- 2025/06/14 掲載
コロナ禍が暴いた「会社の本音」──社員の心が一気に離れていったワケ
1966年生まれ。一橋大学大学院修士、慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。野村総合研究所、ワトソンワイアットにて、組織開発、人材開発に関するコンサルティングに一貫して従事。2007年ジェイフィール設立に参画。組織感情、つながり力、コネクティング・リーダーなど、日本企業再生に向けた新たなコンセプトを次々に提示し、「感情とつながりを再生し、良い感情の連鎖を起こす」ための組織づくり、人づくり支援している。2010年より現職。2013年より東京理科大学大学院イノベーション研究科教授、2018年より武蔵野大学経営学部特任教授を兼務。2008年に出版した『不機嫌な職場』(共著、講談社)は28万部のベストセラーとなり、職場に焦点を当てた組織変革への動きをつくり出した。その他、『職場は感情で変わる』(講談社)、『人が「つながる」マネジメント』(中経出版)、『ワクワクする職場をつくる。』(共著、実業之日本社)など著書多数。
「前向き」な気持ちで職場から心が離れていく人たち
前回触れた、心が離れていく社員の中にも、前向きな気持ちで離れていっている人もいます。それは今までの自分の働き方、生き方を積極的に見直したいという人たちです。会社中心、仕事中心の論理の中で、目の前の仕事に邁進することが働くことであり、自分を成長させることにつながると信じてここまで頑張ってきたベテラン社員。
そこまで前向きではないけれども、そうしなければならないというプレッシャーの中で、自分の仕事をやり切る、成果を出すことに責任感を持って取り組んできた中堅社員。
そうした人たちの中で高い成果を上げて、さらに多くの責任と負担を負いながら、会社中心、仕事中心の生き方の象徴のように思われてきた管理職。
それを見て、自分には真似できない、同じようにはなれない、私生活まで犠牲にはしたくないと、管理職やリーダーという立場から距離を置こうとする女性社員や若手社員。
本来は、こんなに簡単にタイプ分けをしてはいけないのかもしれません。ただ、それぞれが今までの企業のあり方、働き方、自分の暮らしとのバランスに悩みながら、それを当たり前だと受け入れてきた人、考えることを避けてきた人、心はすでに離れてしまっていた人がいるのです。
これまでの働き方に疑問が生まれ、「真の自立」を始めた
そうした人たちの中には、コロナ禍を経験し、これまでとは違う働き方、人との関わり方を体感したことで、今までの当たり前がすべてではないことを知り、自分の心の声と向き合い始めた人たちがいます。会社が言うから、仕事だからと割り切って働いてきたことに違和感や疑問が生まれ、自分が本当はどうしたいのかを考え始めた人たちです。もしかすると、そうした人たちは「真の自立」を始めたのかもしれません。
経営や人事は、よく社員に「自立、自律」と言ってきましたが、それは企業社会の中で、自分で考え行動し、自力で成果を上げられる人という意味で使われてきました。でも、本来の自立とは、自分の意思を持って、自分で判断して踏み出し、自分を正しいと思う方向に導くこと。会社の中での自立ではなく、自分という存在自体の自立を始めたのです。
会社と、職場と、仕事と、いったん距離を置いてみたときに、本当にこの場所は自分を幸せにしてくれる場所なのか、本当にこの仲間と一緒に働きたいと心から思えているのか、本当にこの仕事が自分のやりたいこと、自分を心から動かしてくれるものなのかを考え始めてしまった。あなたもどこかでそんなことを考えるようになっていないでしょうか。
特にリモートワークを経験した人の中には、自分自身の人生設計、働き方を根本から見つめ直そうという人も多くいます。
家族との時間が増え、家事や育児の時間も持てるようになった。仕事一辺倒だった生活、家のことはパートナーにまかせっきりだった人も、実際に一緒にやってみるとその苦労も、楽しさも、大切さも実感できた。会社中心、仕事中心の毎日、それを当たり前だと受け入れてきた自分が本当にこのままで良いのかと思い始めた人もいます。
女性で頑張ってきた人の中にも、子どもを小さいうちから保育園に預けていることに後ろめたい自分がいたけれども、子どものそばにいることで、ちょっとした合間にも様子を見たり、世話をしたり、触れ合うことができる。その瞬間、心の負担も解放される。だからますます仕事も頑張ろうと思える。そんな話もよく聞きました。中には、実際に郊外に引っ越す、田舎に移住する、働き方を変える、自分に合った働き方ができる会社に転職するという人も出てきました。 【次ページ】コロナ禍という異常な状態が突きつけた「問い直し」
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