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- 2025/05/15 掲載
AIで「週4日労働」がいよいよ現実に。実現はいつか?
AIが切り拓く週4日労働の新時代
AI技術の急速な進化により、これまで多くの企業で困難とされてきた週4日労働制の実現可能性が高まっている。2024年12月の調査によると、すでに米国の就労者の30.1%が生成AIを業務に活用していることが判明。これらのAIユーザーらは、従来90分を要していた作業をわずか30分で完了させることができるようになったと報告している。
この生産性向上は、特に、OpenAIのGPTモデルに代表される大規模言語モデル(LLM)の進化、o3やDeepSeek R1などの推論モデルの台頭、またエージェントフレームワークの刷新によるところが大きい。
これらの技術が、メール作成からデータ分析、書類作成に至るまで、さまざまな業務を自動化・高速化することで、従業員の作業効率を劇的に向上させているのだ。
特に注目されるのが、AIが一般的なナレッジワーカーの業務時間の53%を占める「単純作業」を効果的に処理できるようになっている点だ。
たとえば、マイクロソフトのCopilot for Officeは、長文メールの要約や文書の初稿作成を自動化。また、Zoomのエリック・ユアンCEOが指摘するように、会議の文字起こしやアクションアイテムの自動生成により、かつて丸一日を費やしていた作業が大幅に効率化されている。
企業レベルでAIを導入する動きが加速していることも生産性の大幅改善の背景にある。
2024年後半の調査では、実に78%の企業が少なくとも1つのビジネス機能でAIを活用。さらに71%の企業が日常的に生成AIを使用していることも明らかになった。具体的な用途としては、文章作成(63%)、画像生成(36%)、コード作成(27%)が上位を占め、創造的・技術的業務の効率化を実現している。
具体的な事例も増えている。ある米国の信用組合では、デジタルファイル管理用ツールの導入により、2024年だけで6000時間の労働時間削減を見込む。また、アライ・フィナンシャルは、1日約1万件の顧客通話を自動文字起こしするAIプラットフォームにより、年間3,000万ドルのコスト削減を達成。これにより、従業員はノートテイキングではなく、より質の高い顧客サービスの提供に注力できるようになったという。

週4日制がもたらす想定以上の効果
AI技術の向上に加え、週4日制自体がROIの向上につながる可能性を示す調査も労働時間短縮の取り組みを後押しする要因になっている。たとえば、米国とカナダで35社約2000人の従業員を対象に実施された大規模な実証実験では、労働時間を32時間に短縮(給与据え置き)したにもかかわらず、パフォーマンスは低下しなかったことが明らかになった。むしろ、実験期間中の売上は平均8%増加。さらに、前年同期比では37.6%の成長を記録し、通常の週5日制を採用する競合他社を大きく上回る成果を示したという。
この結果は、「労働日数の削減が生産性の低下につながる」という従来の通説を覆すものとして注目を集める。実験に参加したほぼすべての企業が、パイロット期間終了後も週4日制を継続することを選択。業務フローの最適化により、4日間で5日分の成果を達成できるという「100-80-100」の原則(100%の給与、80%の時間、100%の生産性)が実証されたことになる。
より重要なのは、この実験はAIが普及する少し前の2022年に実施されたことだろう。AIにより、生産性が大幅に向上した今、多くの企業が、実験と同様またはそれ以上の生産性向上を容易に実現できるようになっていると言えるのだ。
投資対効果(ROI)の観点からも、週4日制は魅力的な選択肢となっている。オフィス稼働日の削減によるエネルギーコストや施設維持費の低減に加え、人材採用・定着率の向上による経営効果も顕著だ。
英国のAtom Bankは、週4日制の導入を発表後、求人応募が49%増加。さらに、従業員の離職率も大幅に低下したという。
従業員のモチベーションと健康面での改善もROIに大きく貢献している。北米でのパイロット実験では、ストレスや燃え尽きレベルが著しく低下。わずか数カ月で、従業員の身体的・精神的健康状態が改善されたことが報告された。
顧客満足度への好影響も見逃せない。Atom Bankの経営陣は、週4日制への移行後、顧客満足度が向上し、生産性を維持したまま収益性が改善したと報告した。従業員の過重労働が軽減されることで、サービスの質が向上するという好循環が生まれている。
また、育児中の親や介護者、副業・兼業を目指す人材など、より幅広い層からの採用も可能になるという。実際、実験に参加した企業の86%が、そのメリットがコストを上回るとして継続を決定している。 【次ページ】週4日制への移行における課題と対応策
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