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  • 2024/01/18 掲載

【対応必須】金融機関向け「2024年の3大トピック」、その共通項は何か?

大野博堂の金融最前線(70)

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災難続きで迎えた2024年ではあるが、その中で筆者は、2024年に金融機関を待ち受けるトピックとして「3つの課題」、すなわち経済安全保障対応とこれに関連したセキュリティクリアランス、さらには急激なDXの進展を踏まえたITガバナンスの強化に注目したい。いずれも金融機関のみならず、顧客との取引にも甚大な影響が想定されるだけでなく、必ずしも問題意識が醸成されていない点に留意する必要がある。

執筆:NTTデータ経営研究所 パートナー 金融政策コンサルティングユニット長 大野博堂

執筆:NTTデータ経営研究所 パートナー 金融政策コンサルティングユニット長 大野博堂

93年早稲田大学卒後、NTTデータ通信(現NTTデータ)入社。金融派生商品のプライシングシステムの企画などに従事。大蔵省大臣官房総合政策課でマクロ経済分析を担当した後、2006年からNTTデータ経営研究所。経営コンサルタントとして金融政策の調査・分析に従事するほか、自治体の政策アドバイザーを務めるなど、地域公共政策も担う。著書に「金融機関のためのサイバーセキュリティとBCPの実務」「AIが変える2025年の銀行業務」など。飯能信用金庫非常勤監事。東工大CUMOTサイバーセキュリティ経営戦略コース講師。宮崎県都城市市政活性化アドバイザー。

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金融機関に向けた「2024年の3大テーマ」
(Photo/Shutterstock.com)

経済安全保障対応の対象とならなかった金融機関への影響

 2023年秋、政府は14のインフラ分野を対象に、経済安全保障法令の対象となる金融機関を公示した。したがって、一般的に経済安全保障対応は、法令の対象とされる一部の金融機関にのみ課せられる対規制であるとの認識が広まっている。

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経済安全保障推進法の概要
(出典:内閣官房「経済安全保障推進法案の概要」)

 たしかに、法規制の対象とされた金融機関には勘定系システムの更改や運用において直接的な影響が及ぶはずでその対応の難度は高いことだろう。

 ただし、対象外とされた金融機関にも間接的に経済安全保障の影響が及ぶ可能性が出てきた。これは、経済安全保障の対象が14ものインフラ事業者に及ぶことに起因している。

 すなわち、自行庫が法規制を免れた場合であっても、融資先企業や重要な提携先・連携先さらには出資先企業が、インフラ事業者として他省庁による法規制下に置かれるケースがこれに該当する。以下のようなシーンが想定されるわけだ。

 自行庫の融資先企業である地元電力会社のA社が電力設備の更改を行うこととなり、当行庫も融資に応じたとする。A社は経済産業省が指定する特定社会基盤事業者とされていた。

 ところが、後日、A社からの設備更改に関する事前届出を受けた政府が経済安全保障対応にかかる審査を実施したところ、A社の予定する新たな設備の枢要部分に特定国の技術に依存する機能が組み込まれていることが判明した……。結果、審査手続きは凍結され、A社の設備投資計画が大きく変更となっただけでなく、資金繰りに窮したA社事業に行き詰まり、ついには事業継続すら危ぶまれる状況に陥り、当行庫への返済も滞った……。

 こうしたリスクを想定するならば、預金取扱金融機関として、想定される融資先が属する業界に下達される経済安全保障関連ガイドラインなどにすべて目を通す必要があるだろう。そのうえで、当該業界にいかなる法規制が及び、いかなるリスクを抱える可能性が想定されるかなど、個別具体的なアセスメントを実施しておくことが望ましい。

 また、こうした事前準備動作は必ずしも営業部門が担うだけでなく、融資審査部門やリスク統括部門を中心に、全14のインフラ事業者向けの関連ガイドラインを精査し、必要なアセスメントを実施のうえ、営業部門との間で必要情報を共有する、といった組織横断的な対応が有効となりそうだ。

 さらには、金銭消費貸借契約などにおいて財務制限条項に近しい要件を組み込むことも考慮に入れるべきだろう。もちろん、融資先企業には事前に経済安全保障対応を目した融資手続き上の課題や論点を整理して書面などの交付により理解を求めるといった事前準備も欠かせない。

 なお、経済安全保障対応は、サイバーセキュリティ対応の厳格化そのものである。かつて自行庫の対応の高度化が中心とされてきたものが、その後にグループ企業の対応にも拡大し、さらに、これがサードパーティにまで対象領域が拡がってきた。これを国家的な規模に昇華したものが経済安全保障対応の位置付けだ。

 経済安全保障対応では、システムを開発する事業者や再委託先(末端に至るまで)の株主や役員の国籍情報を含めた機微情報を政府に届け出る必要があることが昨秋に公布された内閣府令によって明らかとなった。

 具体的には該当者のパスポートのコピーもしくは住民票に本籍地を記載したものの写しを金融機関が徴求し、これを政府に届ける仕組みとなった。諸外国では当たり前ではあるものの、本邦企業や金融機関では、顧客の国籍を特に意識することなく受け入れてきた経緯があるが顧客の国籍を把握していない金融機関の存在は、他国では少数派ではなかろうか。

 サイバーセキュリティの一環で情報管理の高度化が要請される中、このように徐々に法人であっても個人であっても国籍そのものに注目せざるを得なくなりつつあることに注意が必要なのだ。 【次ページ】「セキュリティ・クリアランス」「2024年の金融機関通底テーマ」

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