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- 2024/05/14 掲載
爆増するノマドワーカーが日本殺到?「経済効果121兆円」でもただよう“不穏な”空気
連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

米国人ノマドワーカー、たった3年で「131%増加」
デジタルノマドが世界にもたらす経済効果は、年間7,870億ドル(約121.4兆円)に上るとする推計がある。誰がそのような巨額の経済効果を生み出しているのだろうか。世界におけるデジタルノマドの国籍分布を調べた統計によれば、ダントツで多いのが米国の48%で、ノマドワーカーのおよそ2人に1人が米国人だ(冒頭の図1)。
そのほかに多いのが、英国の7%、ロシアの5%、カナダとドイツの4%、フランスの3%と続く。日本は、全体の1%に当たる40万人がノマドワーカーであるとされる。
次に、2019年から2023年の米国人ノマドワーカーの人口推移を見ると、2019年に730万人に過ぎなかったものが、2022年には1690万人と131%も増えている(図2)。これは、新型コロナの流行によるリモートワークの急伸が決定的な役割を果たしたと見られる。

しかし、なぜ、リモートワークに「短期間の旅行」というノマド的な要素が組み合わさり、海外滞在が増えたのか。
ノマドワーカー急増の「2つの要因」
背景として考えられる重要な要因は高インフレだ。2022年6月に、前年同月比9.1%に達してピークをつけた(図3)。
デジタルノマドが急増した2021年と2022年は、米国の消費者物価が上昇を続けていた時期と重なる。ハーバード・ビジネススクールのプリスウィラジ・チョードリー教授は、「米国における住宅費は2023年に、1950年と比較して326.1%も上昇している」と指摘。
さらにチョードリー教授は、「若年層は生活費を節約する手段としてノマドワークを選択肢に入れており、米国に仕事を持つ一方で海外の比較的安価な生活を採用している。これにより、(学費ローンなどの)負債返済のペースを上げ、貯蓄も可能となる」と分析している。つまりインフレが収まれば、増加ペースも鈍化する。
実際に、図2と図3を照らし合わせてみると、米国のインフレが3%台まで沈静化した2023年から2024年における米デジタルノマド人口の伸びは鈍化しており、ほぼ横ばいの1730万人(2%増)と予想されている。
米国人ノマドワーカーが増えた要因がもう1つある。それが、インフレ対策として米連邦準備制度理事会(FRB)が実施した急速な利上げによってもたらされたドル高である。これにより、米ドルの相対的な購買力が強くなり、ノマド的ライフスタイルがより合理的なものになったのだ。
実際に、複数の主要通貨に対する米ドルの為替レートを指数化した名目ドル指数は、2021年の年初から2023年の年初にかけて大幅に伸び、現在も高止まりしている(図4)。

このように見ると、デジタルノマドが米国で急増した要因が、パンデミックによるリモートワークの普及、パンデミック中の経済封鎖が引き起こした高インフレ、物価上昇を退治するための利上げがもたらしたドル高など、1つの疫病現象が連鎖して増幅された結果であることは大変興味深い。
では次に、典型的なノマドワーカー像を分析してゆこう。
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