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  • 2024/01/24 掲載

今、なぜ「貯蓄から投資」が加速してる? その背景にある“不都合な事実”とは

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日本の個人金融資産において、株式の比率が顕著に上昇している。貯蓄から投資への流れが始まった可能性が高いが、背景には何があるのだろうか。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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日本の個人金融資産において、株式の比率が顕著に上昇しているが、その背景には何があるのか?
(Photo/Getty Images)

日本人の投資行動が変わり始めた

 日銀が発表した資金循環統計によると、2023年9月末時点の個人金融資産の総額は前年比5%増の2,121兆円と、過去最大となった。相変わらず現預金の比率が高いものの、顕著な伸びを示したのは、株式や投資信託などの投資商品であった。株式は前年同期比で30.4%もの増加、投資信託も17.4%の増加となり、これまでにはない顕著な伸びを示している。

 日本人は異様なまでの貯金好きと言われ、これまでは個人金融資産の半分以上が銀行預金であった。保険や年金などを含めると、投資の比率は10%程度であり、投資が半分を占める米国とは顕著に異なっていた。政府は以前から、現預金に偏っている資産の一部を株式市場に回せるよう、「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げてきた。だが日本人の行動は一向に変わらず、これまでは基本的に貯金一辺倒だったと考えて良い。

 銀行は預かった資金を遊ばせているわけではなく、企業などに貸し出され、市場に出回っていくことになるが、近年は日本経済が著しく低迷しているため銀行の融資は伸び悩んでいる。一方で政府は莫大な借金を抱えており、結果的に銀行預金の多くは国債の消化に充当され、政府の赤字補填に使われるという状況が続いてきた。

 このままでは企業の資金調達環境が改善せず、前向きな設備投資が行われないといった問題が指摘されていたものの、なかなか資金の流れが変わらなかったというのがこれまでの経緯であった。

 ここにきて投資資金の比率が急上昇したということは、いよいよ日本人の投資行動が変わり始めたことを示唆しているのだが、なぜ、このタイミングでマネーが動き始めたのだろうか。背景となっているのは、やはり公的年金など将来に対する不安心理だろう。

 日本の公的年金は、平均的年収(40代で年収400万円程度)を稼いでいた人の場合、月額15万円程度が支給されているが(厚生年金)、将来的には2割から3割の減額が見込まれている。平均的な給与の人では、安心して老後の生活を送ることが難しくなっており、労働を継続すると同時に、自らリスクを取って資産を構築する必要性が高まっている。

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なぜ、このタイミングでマネーが動き始めたのだろうか?
(Photo/Shutterstock.com)

集まった資金はどこに向かうのか?

 これまでの時代は、株式投資といえば高齢者と相場は決まっていたが、近年は若い世代における投資への関心が高まっているという点で従来と大きく異なっている。政府もNISA(少額投資非課税制度)を大幅に拡充するなど、大盤振る舞いとも言える推進策を実施しており、これも投資資金拡大に寄与した可能性が高い。

 個人の金融資産が銀行預金に偏り、銀行以外のルートで企業に資金が回りにくいという、これまでの課題を考えると、貯蓄から投資へという流れが見え始めたことはポジティブに評価して良いはずだ。ところが、必ずしも手放しで喜べないところが、今の日本を象徴している。その理由は、貯蓄から投資へという変化が発生している背景には、国民の日本経済に対する将来不安があり、銀行から引き出された資金が、国内企業の資金調達に充当されない可能性も指摘されているからである。

 銀行から資金が引き出され、これが株式投資に回った場合、株を売却した人が存在しているので、最終的に銀行預金の総額プラスマイナスゼロとなる。株価が上がっていけば、その分だけ株式の時価総額は増えるので、日本経済全体にとっては純粋にプラスに働く。

 だが、銀行から引き出された資金が日本ではなく、外国への投資に向かった場合、そうはいかなくなる。新NISAがスタートしたこともあり、ネット証券各社はキャンペーンを打って顧客獲得競争を繰り広げている。だが、皮肉なことに、各社がもっとも宣伝に力を入れているのは、米国株など外国の株式であり、この事実は、投資家の多くが日本ではなく外国への投資に関心を示していることを端的に物語っている。

 今後も貯蓄から投資へという流れが活発化し、資金が国外に向かった場合、これは相当程度の円安圧力として市場に作用することになるだろう。 【次ページ】投資家増えても……日本株は選ばれない?

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