• 2025/09/23 掲載

Klarna(クラーナ)とはどんな企業か?小売店「売上増の救世主」から「買い物のOS」への革新(3/3)

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日本市場での展開状況

 一方、Klarnaは欧米に比べて日本ではまだ存在感が薄い。2020年に楽天との協業の可能性が報じられたが、現時点で大規模な事業展開は確認されていない。

 日本市場はすでにクレジットカード決済や後払いサービス(NP後払いなど)が普及しており、独自の商習慣が強い。さらに規制面でも割賦販売法がBNPLの自由度を制限している。

 このためKlarnaは日本を「重点市場」としては見ていないが、アジア拠点としてシンガポールや韓国での活動を強化しており、将来的に日本展開を再検討する可能性は残されている。

導入事例:H&MやIKEAも導入、その成果とは

 Klarnaは世界中で多くの大手小売業者と提携している。米国ではMacy’sやSephora、Nike、H&Mといった企業が導入しており、欧州ではIKEAとの協業も行われている。

 これらの導入事例では「購買率が平均20%向上」「返品率が低下」といった成果が報告されており、単なる決済手段以上の付加価値を提供していることが裏付けられている。

 Klarnaはフィンテック業界の中でも評価が二分される存在だ。一方では「消費者の購買力を支える金融インフラ」として賞賛され、ForbesやFinancial Timesは「フィンテック復活の象徴」と表現している

 一方で、過剰債務リスクや若年層の衝動買いを助長するとの批判も根強い。経済学者の一部はBNPLを「クレジットカードのリスクを見えにくくした新手法」と指摘しており、規制強化の対象になる可能性を警告している。

 つまりKlarnaは「イノベーションの旗手」であると同時に「金融リスクの温床」と見られる両義的な存在であり、その評価は立場によって大きく変わるのだ。

将来に向けた成長戦略と投資の方向性

 KlarnaはIPOで得た資金を、AIとデータ解析の強化、そして米国を中心とした新市場開拓に振り向けている。

 特にAI分野では、購入履歴や検索行動をもとにした「パーソナライズド・ショッピング体験」を重視しており、2025年には自社開発のAIレコメンドエンジンを導入した。これにより、アプリ上での購入完了率が15%以上向上したと報告されている。

 また、収益多角化の一環として広告事業や中小事業者向けの金融ソリューション(マイクロローン、リワード型広告など)にも注力している。投資先としては北米とアジア市場が中心であり、すでにシンガポールを拠点にASEAN諸国への進出準備を進めている。単なるBNPLではなく「買い物のOS」を目指すのがKlarnaの長期的な方向性だ。

 一方で、Klarnaの成長には明確なリスクも伴う。最も大きいのは、BNPLサービス全般に対する規制強化だ。米国や英国ではすでに「消費者が返済能力を超えて利用していないか」を確認する規制導入が検討されており、今後は審査コストや利用制限によって成長が鈍化する可能性がある

 また、金利上昇局面では利用者が分割払いを選ぶインセンティブは高まるが、同時に延滞リスクも増す。加えて、競合他社とのシェア争いが激化する中で、広告や新サービスへの投資が先行すれば収益が再び圧迫される懸念も残る。

 Klarnaが持続的に成長するためには、規制遵守とリスク管理のバランスを取りながら「金融機関としての信頼性」を築くことが不可欠だ。

Klarnaの将来の見通しと成長シナリオ

 Klarnaの将来は「2つの道筋」に分かれると考えられる。1つは、BNPL市場の規制強化を受けながらも、広告や金融サービスの多角化で収益を安定化させるシナリオだ。この場合、既存の小売業者ネットワークとAIによる購買最適化を武器に、安定成長企業として定着する。

 もう1つは、リスク管理や規制対応に失敗し、再び評価額を落とすシナリオである。特に、若年層の過剰債務問題が社会的議論となれば、ブランドイメージに深刻な影響を及ぼしかねない。

 とはいえ現時点では、投資家は「第二の成長期」に期待しており、特に米国市場でのシェア拡大とアジア進出が成功すれば、2020年代後半に再び時価総額300億ドル規模への回復も射程に入るだろう。

まとめ:金融サービスの域を超えたフィンテック企業に

 Klarnaはスウェーデン発のBNPL企業として急成長を遂げ、一度は市場の逆風で評価を落とした。しかし、2025年のIPOを機に再び注目を集め、AIや広告といった新領域で収益モデルを拡張している点は評価すべきだろう。

 競合がひしめく中でも「ショッピング体験のOS」を標榜する姿勢は、単なる金融サービス企業の枠を超えている。

 ただし、過剰債務リスクや規制強化といった潜在的な課題は依然として大きく、その克服が次の成長のカギを握る。

 Klarnaの歩みは、フィンテック企業が直面する栄光と試練の縮図であり、その行方は金融業界だけでなく小売業界にとっても重要な示唆を与えるものとなるだろう。

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