修はパート2から1~2カ月の間をあけて、2021年の秋に行われた。このパート3でも確かな手応えがあったと若林氏は語る。
「ここからさらにパート3で寄せられたアプリのアイデアを具現化していきたいところなのですが、ハード面での課題があるため、現在は開発をストップしています。開発しても、現状では全店展開できないため、環境の整備を待っている状態です」(若林氏)
「デジタルリテラシー向上研修」の成果が具体的な形になるのは、もう少し先になるとのことだ。しかし、現時点でも研修の成果を多く実感すると若林氏は語る。
「2020年は『デジタル化の検討』、2021年は『デジタルを体験してもらう』、そして2022年度は『学びと知識の定着』をテーマにしています。当行ではITパスポートの取得を推奨しているのですが、驚くようなペースで取得する行員が増えています。ITパスポートを取ってから研修を受けるというのが一般的な流れかもしれませんが、あえて逆にしたのは、強制的にではなく、自発的にITパスポートを取得してほしかったからです。その意味では狙いどおりの効果が出ていると考えています」(若林氏)
若林氏が所長を務めている研修所ではさまざまな研修を開催している。休日に行った「基礎的Excel関数習得セミナー」も予想を超える盛り上がりになったという。
「参加者は30名くらいだろうと予想して、1クラス50名を定員として設定しました。申込期間は2週間ほどあったのですが、1日目で応募者が50人を突破しました。あわてて業者に頼んで、講師も倍に増やして、定員100名としたのですが、2日目の昼過ぎには100名に到達してしまったのです。デジタルに対する意識の底上げを進めた結果、参加意欲が高まったのではないかと分析しています」(若林氏)
【次ページ】デジタル研修のその先に百五銀行が描くDX戦略の未来像とは?
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